長引く夏が生む、食卓・流通・ブランドの悩み
2025年に生活者の心を掴んだベストプラクティスとして、まず紹介されたのは、味の素の「五季そうさまプロジェクト」。和風だしの素「ほんだし」を軸に、近年の気候変化によって生まれている食卓の課題を、新しい季節の概念で捉え直した取り組みとなっている。

背景にあるのは、日本の夏の長期化だ。近年は猛暑の影響で、最初の真夏日から最後の真夏日までの期間が長くなっており、2024年にはその期間が129日間にも及んでいる。味の素では、この夏の終わりから秋にかけて暑さが残る時期を「まだなつ」と名づけ、家庭の食卓への影響に着目した。
戦略PRを担当する山﨑氏は、生活者の変化について次のように説明する。
「夏が長引くことで生じる料理の悩みとして多いのが、料理をするモチベーションが下がることです。暑くてキッチンに立つのがつらくなると、コンロを使う料理も敬遠されがちになります。その結果、冷たい麺類など手軽なメニューが続き、献立がマンネリ化し、気力も食欲も落ちていく。こうした負の循環を、私たちは『まだなつ症』と呼んでいます」(山﨑氏)
この「まだなつ症」は生活者の問題にとどまらず、生産・流通にも影響していた。秋になるとレンコンやサツマイモなどの秋野菜が市場に出始めるが、暑さが残る時期には煮物や焼き料理といったメニューが思い浮かびにくい。そのため、旬の食材がありながらも食卓に取り入れにくい状況が生まれていたという。
さらに、この変化はブランドの販売にも表れていた。「ほんだし」の出荷データを見ると、8〜9月は年間の中でも出荷量が低くなる傾向があった。家庭で料理する機会が減ることで、だしを使う機会も減り、購買につながりにくくなっていたのである。
「四季」から「五季」へ。残暑を味方にする逆転の発想
こうした課題に対して味の素が提示したのが、春・夏・秋・冬の四季にもう1つ、「まだなつ」を加えるという発想だった。
「『和の食卓の可能性を広げる』ことが、『ほんだし』のブランドミッションです。そこで、日本の季節を“四季”ではなく“五季”と捉え、夏と秋の間の『まだなつ』を新しい季節として提案しました。長くて暑い時期をネガティブに捉えるのではなく、新しい食文化を楽しめる季節として再定義したかったのです」と、「ほんだし」のプロダクトマネージャーである三科氏は語る。
このコンセプトのもとで展開されたのが、「まだなつレシピ」の提案だ。火を極力使わずに調理できる料理や、秋野菜を夏のメニューとして食べられるレシピなど、暑い時期でも無理なく料理を楽しめる工夫を取り入れた。

コミュニケーション面では、プレスリリースやメディア発表会、レシピ本の出版などを実施。その結果、広告換算値は約3.5億円に達し、メディア露出が大きく拡大。さらに、8〜9月の出荷実績は前年比104%と、猛暑の中でも売上を伸ばすことに成功した。
