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資生堂「クレ・ド・ポー ボーテ」グローバルECサイト構築の道のり──ブランドらしさと実運用の両立

 グローバル規模でブランドを展開する際、デジタルでの顧客体験の向上と「ブランドらしさ」の一貫性を保ちながら、各地のニーズや課題、マーケット環境に応じた柔軟性を持たせることはブランド戦略における大きな課題だ。このテーマに対し、資生堂のラグジュアリーブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」はグローバルECサイト構築にあたって、電通デジタルの支援のもとブランドの世界観を守りながらも各地域で展開・運用可能な仕組みを実現。「グローバル・マスター・ウェブサイト(GMW)」構築を軸とした全世界レベルでのWebサイトリニューアルへの取り組みについて、資生堂と電通デジタルの担当者に話を聞いた。

「クレ・ド・ポー ボーテ」が目指す、一貫したブランド体験

MarkeZine編集部(以下、MZ):はじめに、資生堂のブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」についてご紹介いただけますか。

ルモワーニュ:クレ・ド・ポー ボーテは、1982年に誕生したラグジュアリー化粧品ブランドです。40年以上の肌細胞研究から導かれた、「肌には知性がある」というユニークなサイエンスに基づくスキンケア製品群を中心に、メイクアップ商品や店頭での施術トリートメントサービスまでを展開しています。

 現在アジア、ヨーロッパ、アメリカなど26の地域で展開し、約2,300店舗のグローバルな販売網を持っています。様々な悩みに対応する形で幅広い年齢層の方に加え、様々な国と地域の方にもご使用いただいています。

MZ:ブランドとして目指す顧客体験はどのようなものでしょうか。

ルモワーニュ:ラグジュアリーブランドとして、お客さまのリアルなブランド体験向上を最優先課題に置いています。店頭空間のデザインと接遇スキルを強化し、カウンターに入った瞬間からお客さまをブランドの世界に引き込み、トータルなラグジュアリー体験を提供しています。店頭での強みを活かし、Webサイトをはじめデジタル領域でもまるで店頭スタッフに接客されているような上質な体験を提供したいと考えています。

 また、ブランドの佇まいを大事にしながら、お客さまの喜びに通じる体験を一貫して展開することも大切にしています。たとえばホリデー(クリスマスシーズン)や中国新年など、お祝い事の時期のコラボレーションを行うことで、各リージョンのマーケットに対して魅力的かつブランドの世界観を損なわない価値伝達に取り組んでいます。

株式会社資生堂 クレ・ド・ポー ボーテ グローバルブランドユニット 戦略事業開発部 デジタル戦略グループ マネージャー ルモワーニュ磨喜氏「クレ・ド・ポー ボーテ」グローバルブランドユニットでデジタル戦略を担当。「グローバル・マスター・ウェブサイト(GMW)」の運営と各国市場のEC運営支援を行う。
株式会社資生堂 クレ・ド・ポー ボーテ グローバルブランドユニット 戦略事業開発部
デジタル戦略グループ マネージャー ルモワーニュ磨喜氏

「クレ・ド・ポー ボーテ」グローバルブランドユニットでデジタル戦略を担当。「グローバル・マスター・ウェブサイト(GMW)」の運営と各国マーケットのEC運営支援を行う。

資生堂グループ内の先駆けとして、グローバル基準のWebサイト構築に挑む

MZ:今回はECサイトリニューアルのお取り組みについてうかがっていきます。まずはお取り組みの背景を教えてください。

ルモワーニュ:2018年に構築した本社管理のインターナショナルサイトがリニューアル時期を迎えていました。加えて、グローバルに展開していく中、各地域でWebサイトの意義が異なっていたことも背景の一つです。アメリカではECとしての商品販売に注力し、ヨーロッパはブランドの発信が中心、中国ではWeChatのミニプログラムで販売を行うなど、戦略や役割の違いがありました。

 そこで本社がリファレンスとなる「グローバル・マスター・ウェブサイト(GMW)」を作成し、各リージョンとその先のマーケットが必要な要素を選択しながらそれぞれの状況に合わせたマーケティング活動を展開できる仕組みを構築しようと考えました。

MZ:リニューアルの目的もお聞かせください。

ルモワーニュ:まずは、ブランドコミュニケーションの統一です。各マーケットで異なるメッセージやデザインが使用されることでブランドイメージが分散するリスクを防ぎ、グローバル規模で一貫性のあるブランド体験を提供していきます。

 次に、ガバナンスの強化です。グローバルなガイドラインを明確化し、運用の透明性と効率性を向上。さらに、限られた人的リソースをより戦略的な活動に集中させることも目指しました。また、グローバルで統一されたプラットフォームを使用することで、開発や運用にかかるコストを削減することもポイントです。

 さらに、アクセシビリティ対応にも注力しました。当社はダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを重要な経営戦略と位置付けており、誰もが使いやすいWebサイトの実現は重要です。Webアクセシビリティの国際的な基準として、資生堂グループ全体でWorld Wide Web Consortium(W3C)が提供するWCAGの「レベルAA」に準拠することを目指しており、クレ・ド・ポー ボーテでは先駆けてこの基準に取り組んでいます。

各国・誰もが「迷わず使える」サイトデザインの仕組みと運用をいかに実現するか

MZ:電通デジタルとして、今回どのような支援を行われたのでしょうか。

谷村:電通デジタルでは2018年からクレ・ド・ポー ボーテのグローバルWebサイトの制作・運用を支援してきました。私たちが重視したのは、GMWを作って終わりにしないことです。各リージョンが日常的に使いこなせるよう、実装から運用まで伴走できる体制を築くことを心がけました。

 その核となるのが新しい「グローバルデザインシステム」です。過去のデザインガイドラインでは触れきれていなかった細部まで言語化・ルール化し、マーケット担当のデザイナーだけでなくサイト運用に関わる誰もが参照できる共通言語にしました。アクセシビリティのWCAG2.2に準拠することを目指して、色・余白・ボタン領域といった様々な要素を定義し、各マーケットが翻訳などの調整をしてもアクセシビリティ基準を崩さない設計にしています。

 運用面では「オンボーディングハンドブック」の整備が大きな役割を果たしています。実装手順、制作・運用ルール、ローカライズの進め方を体系立てて明文化し、各マーケットの担当者が迷わず手を動かせるように提供しました。

株式会社電通デジタル グローバルセンター ビジネスプロデュース第1事業部 谷村明日香氏GMWの実装フェーズを担当。デザイン、開発、運用、アクセシビリティのチームのハブ役として連携しながら、仕組みとしてブランドをグローバル展開できる環境作りを支援した。
株式会社電通デジタル グローバルセンター ビジネスプロデュース第1事業部 谷村明日香氏
GMWの実装フェーズを担当。デザイン、開発、運用、アクセシビリティのチームのハブ役として連携しながら、仕組みとしてブランドECサイトをグローバル展開できる環境作りを支援した。

谷村:電通デジタルならではの強みは「ブランド理解×技術実装×グローバルマネジメント」を一体で推進できる点にあります。

 資生堂様のブランド哲学を踏まえ、デザイン、開発、運用、アクセシビリティのチームが密に連携。たとえばデザイン段階でアクセシビリティチームの調査を入れながら進めるなど、デザインとUI/UXの双方から美しさと機能性の両立を支えました。また電通グループの海外拠点とも連携し、各マーケットに最適化した展開を実現しています。

ブランドらしさとユーザビリティを両立するデザイン設計

MZ:デザイン面はどのように設計したのですか。

アントワーヌ:Webサイトで世界中のユーザーに対応し、プレミアムな体験を実現するため、ユーザーセントリックなデザインを目指しました。ユニバーサルな体験を届ける上で、アクセシビリティは非常に重要です。

 意識したポイントの一つは、画像の上にテキストを埋め込まないことです。テキストを埋め込むと海外リージョンに展開した際に翻訳が難しくなるとともに、音声読み上げ対応などができないためアクセシビリティの観点からもNGです。そのため、画像とテキストを別のものとして扱うことを徹底しました。

 さらに、一貫性のあるUIパターンやデザインシステムを活用し、ブランドイメージを損なわずにスケーラブルなデザインを実現しています。

株式会社電通デジタル グローバルセンター ソリューション事業部 デムリエ・アントワーヌ(Antoine Desmeliers)氏GMWのデザインやUI/UXとグローバルデザインシステムの構築を担当。グローバルに向けてよりよい体験提供を実現するミッションを担う。
株式会社電通デジタル グローバルセンター ソリューション事業部
デムリエ・アントワーヌ(Antoine Desmeliers)氏

GMWのデザインやUI/UXとグローバルデザインシステムの構築を担当。グローバルに向けてよりよい体験提供を実現するミッションを担う。

MZ:機能面についても詳しく教えてください。

アントワーヌ:Figmaでデザインシステムを構築し、各リージョンが要素をドラッグ&ドロップして追加・削除できる仕組みを作りました。これにより、各リージョンが一からサイトページを作る必要がなくなり、効率的にWebサイトを調整できます。

 グローバルのWebサイトがあっても、各国が自国マーケット向けにカスタムページを独自に作ってしまうケースはどのブランドでも起こり得ます。そこでブランドの世界観を守りガバナンスを効かせるため、デザインシステム上でリージョンごとに変更できる範囲に適切な制限を設けました。これにより、各リージョンのサイトの調和と一貫性を保ちつつ、現地ニーズにも柔軟に対応できるようになっています。また、グローバルと各リージョンのチーム間でのコラボレーションがスムーズになり、公開までのスピードや品質向上にも寄与しています。

共通の運用基盤とAI活用でスピーディーな調整が可能に

MZ:各マーケットへの展開と運用を進める中で、どのような取り組みをされましたか。

谷村:GMWを展開するにあたり、「困ったときはまずここを見てください」と示せるガイドラインの整備です。情報やリテラシーの違いによって理解度に差が出ないよう、プロジェクトに関わって日が浅いメンバーにもサイトを見てもらい、「どこがわかりにくいか」「どんな表現なら伝わるか」を何度も確認しながら改善しました。

井須:運用における重要な取り組みの一つは、情報共有の最適化です。各国でリニューアル時期が異なるため、どの国がいつ参画しても過去の運用情報をスムーズにキャッチアップできる仕組み作りが課題でした。そこで、これまでバラバラに管理されていた資料をナレッジ共有ツール「Confluence」に集約。ガイドライン、運用ルール、リリーススケジュール、各種リンクを一元管理し、誰が見てもどこに何があるかがわかるようにしています。

株式会社電通デジタル グローバルセンター ビジネスプロデュース第1事業部 井須弘恵氏GMWの通常運用フェーズから参画し、シーズン更新や新規コンテンツの提案、アクセシビリティ対応の実装支援まで、制作領域全体のプロジェクトマネジメントを担当している。
株式会社電通デジタル グローバルセンター ビジネスプロデュース第1事業部 井須弘恵氏
GMWの通常運用フェーズから参画し、シーズン更新や新規コンテンツの提案、アクセシビリティ対応の実装支援まで、制作領域全体のプロジェクトマネジメントを担当している。

MZ:AI活用についても取り組まれているそうですね。

井須:AI活用はアクセシビリティの領域からスタートし、現在は「altテキストの設定」と「動画のテキスト版提供」の検証を中心に進めています。また、動画の音声解説についても並行してテストを行っている段階です。

 altテキストについては、第一に付与対象を丁寧に整理し、あえてaltを空にするケースも含めて判断基準を明確化しました。商品パッケージの記載範囲などを基準として明文化し、ガイドラインとして整理・体系化しました。その上で、AIに下書きを生成させ、ブランドトーン・製品特徴・文保構造の観点から人の手で最終調整するフローを構築しました。

 動画については、まずAIに動画内容を理解させ、複数パターンのテキスト版の下書きを生成させています。動画の内容を一から人が文章化するのは負荷が高いため、AIに一定の文章を作成してもらい、その上で「どういう表現がブランドにふさわしいか」「どこまで補足すべきか」といったルールをこれから整えていく段階です。現状は、情報量・表現のトーン・ユーザーにとっての読みやすさなど、適切なバランスを探りながら検証を進めています。音声解説版についても、同様に必要性や価値を見極めながら並行してテストを行っています。

 AI導入で最も重視しているのは「AIを使うこと」ではなく、人の判断や感性をどう活かすかを前提にプロセスを再設計することです。ブランドの世界観を守りながらもスピーディーに改善を進められるようになり、チーム内に試行と改善を繰り返す文化が根付いてきました。

インクルーシブなWebサイト構築のために

MZ:一連の取り組みを通じて、どのような手応えを感じていますか。

ルモワーニュ:Confluenceにガイドラインが整備され、デザインシステムも構築されたことで、サイトリニューアルの速度が大幅に向上しています。各マーケットとのやり取りも効率化され、ブランドが表現したいことを損ねずにスムーズに展開できています。

 アクセシビリティの取り組みについては、引き続きコードの細かい部分まで幅広い対応が必要です。ただ、これを本社が率先して対応することで、マーケットの作業工数を削減できました。また、この取り組みを通じて得た知識を活かし、他のコンテンツ制作においてもアクセシビリティの観点から見られるようになった点も大きな成果です。

谷村:アクセシビリティ対応を進める中で、アクセシビリティチームと制作チームの間をつなぎ、情報と意図を整理する“ハブ”としての役割が不可欠だと実感しています。結果として、関係チーム全体で「アクセシビリティを運用にどう組み込むか」を共通言語として考える文化が育ってきました。

MZ:最後に、今後の展望をお聞かせください。

ルモワーニュ:現在は各国のWebサイトリニューアルは準備中でこれから順次公開される予定ですが、私たちはよりインクルーシブな社会の実現を目指し、すべてのユーザーが平等に情報やサービスにアクセスできる環境を提供し、私たちの製品をお届けできるよう、今後もユーザー体験の向上を続けます。また、モバイルデバイスや音声アシスタントなど、新しいデバイスや技術にも柔軟に対応したサイト構築を進めてまいります。

井須:グローバルブランドのサイト運用では、「共通化」と「柔軟性」の両立が常に課題になります。どの国のどの担当者でも同じ品質で更新できるよう標準化しながら、それぞれの文化や表現を尊重できる体制を整えることが目標です。各国がブランドをどう解釈し、いかに自分たちの文化に合わせて表現していくか、といったプロセスをグローバルで共有し、学び合える場を作っていきたいですね。

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社電通デジタル

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2025/11/26 11:00 https://markezine.jp/article/detail/50011