D2C転換で浮上した「チャネル分断」という課題
(写真中央)株式会社ワールドパーティー Wpc.事業本部 EC部 部長 深代 優介氏
(写真右)同部 Section2 山地 真璃奈氏
メグリは、アパレル・小売事業者を中心にノーコードで自社ブランドアプリを構築できるプラットフォーム「MGRe(メグリ)」を提供している企業だ。元々スクラッチのアプリ開発会社として出発した経緯から、ECシステム・MA・CRM・接客ツールなど多様な外部サービスとの連携開発を得意としている。
かたやワールドパーティーは「Any weather, smile for life.」を掲げ、傘・レイングッズブランド「Wpc.」を中心に複数ブランドを展開するメーカー。国内傘市場で広いシェアを誇り、近年はD2CビジネスとしてECと直営店舗の拡大を進めている。
セッションはまず、ワールドパーティーがアプリ導入に至った背景から始まった。同社はホールセール中心のビジネスから自社ECと直営店舗によるD2Cへとシフトを進めてきた。2020年に大阪・心斎橋に直営1号店をオープンして以来、出店を拡大。自社ECも立ち上げから5年目を迎えたが、その過程で大きな課題も浮上していた。
「D2Cビジネスは軌道に乗ってきたのですが、直営店舗とECそれぞれが分断された状態で施策を考えていたので、実際どのようなお客様が購入してくださっているか全然わかっていなかったのです。ECで購入してくださったお客様の履歴は拾えましたが、直営店での購入履歴が取れておらず、『アプリを導入して新しく分析を行い、販売戦略に活かしたい』と思ったのが素直な理由です」(深代氏)
「顧客体験を損なわない」OMO基盤の構築
アプリ導入にあたって、数あるサービスのなかからMGReを選んだ理由を深代氏はこう語る。
「ローンチまでが最短かつ導入コストの負担が一番少なかったのが大きいですね。それに加えて、自動ログインが可能で顧客体験を損なわない点は、アプリを選定する上で外せないポイントでした」(深代氏)
OMOアプリを機能させるにはユーザーに長く使ってもらうことが重要であり、使い勝手の悪さで顧客を離脱させては元も子もない。MGReが備える「自動ログイン/仮会員」機能は、アプリをダウンロードした瞬間から会員登録不要でバーコードが表示され、ポイントが付与される仕組みだ。レジ前でのログイン操作によるストレスをゼロにすることが、アクティブユーザーを増やすための基盤になるという考え方である。
同社が整備してきたOMO基盤は、3つの軸からなる。
まず「ID統合」によって店舗とECで分断されていた会員情報・購買データの一元管理が可能に。次に「自動ログイン/仮会員」でアプリ起動直後に会員証が表示される体験を実現。そして「UI/UX」面でも、ブランドの世界観を反映した直感的なデザインとスムーズな購買導線を整えた。
「会員に対してブランドの価値をダイレクトに伝えられるだけでなく、店舗での導線もスムーズであれば、スタッフにとってもおすすめしやすいアプリになります」(深代氏)
店舗現場の不安を解消してスタッフを主役に変えた取り組み
OMO推進にあたって避けて通れないのが、店舗スタッフを巻き込む難しさだ。アプリ導入の打ち出しに対して、現場からは当初戸惑いや不安の声が上がった。対面接客の中にアプリ案内という新たなステップが加わることへの抵抗感は、多くの企業が直面する「OMOの壁あるある」といえる。
山地氏はその解消策として、一方的なチャットや資料送付ではなく直接店舗に足を運ぶことを徹底したという。
「アプリのローンチ前は本部では拾える購入履歴が拾えないといった店舗側での課題もありました。そのため、アプリをローンチすることでお客様とのタッチポイントがどう増えていくか、それによって店舗にどんなメリットがあるのかをわかりやすく資料にまとめたり、接客で実際に使っていただけるフローチャートを作成したりして共有しました」(山地氏)
事前にトラブルや疑問点を解消したことで、最終的には店舗スタッフ側から「今後アプリでこんなことをしてみたい」という前向きな要望が出るようになった。スタッフが得意とする写真撮影を活かして、コーディネートや商品情報をアプリから定期的に発信する取り組みも始まっている。
「アプリでは、キャンペーンやセール情報よりも、店舗スタッフが傘を用いたコーデ提案を発信するコンテンツのほうがユーザーの興味関心が高いという結果が出ました。アプリユーザーは傘をファッションアイテムと捉える感度の高い方が多いからこそ、こういった取り組みが店舗フォロー率の70%アップという結果につながったと考えています」(山地氏)
店舗フォロー率の向上は、アプリが“会員証の代替”にとどまらず、スタッフとお客様をつなぐ“メディア”へと進化した証左である。
さらにダッシュボード分析を通じ、駅直結の店舗では「雨の日に傘を持っていない来店客がそのまま購入する確率が高い」という行動パターンも発見。今後は気象データと連動したプッシュ通知で潜在的な購買需要にタイムリーにリーチする施策も検討しているという。
アプリ限定コンテンツで予想外の気づきを得る
アプリユーザーとのつながりを強化した施策はこれだけではない。ロイヤリティ向上施策として2025年7月に公開したのが、アプリ限定の「相棒傘診断」コンテンツだ。設問に直感的に回答していくとユーザーにぴったりの傘が提案され、そのままECで購入できる導線が設計されている。
Webサイトには置かず「アプリ内でしか診断できない」設計にしたことで、「診断したいからアプリを入れる」という強いダウンロード動機を生み出す狙いもあった。
相棒傘診断を通じたアプリ内ストアへの遷移数は実施期間中900件以上にのぼり、通常1分未満だったアプリ内の平均滞在時間が5分以上へと大幅に延びた。1万ダウンロード突破を記念した「ポイント山分けガチャ」も好評を博し、当初想定されていた予定日よりも早くにキャンペーンにおける当たり条件を満たして終了したほどだ。
さらに、診断データから得られた顧客インサイトも興味深い。若年層向けのコンテンツとして設計していたにもかかわらず、実際の利用が多かったのは40代や50代。カラーの好みについても「若年層にはカラフルな傘が響くはず」という想定に反し、選ばれたのはオフホワイトやベージュなど落ち着きのあるカラーが多数を占めていたという。
この取り組みについて鯨岡氏はこう評価する。
「これらのことは普通にアンケートをお願いしてもなかなか得づらい情報だと思います。『診断コンテンツ』という形でユーザーにも楽しんでもらいながら、貴重な顧客インサイトを取得できた今回の取り組みは、非常に興味深いです」(鯨岡氏)
このデータをもとに、オンラインストアのカラー絞り込み機能の強化に即座に着手。コンテンツが滞在時間を延ばすだけでなく、次のUX改善の設計図にもなった事例といえる。
KPIを「量から質」へ。勇気あるピボットでCVR約6倍を実現
アプリの立ち上げなど大きなプロジェクトにおいて、起こりがちでありながら深刻な問題に「目標設定のミス」がある。アプリ導入当初、ワールドパーティーは売上から逆算して「10万ダウンロード」をKPIに設定していた。しかしその達成を追う中で、本来の目的からずれていることに気づいたという。
「ダウンロード数を追った場合、ダウンロードクーポンなど過度なインセンティブ施策を投じる必要性が出てきました。これでは当初の目的から離れてしまうと気づき、一旦立ち止まって社内で話し合うことにしたのです。そして、インセンティブ施策だけに頼るのではなく、顧客との接点を育成しながらダウンロード数を追うという方針へと、思い切って転換することにしました」(深代氏)
ダウンロード数の目標は1万ダウンロードへと引き下げ、「顧客とのタッチポイントの育成」を優先。その結果、目標は既に達成し、量より質を追った結果として購買力の高いユーザー層との接続に成功している。
たとえば、アプリ経由のオンライン購入のCVRはECサイト単体に対して平均約6倍を記録。「MGReの設計を用いた直感的なUIと、ロイヤリティの高いユーザーがアプリを使っていることの相乗効果だ」と山地氏は分析する。
会員ランクの面でも、最上位ランク「RAINBOW」(年間購入額1万5,000円以上)のアプリ会員構成比は非会員比2.5倍、第2位ランク「RAIN」も2.2倍となっており、アプリ利用頻度の高いユーザーほどロイヤリティが高いことがデータで示されている。
「これら上位ランクのお客様はLTVが高く、アプリで長期的に育成していくことで、結果として盤石な売上基盤が作れると言えます」(鯨岡氏)
アプリ限定クーポンでリピーターが3倍に
ワールドパーティーは2026年2月、また新たな取り組みとしてアプリ限定クーポンを配布した。毎年2月は同社の新商品の発売時期にあたる。ロイヤリティの高いアプリ会員は新商品への反応が得やすいと見て、あえて発売初期に限定クーポンを投入することで初動購入の促進とリピーター喚起の両立を図る狙いだ。
「アプリ限定クーポンを利用したユーザーの半数以上がリピーターという数字が出ています。アプリ会員以外も対象にしている別のクーポンと比較すると、リピーターの構成比が3倍になっていまして、アプリ限定という特別感が継続利用とF2転換を促す効果があったと捉えています」(山地氏)
売上への影響も顕著だった。EC全体のCVRが0.9%であるのに対し、クーポン実施期間中のアプリ経由CVRは19%を記録し、約21倍の差が生まれた。さらに平均商品単価は前年比115%、平均注文金額は116%、全体EC売上は127%に達した。アプリ導入からまだ1年も経っていない段階でこのような成果を挙げている。
鯨岡氏はセッションの締めくくりに、今回の事例を「便利さ(OMO)×楽しさ(ロイヤリティ)=LTV向上」という方程式として整理した。OMO基盤の整備と診断コンテンツ、クーポン施策が連動することでCVR6倍・上位ランク会員化・売上増という成果に結びついていることを示している。
ワールドパーティーは今後、スタッフコンテンツのさらなる強化を進めながら「傘はファッションだ」というブランドスローガンを、アプリを通じて体現していく方針だ。深代氏は「今後もアプリを通じて顧客理解度を深めていければ」と語り、山地氏は「柔軟で幅広い取り組みができるMGReを活用しながら、もっとアプリを盛り上げていきたい」と展望を述べた。
現状のアプリに課題を感じている方は必見!
メグリは、アプリを通じて「顧客とのつながり」を深めるマーケティングプラットフォームです。会員情報の統合管理、行動データの可視化、プッシュ通知やクーポン配信など多彩な施策をワンストップで実現。店舗とECを横断したOMO施策を支援します。詳細はMGRe公式サイトよりご確認ください!

