ユーザーのニーズは意見より行動に表れる
ユーザのターゲティングという点について、遠藤氏は「サッカーチームのコーチと大工、若手重役がそれぞれのニーズを言い合って車を作る」という、たとえ話を引き合いに出した。
サッカーチームのコーチは、安全でしっかりした車が欲しく、子供やサッカー用具がたくさん積めるものがよいと言う。大工は、四輪駆動の頑丈な車が欲しく、梯子や材木、工具用に広いスペースが必要だと要求する。一方、若手重役はスポーティな車が欲しく、高性能エンジンでサスは固めのコンバーチブル、スペースは2人分あればよいと言った。全ての意見を採用した結果、誰も望まない『コンバーチブルのバンでオフロード仕様の車』が出来上がってしまった。このように、全員をターゲットにした場合には、誰にも訴求できない商品ができる。
それはモバイルサイトとて同様だ。複数のユーザー像が想定できる場合は、優先するターゲット群に絞って考える必要がある。相反する場合は、別々のサイトを準備することが必要だ。モバイルサイトの場合、単独利用型とPC併用型の大きく2つのターゲット群が想定でき、その中で最も重要な顧客にフォーカスして明確なターゲット像を定義し、関係者で共有することが大切だという。いわゆる「ペルソナの設定」という手法だ。
その上で「実際に使用行動に基づいた観察」を行っていく。「行動」を重視するのは、グループインタビューやアンケートで得られる「意見」にはさまざまなバイアスがかかり、本心が捉えられないことが大きいからだという。そもそもニーズを言語化して把握しているユーザーがどれだけいるだろうか。そこでビービットでは、行動観察手法として実際にモバイルサイトを操作してもらい、その場その場での質問を行うという方法をとっている。
こうした行動観察による成功事例として、インテュイット社の家計簿ソフト「クイッケン」の例が紹介された。既存の家計簿ソフトでは手作業以上に時間がかかっていることに問題意識を持ったインテュイット社は、ユーザを招いてクイッケン使用の様子を観察。「クイッケン」購入ユーザの自宅まで同行し、箱の開け方やパソコンへのインストールなど一連の行動の観察も行った。

その結果、ユーザが使用している機能は限定されていること、ユーザーは優れた機能ではなく必要十分な機能を備えた製品、そして手作業の時と同様のデザインが必要といったことが明白になった。インテュイット社は、競争の基盤を機能から利便性へと変え、ユーザーの真のニーズに合わせた製品づくりでシェアをキープしている。その背景に、お持ち帰りプログラムや自宅訪問といった「行動観察」があったというわけだ。