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MarkeZine Day 2025 Autumn

売上計画比2倍の花王「THE ANSWER」が戦略の実行プロセスを公開 鍵は感情ニーズ×スクラム組織

 9年連続でシェアを落とし続けていた花王のヘアケア事業。事業変革に乗り出し、2024年に投入した「THE ANSWER」は、売上計画比2倍を達成し、わずか10ヵ月で出荷150万本を突破。同社のマーケットシェアもV字回復した。逆転劇を支えたのは、感情軸でのブランドポジショニングと、スクラム組織による高速PDCAだ。同社ブランドマネージャーの野原聡氏とシニアマーケター山岡智弘氏が、MarkeZine Day 2025 Autumnで、ヘアケア事業部の戦略とその実行プロセスの全容を語った。

ハイプレミアム市場の浸透で、ヘアケア事業が低迷

 近年、ヘアケア市場ではハイプレミアム製品(1,400円以上の価格帯製品)が成長を続けている。2015年頃から各メーカーがハイプレミアム製品を次々と市場へ投入し、その増加は進み、市場40%を占めるほどとなった。

 そんな状況の中、「メリット」や「Essential(エッセンシャル)」などマス市場向けブランドを擁する花王は、ヘアケア市場において9年連続でシェアを落としていた。そこで、2023年から事業変革を開始し、ハイプレミアム市場への本格参入を決断。2024年春に「melt(メルト)」、同年秋に「THE ANSWER(ジ・アンサー)」を発売した。

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ハイプレミアム市場向けに、3ブランドを発売。既存3ブランドもリブランディングを行った
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 「花王は、これまでマス市場に向けた製品を販売し続けてきました。しかしハイプレミアム製品の市場の動きと既存製品への不満の声から、『100年間研究を続け、高い技術力を持つ花王なら、より良い商品体験を届けられるのでは?』と考えたのです」。そう話すのは、同社のヘアケア事業の変革を担うブランドマネージャーの野原氏だ。

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花王株式会社 ヘアケア事業部 ブランドマネージャー 野原聡氏

 野原氏によると、「melt」と「THE ANSWER」の2ブランドが好調をけん引し、2025年9月の時点で同社のマーケットシェアは13%、ハイプレミアム構成も20%強となり、想定以上の回復を見せているという。

 その結果、ハイプレミアム内のメーカーシェアも、2023年時点の32位から、2025年第2Qでは4位へ上昇した。

 野原氏は、事業変革の鍵となったのは「一貫性」と「変化への対応」の両立だと語る。そして、この2つに対応する戦略が(1)感情ニーズに基づくブランドポジショニングと(2)スクラム組織作りだ。

 「VUCA(不確かな)時代に必要なことは、完璧な計画・戦略ではありません。アジャイルに、つまりその時々に合わせ最善を作る仕組みです」(野原氏)

機能軸から感情軸へ!6分類の「感情ニーズ」

 まず、1つ目の鍵となる戦略が、人の感情を論理的に理解し、そこに根差したブランドのポジショニングだ。花王は研究に力を入れてきた企業であり、マーケティングでも「機能軸のポジショニング」を取ってきた。しかし現代において、ヘアケア商品は膨大にあるため、生活者は機能を見て商品を選ぶことが難しくなっているという。

 「人は意思決定をする際、システム1・システム2と呼ばれる2つの思考が働くとされています。システム2は受け取った情報を合理的に処理し、判断する思考です。一方で、システム1は直感的に良し悪しを判断します。今回の取り組みでは、生活者に選ばれ発話されるブランド作りのため、システム1を重視し『感情軸』へと変化させました

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 そこで、人の感情を識別する「Kantar NeedScope」のフレームワークを活用し、縦軸にエネルギー(ハイ/ロー)、横軸に志向(集団/個人)を置き、感情領域を6分類。そして、「髪が美しくなった結果どうなりたいのか?」という生活者のニーズを当てはめ、既存3ブランドと、プレミアム市場向けの新規3ブランドを配置した。

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感情ニーズを6色に分類した上で、それぞれにブランドを当てはめている
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 これにより、パッケージデザイン、香り、成分、知覚体験、コミュニケーションなどの様々なタッチポイントで、ブランドごとの差別化を実現しながらも一貫した体験を提供できるようになったのだ。

出荷150万本「THE ANSWER」に学ぶ、戦略の実行フェーズ

 ここからは、各ブランドがこの戦略をどのように商品開発・施策に落とし込み、売上を伸ばしているのか。また、2つ目の鍵となる戦略「スクラム組織」についても、「青の感情(Balance・こだわり・調和を求めるニーズ)」にあたる「THE ANSWER」の事例を通じて見ていこう。同ブランドを担当する山岡氏が語った。

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花王株式会社 ヘアケア事業部 シニアマーケター 山岡智弘氏

 「THE ANSWER」は、発売から約10ヵ月で出荷本数150万本を突破、販売店におけるシェア4%強を獲得している。@cosmeベストコスメアワード2025上半期では、シャンプー・トリートメント史上初となる総合大賞を受賞するなど、高い評価を獲得している。

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 同ブランドのターゲットは、「誠実でバランスの取れた生活をしたい」というニーズを持つ自立志向の強い女性だ。ヘアケアに求める価値は「成分」や「信頼性」、「品質の高さ」。これらが確認できると安心して使用を始めるのだと、山岡氏は話す。

 「今のヘアケア市場は、トレンドに合わせた見栄えの良い商品が乱立しています。また、日々拡散される情報であふれる社会の中で、生活者の方は自分の髪に合うシャンプーがわからないまま、正解を探し続けています。この状況を踏まえ、生活者の方の『納得感を持って選びたい』という気持ちにどう応えていくかを考えていきました」(山岡氏)

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商品開発:知覚体験設計と“スクラム”組織による一貫性の創出

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この記事の著者

タカハシ コウキ(タカハシ コウキ)

1997年生まれ。2020年に駒沢大学経済学部を卒業。在学中よりインターンなどで記事制作を経験。卒業後、フリーライターとして、インタビューやレポート記事を執筆している。またカメラマンとしても活動中。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/26 08:30 https://markezine.jp/article/detail/49799

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