営業中心の組織でマーケティングの役割をいかに定義したのか?
「営業の影響力が強い組織では、マーケティングの役割をどう定義するかによって、組織内での立ち位置が大きく変わる」と、橘氏。多くのBtoB企業で見られるのが、マーケティングはリード獲得、営業は受注という役割分担だ。しかしこの構造では、KPIが分断され、結果として営業とマーケティングの対立が生まれやすい。
「そうした状況を避けるため、私たちは最初からマーケティングのコミットメントをリードではなく、『売上』に置きました。営業の受注プロセスも含めて、外側から支援していくところまでマーケティングのスコープだと定義しました」(橘氏)
その定義を実現していくために壁となったのが、マーケティング部門のリソース不足だった。当時は予算も人員も限られ、社内での評価も高くない。そこで橘氏が考えたのが、「社内のリソースを借りながら成果をつくる」というアプローチだ。
具体的には、オウンドメディアをBtoBマーケティング活動の主軸に据え、安定的に運営するための3つの取り組みを展開した。1つ目は、社内に散在していた顧客リストの集約だ。同社には既に様々な部門が保有する顧客リストが存在していた。それらを集めてハウスリストとして整備し、オウンドメディアの読者基盤として活用した。
2つ目は、コンテンツの量産だ。ただし、マーケティング部門が自前で制作するのではなく、専門知識を持つ他部門のメンバーの協力を得ながら、たった4人で年間150本のコンテンツを制作していった。
3つ目は、社内の信頼を横展開していくことだ。ある部署と共同で成果を出したら、その実績をもとに別の部署へと協力関係を広げていく。こうしてマーケティングの取り組みを社内に広げていった。
このように借りてきたリソースを上手に活用することで、マーケティング部門は初期投資ほぼなしで成果を生み出すことに成功。その成果によってキャッシュフローを生み出し、「さらに投資すればより大きく成長できる」という根拠を経営層に示すことができた。
良質なメルマガを中心にしたオウンドメディア戦略
マクロミルのマーケティング改革の中核を担ったのが、メルマガを中心としたオウンドメディア戦略だ。橘氏は、メルマガを「メディアブランド」として育てる方針を立てた。
同社のメルマガは、一般的なBtoB企業の配信頻度を大きく上回る。多くの企業が週1~3回程度の配信であるのに対し、マクロミルでは週7日、ほぼ毎日配信しているという。それにもかかわらず、オプトアウト率は0.04%と極めて低い水準を維持している。
この成果の背景には、明確な運営方針がある。まず、「サービス紹介を一切しない」ことだ。メルマガを販促ツールではなく、あくまで読者に価値を提供するメディアとして位置づけた。
また、「クライアントオプトイン」という仕組みも特徴的だ。企業側が送りたい情報ではなく、読者が受け取りたいテーマを選べる仕組みを導入した。曜日ごとにトピックを設定し、読者がオン・オフを選択できるようにしたのである。
こうした取り組みによって、メルマガは27万人のリーチと年間700万PV規模のメディアへと成長した。結果として、メルマガは自社の重要なPRの柱としての役割を果たすようになっている。さらに、このメディアインプレッションを活用し、「マクロミルカンファレンス」という自社イベントも立ち上げた。申込者は約4,500人、そのうち3,500人はメルマガ経由で集客できたという。
橘氏は、この戦略を「Owned Media Led Growth」と呼ぶ。従来よく語られる「Content is King」という考え方とは少し視点が異なるという。
「コンテンツだけを見るのではなく、コンテンツとメディアを並列に考える。コンテンツを、メディアインプレッションを拡大する触媒として捉える考え方です。つまり、コンテンツは単体で価値を生むだけでなく、メディアという基盤の成長を促す“土壌”として機能する。この視点に切り替えただけで、私たちの場合は驚くほど数字が伸びていきました」(橘氏)
