適切なKPI設定の鍵は「断面」を捉えること
KPIを適切に設計するためには、ステークホルダーが目的の行動に至るまでの態度変容や接触イベントを把握し、どの断面を捉えるべきかを見極める必要がある。たとえば先ほどの図5の生命保険契約を例にとると、契約の最終局面では個々の保険商品への契約意向の度合いが決め手になるが、これは企業ブランディングの活動からは距離がある。そのため契約意向を直接KPIとするのは適切でない。一方で、情報収集の初期段階に考慮集合に入っているか否かが契約率に強く影響することが分かれば、その「きっかけ」の直後の層における企業想起率をKPIに設定する、といった判断が成り立つ。これが「断面を捉える」ということである。
このように、目的設定の後に実施する「問い直し」の調査は、企業ブランディングを実効性あるものにするための不可欠なプロセスである。伝えることが本当に目的に結びつくのか、ブランディングの主語は企業であるべきなのか、そしてステークホルダーの捉えるべき断面はどこなのか。これらを立ち止まって検証することが、効果的な企業ブランディングを推進することの一歩になるだろう。
まとめ
以上のように、企業ブランディングにおいては、まず目的・目指す姿を明確化し、自社の目指す姿と目的の結びつきや、そもそも企業ブランディングが手法として適切かも含めて調査を含めた問い直しを行うことが重要だ。加えて留意すべきは、環境の変化に合わせて「問い直し」を常に続けることが必要という点である。外部環境の変化や競合の動き、あるいは社会における価値観の揺らぎによって、当初掲げた理想像が現実との齟齬を生む場合もある。そのときに必要なのは、既存の戦略に固執することではなく、目的やアプローチそのものを柔軟に見直す姿勢である。目的・目指す姿を見直すこと、さらには企業ブランディング以外の手段に舵を切ることも含めて自社の戦略を都度再考することこそ、本当に意味のあるブランディングの推進につながるだろう。
本稿は、野村総合研究所(NRI)のマーケティング戦略コンサルティング部が、これまでのコンサルテーションを行った実績をもとにまとめたものです。当部が主催する「消費者マーケティングデータ研究会」の次回開催情報はこちらから。
