障壁2:短期で大きな効果が出づらい
続いての障壁は、実際に施策を行っても、短期で目立った効果が見られないというものである。ブランディングの施策には、社内ワークショップの開催やIRコミュニケーション、スポーツ・イベント協賛などの様々な方法が考えられるが、本稿ではこのうち生活者向けの企業広告(マス広告やデジタル広告、電車・屋外広告等)に焦点を当てる。
弊社では、関東一都六県在住の3,000名程度に対するWeb調査「NRI Insight Signal」で広告の効果測定を多数行ってきた。当該調査では、広告接触者の変化から、非接触者の変化を差し引く「差分の差分」という手法を用いている。この手法にて広告効果を算出した事例について、テレビCMの効果の分布を見てみると、商品広告では1pt以上の効果が得られた事例が47.4%であるのに対し、企業広告では34.4%にとどまっていた。このように、商品広告に比べて、企業広告は効果が得られづらい特性があることがわかる。
では、なぜ企業広告は効果が出にくいのか。その要因として、第一に、「広告の覚えづらさ」という弱点がある。企業広告は生活者にとって身近な商品と結びつきにくいため、「広告を見たこと自体」を覚えづらい傾向があると考えられる。弊社における調査でも、テレビCMの覚えやすさを示す、10回接触者における広告認知率(10Freq認知率)は、商品広告は31.2%、企業広告は23.1%となっている。
第二の要因として、企業広告は企業の姿勢やビジョンといった抽象的な内容が多いため、「どの企業のCMだったか」を理解してもらいにくいという傾向がある。結果として、「良いCMだったが、どこの会社か思い出せない」という事態に陥りがちである。弊社の調査でも、「どの企業/商品のCMだったか」を覚えている割合は商品広告の65.5%に比して41.3%と低くなっている。
以上のように、企業広告には「覚えられづらい」「どの企業の広告か理解されづらい」という2つの難しさがある。
効果を最大化する2つの打開策:「企業の顔」作りと継続的な訴求
これらに対する有効な打開策の一つが、タレントやキャラクターを起用して「“企業の顔”を作る」ことだ。図表6を見ると、タレントやキャラクターを起用しているCMは、そうでないCMに比べて、「どの企業のCMか」を思い出してもらいやすいことがわかる。また、タレント・キャラクターと企業の結びつきが強い場合は、より「どの企業のCMか」を思い出してもらいやすくなる。
ただし、単に有名タレントを起用すればよいということではない点には注意が必要である。起用したタレントが他社CMにも多く出演していると、自社との結びつきが弱くなり、“企業の顔”として機能しにくくなる可能性がある。タレント自体が有名でなくとも、インパクトのある演出や継続的な露出によって結びつきを作ることで成功している事例もある。また、人間のタレントでなくキャラクターを活用することも有効な選択肢となり得る。これらの方法により、戦略的に「“企業の顔”を作る」ことで、広告の効果を高めることができる。
もう一つの打開策は、効果の高い施策を継続的に使用することである。通常、CMには賞味期限があり、使い続けると効果が逓減するが、図表7のように、企業CMは、同一訴求を長期間続けても比較的効果が逓減しにくいという特徴がある。そのため、効果が高い素材は継続して使うべきである。継続出稿によって、生活者に広告が繰り返しリマインドされるため、結果的に「覚えられづらさ」の対策にもなるだろう。
「あれもこれも」と詰め込み過ぎないように注意する
加えて、CM内にメッセージを詰め込みすぎないことも極めて重要である。「覚えられづらい」「どの企業のものかわからない」という傾向からも、企業広告は作り手が思う以上に生活者の関心を引くことが難しいといえる。実際に当社での調査事例で、有名女優を起用しながらも、企業の独自技術に関する情報を多数盛り込んだ結果、10Freq認知率(CMの覚えられやすさを示す指標)は低水準にとどまり、伝えたかったメッセージが何も伝わらず、KPIへの効果も見られないという事例があった(図表8)。伝える内容を絞ること、あるいは伝える内容に優先順位を付け、複数のCM素材を使い段階的に発信することが重要である。取り組みをどの順番で伝えるかによって成果が変わることもあるため、事前に調査を行い、順序の妥当性を検証しておくことが望ましい。
