デジタルマーケティングにおけるパーソナライズは、長らく「最適なコンテンツを選ぶ」ことが中心であった。複数のクリエイティブを用意し、A/Bテストによって最も成果の高いものを選ぶ。このプロセスは合理的であり、多くの企業で標準的に採用されてきた。しかし今、その前提は崩れつつある。海外企業の取り組みを見ると、マーケティングは「選ぶ」から「その場で生成する」へと進化している。ユーザーの行動、文脈、タイミングに応じて、コンテンツそのものがリアルタイムに変化する。本稿では、この変化を上流から下流まで構造的に整理する。
「選ぶマーケ」から「生成するマーケ」への転換
従来のマーケティングは、有限の選択肢から最適解を選ぶモデルであった。
たとえば10パターンの広告を用意し、その中から最も効果の高いものを配信する。しかし、数百万のユーザーに対して10パターンでは最適化の解像度が足りない。その結果、誰にも強く刺さらない平均解に収束する。
この課題に対して、MetaやGoogleは生成型広告を実用化した。MetaのAdvantage+では複数素材から広告が自動生成され、GoogleのPerformance Maxでは検索・YouTube・ディスプレイを横断しながら最適な組み合わせが生成される。
ここで重要なのは、最適化の対象が変わったことだ。従来は「どのパターンを選ぶか」だったが、現在は「その瞬間に何を生成するか」。つまり、最適化の単位が「パターン」から「瞬間」へと移行したのだ。
ユーザーの意思決定を支援。「意図」を起点としたSephoraの体験設計
最上流で変化しているのが「顧客理解」だ。
SephoraはAIを活用したバーチャル試用機能「Virtual Artist」を提供し、ユーザーの状態に応じた提案を行っている。
この機能では、ユーザーの顔をスキャンし、リアルタイムでメイクをシミュレーションできる。リップやアイシャドウなど数百に及ぶ色や商品を比較でき、さらにチュートリアルや使い方も個別に提示される。
つまり、単なるレコメンドではなく「意思決定支援」そのものを提供しているのだ。ユーザーが「自分に合うかどうか」を購入前に高い精度で判断できるようになった結果、コンバージョンは最大11%向上し、返品率は最大30%削減された。
ここで最も重要なのは、マーケターの仕事の変化だ。
従来はLPやバナーを制作していたが、現在は「どの質問で意図を引き出すか」「どの回答をどの提案に紐づけるか」「どの順序で提示すれば納得感が高まるか」を設計している。
たとえば「乾燥肌」という入力に対しても、「朝のスキンケア」「夜のケア」「メイク前」といった文脈ごとに分岐し、それぞれに最適な商品を提示する。さらに、この分岐設計はデータに基づいて継続的に改善される。
この変化により、ユーザーは検索や比較の負担から解放され、「相談すれば決まる」体験を得る。パーソナライズはコンテンツの量ではなく、意思決定の仕組みなのだ。
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岡 徳之(オカ ノリユキ)
編集者・ライター。東京、シンガポール、オランダの3拠点で編集プロダクション「Livit」を運営。各国のライター、カメラマンと連携し、海外のビジネス・テクノロジー・マーケティング情報を日本の読者に届ける。企業のオウンドメディアの企画・運営にも携わる。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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