インフラ企業としての責任「広告費は無駄にできない」
木村:東京ガスさんのブランディングが非常に優れているのは、CMなどの大規模な施策を展開する際、必ず確かな根拠(エビデンス)に基づいている点です。ブランディングは往々にして「感性」や「長期的な効果」という言葉で煙に巻かれがちですが、東京ガスさんの場合は、投資金額別の売上シミュレーションや想起ファネルの影響率など、非常にシビアに数字で判断されています。
佐藤:ブランドの再定義には大きなエネルギーが必要ですが、大規模な投資をいきなり行うのはリスクを伴います。今回のCM展開にあたっても、特定のエリアに限定したテストマーケティングを実施しました。
単に「何人に届いたか」というインプレッションだけを見るのではなく、どのクリエイティブが最も効率的に「純粋想起(ブランドの思い出しやすさ)」を押し上げたのか。あるいは、どの媒体の組み合わせが最も「くらしのプロ」というイメージ転換に寄与したのかを、調査パネルを用いて定量的に検証しました。
木村:テストマーケティングで得られた「この構成なら想起が◯%上がる」というエビデンスを、投資判断の材料として使っている。この「ゲート(意思決定の関門)」を設けるプロセスが、東京ガスさんの強いところだと思います。
兼子:そうした確かな意思決定は、インフラ企業としての責任でもあります。広告費などの投資も、最終的にはコストとしてお客様のサービスに関係してくるものです。だからこそ、広告費も無駄にはできません。
経験や勘に頼るのではなく、統計的に確認された事実に基づいて意思決定の精度を高める「エビデンス・ベースト・マーケティング(EBM)」を実践し、「これなら本当にお客様の役に立てる」という確証が得られたものにだけ大きな投資をするのが我々の考え方です。東京ガスって、真面目で不器用な会社なんですよね。
ブランドの力をいかに可視化するブランド・パワーの導入
MarkeZine:東京ガスではエビデンスをベースにしたマーケティングを大事にされているとのことでしたが、ブランディングは効果検証がなかなか難しい領域です。ブランディング施策の効果をどのように可視化しているのでしょうか。
佐藤:以前はブランディング施策がどう事業成果に紐づくのか、やや抽象的な状態でした。そこで取り入れたのが、「助成想起」「純粋想起」「想起集合」をベースにしたトラッキング指標であり、Brandismさんが提唱するブランド・パワーです。これにより、施策前後で「選ばれやすい状態」がどれだけ向上したかを定量的に把握できるようになりました。
木村:ブランド・パワーは言わば「ブランドの健康診断」になるような指標です。特段変わった指標は取り入れていませんが、ブランドの持つ力がどのように変化しているか、定点観測できる指標になっています。東京ガスさんは、都市生活研究所で生活者の「定点観測」を長年行われており、その思想をブランディングにも持ち込んだ形になります。
MarkeZine:キャンペーン実施後のリフト調査は「点」を捉えるデータになりがちです。「測れないから、ブランディングは難しい」と思っている企業にとって、とても参考になる取り組みだと感じました。最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
兼子:東京ガスは、創業者の渋沢栄一が唱えた「合本主義」を今も大切にしています。これは、一人ひとりの小さな力を合わせることで、大きな社会課題を解決するという考え方です。たとえば、電力需給が逼迫する時間帯にエアコンの温度調整をお手伝いする「IGNITUREスマートアクション」は、まさに現代における合本主義の実践だと思っています。
だからこそ、私たちは企業との共創を大切にしています。1社でできることには、やはり限りがある。暮らしをまるごと支えるパートナーになるためには、東京ガスだけでは届かない領域があります。
志を同じくするパートナーと力を合わせることで、初めてお客様の暮らしをより豊かにできると信じています。共創できることがあれば、ぜひ一緒に取り組みができると嬉しいです。
