月1回だった接点が、毎日のコミュニケーションに変化
――読者とのコミュニケーションという観点ではいかがでしょうか。
渕:コスメ業界のユニークな点は、新商品の情報解禁日が設定されていることです。だからメーカーもメディアも一般の方もインフルエンサーの方たちも、実はスタート地点は一緒なのです。
この条件下でユーザーに選ばれるためには、情報の取捨選択とコンテンツの質、最適なタイミングで発信できるかどうかにかかっています。

以前は各SNSを別々の担当者が見ていましたが、今は髙橋さんが統括することで、「どの時間に・どのプラットフォームで・どの情報を発信するか」を戦略的に決められるようになりました。横断的に運用できる体制になったことで、効率的な発言が可能になり、結果として読者との接点が増えてエンゲージメントも大きく向上しています。
また以前は、月1回の『VOCE』本誌の発売日だけが読者との接点でした。しかし、今はSNSを通して、毎日何らかの形でVOCEに触れてもらえています。その結果、VOCEが好きという気持ちも高まりやすく、大きな相乗効果が生まれていると考えています。
髙橋:読者の行動パターンも変わってきています。たとえば、雑誌の読者は誌面で見た商品を、Instagramのリールで確認し、さらに詳しい情報を求めてYouTubeを見るという流れが生まれているのです。このようにVOCEの楽しみ方が多様化することで、読者のロイヤリティ向上につながっているのではないでしょうか。
雑誌としてだけでなく、SNSの信頼度No.1も目指す
――最後に、今後の展開について教えてください。
鎌田:1,500人以上の声を集めたアンケート調査の結果や、日々の分析から得られた知見を「白書」としてまとめ、皆さんにも共有する予定(2025年10~11月頃)です。たとえば、美容情報に関しては「静止画よりも動画のほうが信頼性が高い」と感じる読者が多いことがわかっています。最近はカメラの性能が向上し、静止画だと加工次第で実際の色味とは違ってしまう可能性が高まるからです。一方、動画は実態に近い色味や質感を伝えやすいため、より信頼できるという声が多く聞かれます。
他にも、コスメ商品は腕に塗って見せるより、顔に塗った方が参考になる、1回の使用レビューより1週間・1ヶ月使った結果のほうが信頼できるなど、具体的な傾向も見えてきています。
髙橋:VOCEが長く支持してもらうためには、若い層にどんどん認知してもらう必要があります。現在デジタル化が進み、雑誌を読んだことがない世代も増えています。VOCEに対して「SNSで面白いコンテンツをつくるメディアだ」と思ってもらうことは重要だと考えています。そのためにも、今後も運用を続けていきたいです。
渕:2025年はVOCEウェブサイトが25周年という節目でもあります。VOCEはこの25年で、多くの新規プラットフォームに早い段階から参入し、ビジネスの拡大につなげてきました。最終的な目標は、VOCEが美容誌としての実売No.1だけでなく、SNSでの信頼度もNo.1になることです。そのために、これからも読者の方に喜んでいただくためにも、各プラットフォームの特性を活かした戦略的な運用を続けていきます。
ここに注目!『VOCE』流 SNS活用のポイント
雑誌を始めとするメディアの公式アカウントも、今では珍しくありません。しかし、どのような方針で活用すべきかを悩まれている方が多い印象です。『VOCE』さんの取り組みは、メディアとしての編集力を活かしながら、SNSユーザーの文脈でどう発信するかという視点において、非常に示唆に富んだ事例です。
投稿の多くは雑誌やWeb記事の二次利用ではなく、SNS上での共感や話題化を主眼に、ゼロベースで企画・制作されています。誰に、どんな気持ちで届けるかを丁寧に設計することで、「SNS上で完結する強いコンテンツ」を成立させている点が印象的でした。
また、編集部自身がSNS運用を担っており、トレンドや反応を自分たちの手でつかみながら試行錯誤を重ねていることも大きな特徴です。動画や画像の「見せ方」へのこだわりや、生活者視点に立ったトピック選定など、ビジュアルメディアとしての強みが随所に活かされています。
「SNSユーザーに刺さる企画とは何か?」を自ら問い続けながら、雑誌でもWebでもない第3のメディアとしてSNSを捉える。このような考え方は、SNS活用に迷いを感じているメディア担当者にとって、大きなヒントになるのではないでしょうか。
