購入前から接点を持つ「マイルドCRM」とは?
安成:今回は、サントリーのLINE公式アカウント「おとなサントリー」を軸とする、新しいCRM(顧客関係管理)施策について、体験設計やクリエイティブ開発、データ活用のポイントをうかがっていきます。まず、プロジェクトの背景や課題感を教えてください。
馬場:当社は直販ではなく、小売店や飲食店を介してお客様に商品を提供しているビジネスモデルのため、お客様と直接つながりにくくデータも取得しづらい課題がありました。だからこそ当社では、お酒を楽しむ人たちと直接つながり続けるため、2023年にコミュニケーション本部を新設してCRMに取り組みました。
CRMと聞くと、「クーポンなどで顧客を囲い込む」イメージが強いかもしれません。もちろんキャンペーン施策も実施していますが、それだけでは競合他社と差別化できないのです。何より当社のファンになっていただくために、“お得”以外の価値をお客様に提供する必要がありました。
ビールやRTD(Ready to Drink:そのまますぐ飲めるアルコール飲料)カテゴリーでのブランド担当業務を経て、宣伝部でデジタルコミュニケーション全般に従事。2024年4月より酒類部門のコミュニケーション本部でCRMを管轄する。
安成:課題に対して、dentsu Japanとして何がポイントになると考えたのでしょうか。
松林:差別化をしながら、“ブランドらしい”体験を提供するために、dentsu Japanが推進する「マイルドCRM」の考え方を採用いただきました。マイルドCRMとは、購買よりも前の共感や体験段階から顧客とつながり、プラットフォーマーのデータなどを活用し顧客理解を深め、ブランドに対する共感を高めてファンになってもらう仕組みです。

クライアントのブランドやサービスが顧客とつながり続け、ストック型のマーケティングを実現できる体験設計を支援。2024年まで電通デジタルに出向し、「CX-Connect」の構想全体を統括した。今回のプロジェクトでは、各施策がマーケティングで果たす役割についての方針の擦り合わせなど、全体構想の支援を担う。
馬場:サントリーのLINE公式アカウントである“おとなサントリー”は、約2,500万人の友だちを有しています。その規模を活用して、新たなCRM基盤へと進化させました。具体的には、当社のキャラクターとして親しまれている「アンクル」をメッセンジャーに起用。トーク画面で常に表示される「リッチメニュー」の活用も強化して、お客様が幅広いカテゴリーの商品に触れられるような設計のLINE公式アカウントにリニューアルしました。
ただ、LINEは基本プッシュ型で情報が届くメディアなので、お客様が能動的に使っていただくサービスが必要だと考えていました。
身近な人にお酒を贈れる「ノンデネ」
安成:おとなサントリーでは、新サービス「ノンデネ」を2025年8月に開始しました。サービス内容について、詳しくお聞かせください。
馬場:ノンデネは、日常の人間関係の中で生まれる「想い」「気持ち」をお酒とともに贈れるサービスです。おとなサントリーをより魅力的にするためのサービスとして、開始しました。
サービスの利用手順は、LINE公式アカウントからメニューにアクセスし、メッセージが入ったスタンプを選んで決済、ドリンクチケットと一緒に相手に送信するだけです。受け取った人は、コンビニで対象商品の中から好きなものを選んで引き換えることができます。

馬場:昨今、お中元やお歳暮を贈る人が減っているといわれていますが、当社にとってギフトは贈る側・受け取る側に体験が創出される重要な顧客接点の一つです。そのため、今までも「ザ・プレミアム・モルツ」やウイスキー商品でギフト接点を大切にしてきました。その考え方が、ノンデネのサービス設計につながっています。
また、ノンデネはLINE公式アカウントからメッセージが届いていない時も、お客様から能動的に使っていただけるサービスです。誰かに気持ちを伝えたい時、本サービスを使ってもらいたいと考えています。

