TikTok時代のMMM──“アンペイド接点”をROIに変えるには

セッション「Cracking the MMM Code for Emerging Platforms(新興プラットフォーム時代のMMM再構築)」では、TikTokやInstagramなどの新興チャネルにおける測定の難しさと、MMM再構築の必要性が強調されました。
特に課題とされたのは、クリエイターコンテンツによる“アンペイド”な接点(オーガニック投稿や非有料タグ付きの拡散)を、従来の有料広告中心のROIモデルで捉えきれないという点です。実際、ある大手ブランドでは、トップビュー型のコンテンツが従来フォーマットの1.8倍のROIを記録しており、これを測定するにはタクソノミー設計や自然言語処理のような手法が不可欠です。
さらに、広告配信から購買に至る因果関係を可視化するためのAPI連携やLTVベースでの最適化は、まさに「アウトプットからアウトカム」へのパラダイム転換の実践と言えるでしょう。日本企業においても、KPIレベルでの追跡に留まらず、顧客との“関係性”や“行動全体”を測定可能なロジックを柔軟に導入する視座が必要です。
測定の未来は「問いの質」で決まる

「From Talk to Action(議論から実証へ:測定を研究として捉え直す)」というセッションでは、測定の未来に関する議論の中で「測定はリサーチである」という原点への回帰が強く訴えられました。
特に注目されたのが、ID依存からの脱却と“地理的実験”というアプローチです。Zipコード単位でのA/Bテストにより、個人データを用いずに施策の因果を測定する手法は、プライバシー保護とビジネス成果を両立させる点で先進的です。
また、ツール導入や自動化だけでは測定は成功しないという意識共有も重要でした。あらゆる施策は「何を知りたいのか」「なぜ測るのか」という問いと結びついて初めて意味を持ち、データは単なる報告ではなく意思決定の“土台”となるべきなのです。
同時に、日本市場特有の課題として、ラストクリック文化による「今見える数字」偏重が挙げられます。短期的な成果だけに基づいて戦略を動かすのではなく、見えていない指標や影響をどう測定可能にするかに挑戦することこそ、遠回りに見えても長期的競争力につながるのです。ツールや自動化はあくまで手段であり、「何を知りたいのか」「なぜ測るのか」という問いの質が、最終的な成果を左右します。
測定とは、もはや“後工程”でも“効率化手段”でもありません。戦略の上流で“問いを立てる”行為であり、それが企業の競争力の源泉になり得る──そう感じさせられるセッションの数々でした。
おわりに
IAB Measurement Summitレポートの前後編を通じて見えてきたのは、測定の本質が技術やツールの進化だけではなく、「設計思想」と「問いの質」にあるということです。MMMやインクリメンタリティ、MTAといった手法をどう組み合わせ、どう現場の意思決定に結びつけるか――その中心に人間の判断と創造性があります。
レポートの中でも触れましたが、測定はもはや後工程ではなく、戦略の源泉です。AIや自動化、プライバシー対応のすべてを、“人間中心”の設計思想に組み込むこと。それこそが、これからのマーケティングにおける真の競争力となるというメッセージを、本レポートを通じてMarkeZine読者の皆さんに強く伝えたいです。