プライバシー規制時代の測定設計思想
セッション「From Policy to Practice(法規制を測定実務へ落とし込む)」では、CCPA施行後の混乱やFTCからの警告事例を通じて、データプライバシー対応の現場で起きている変化が共有されました。特に重要だったのは、「データクリーンルームもプライバシー法の適用対象である」という明確な指摘です。
多くの企業が「匿名化されたデータであれば法的リスクはない」と考えてきましたが、欧州では“完全な非識別化は実質的に不可能”という前提が広がりつつあります。つまり、匿名化や非識別化だけでは不十分で、そもそも「何のためにどれだけのデータが必要か」を問い直す必要があるのです。
また、データクリーンルームやAIも「魔法のボタン」ではありません。特にリテールネットワークでは、目的やコスト対効果を慎重に評価し、段階的にオペレーション測定へ移行する事例が増加しています。導入が自己目的化してしまうリスクを避けるためにも、「少なく、深く」の設計思想がこれまで以上に求められています。
その測定に仮説はあるか?未来に向けた測定原則の再構築を
AIやプライバシー対応といった技術的進化に目を奪われがちですが、セッション「From Policy to Practice」の全体を通じて繰り返し強調されたのは「測定はリサーチである」という基本原則です。測定はあくまで学習の一環であり、その成果を意思決定にどう結びつけるかが本質です。
仮説を立てずにデータを収集しても、活用されずに終わる可能性が高い。むしろ「なぜ測るのか」「どの仮説を検証したいのか」という設計思想こそが、測定の価値を左右します。
日本の現場では、定期レポートや広告指標のモニタリングに留まる傾向がありますが、これからの測定には「問いの質」「意思決定との接続性」「最小限データで最大限の示唆を導く設計力」が求められます。
測定はもはや“後工程”ではなく、戦略の前段階に組み込まれるべき「設計行為」です。AI活用もプライバシー対応も、そのための思考再設計から始まる――本サミットは、その事実を改めて浮き彫りにしました。
後編では、「メディア横断での効果測定(MMM)の再設計」「データ依存からの脱却を可能にする“人間中心”の測定文化」という視点から、「2025 IAB Measurement Leadership Summit」のセッションをピックアップしてレポートします。
