創立100周年を、幅広いグループ事業の認知拡大の契機に
MarkeZine編集部(以下、MZ):本日は、富士急行が創立100周年記念事業として打ち出す「FUJIKYU WAKU WAKU!PROJECT」についてうかがっていきます。はじめに、100周年を迎えるにあたって富士急グループが重視していることを教えてください。
堀内(富士急行):富士急グループには2026年9月現在で36の子会社があり、交通、遊園地、ホテル、不動産、飲料水など、非常に幅広い事業を展開しています。世間一般では「富士急ハイランド」のイメージが非常に強いため、お客様に「様々な事業を展開している」と認知いただくことを課題としてブランディングに取り組んでいます。
私たちが大切にしているのは、「富士を世界に拓く」という創業の精神です。2024年のグループロゴ刷新と新タグライン設定の際に、100周年を見据えブランド全体について見直したのですが、やはりこの創業精神に代わるものはないという結論に至りました。
事業では「Only1」「唯一無二」を重視し、都市部の大手レジャー施設や私鉄などを見渡しても「他社にはない価値」を提供することが不可欠と考えています。今回は、それを「WAKU WAKU(わくわく)」という言葉で表現し、記念事業のキーワードにしています。
富士急行にて専務取締役を務め、社長室長や総務部、人事部、宣伝部、企画部などの担当役員も兼任。2022年に社長室長に就任して以降は、同部署に秘書機能やIRだけでなく、マーケティングの機能を加えた。富士急グループのブランディングを主導し、100周年記念事業の実行委員会 委員長も担い、プロジェクト全体を統括する。
斎藤(富士急行):たとえば、キャンプ場などのアウトドアリゾート施設を展開するグランピングブランド「PICA」など、当社グループの事業であることがあまり知られていない領域もまだまだあります。幅広い事業展開について発信することで、お客様が「富士急グループのサービスなら安心だ、期待できる」と感じていただき、様々な接点で当社のサービスを選んでもらえる好循環を作りたいと考えています。
2004年の入社以降、富士急行およびハイランドリゾートなどの富士急グループ各社を経て、2022年より社長室に着任。堀内氏とともに、多様な事業を展開する富士急グループにおいて包括的なマーケティングに取り組む。
社員の“想い”を事業で表現する
MZ:100周年記念事業について、まずはプロジェクト立ち上げにあたり、どのようなお考えがありましたか。
堀内(富士急行):当社グループの事業を広く知っていただけるチャンスであり、また当社の原点である「富士山」を中心に、100年間支えてもらった地域への感謝も打ち出したいと考えました。
100周年に向けて様々な記念事業や活動が展開されていく中で、重要な課題の1つが、いかに社員を巻き込み、グループ全体の取り組みとしていくかというインナーブランディングでした。当社グループは多岐にわたる事業を展開し、社員数も非常に多いため、部門や事業を越えて社員が参画できる、100周年事業の中核となる施策が必要だと考えていました。
斎藤(富士急行):そうした堀内の強い想いを受けて、私も一緒にプロジェクトをリードしていくことになりました。部門やグループ企業を横断して社員を巻き込みながら、アイデアを具体的な施策として実現していくためには、ノウハウを持つ外部のパートナーに伴走いただく必要があると考えました。
そこで、以前「PICA」のリブランディングを支援してもらったFICCさんに相談しました。ワークショップをはじめとしたアプローチを提案してもらい、社内でも評判が高かった実績を踏まえ、今回のプロジェクトでも、戦略策定にとどまらず、ファシリテーションから施策の実行まで一貫して支援いただくことになりました。
MZ:相談を受け、FICCではどのように支援に取り掛かったのでしょうか。
森(FICC):堀内さんの想いを受け、まず私たちが果たすべき役割として考えたのは、普段は異なる事業に関わっている富士急グループの皆さまが、それぞれに抱いている「ステークホルダーの方々への想い」と「未来に対する想い」をどのように表現したいのかを引き出すことでした。そして、その想いを動機に、世代・職種・グループを超えた周年事業として実現していくことが、今回のご支援における一番の役割だと考えました。
ご支援にあたって富士急グループさんの歴史を学ぶ中で、改めて実感したのは、事業スケールの大きさと関わる方々の多さです。地元・地域の方々や日本全国・海外から訪れるお客様、グループ社員・パートナー・株主の方々など、本当に多くのステークホルダーとの関わりによって、富士急グループさんの100年が築かれてきたことがわかりました。
企業のブランディングとマーケティング支援を行うFICCで代表を務める。ブランディングとマーケティングを分断しない「ブランドマーケティング」という考え方を重視し、伴走支援を行っている。
森(FICC):今回のプロジェクトでは、まず、富士急グループさんが100年にわたって培ってきた「意味」を改めて捉え直しました。その上で、これまで富士急グループに関わってきたステークホルダーの方々の想いや、現在の社員の皆さまの想い、さらに、この先の未来に向かってどのような存在でありたいのかを引き出し、そこに共通するコアを導き出すことから支援を進めていきました。100周年という大切な節目だからこそ、社員の皆さま自身の想いが動機となり、グループの今後100年を力強く後押しし、経営の推進にもつながっていく取り組みとなることを意識しました。
私たちが大切にしているのは、ブランドに関わる方々のナラティブや想いが、次の時代や社会にどのようにつながり、ブランドの「意味」が未来においてどのような価値となるのかを、皆さまと一緒に見出し、推進していくことです。そのプロセスを通じて、ブランドに関わる方々自身が未来へのリーダーシップを発揮できる「動機」を生み出していくことを重視しています。
部署・グループ企業を超えた対話で見えた、根底にある“文化”
MZ:具体的には、どのような取り組みから始めたのですか。
斎藤(富士急行):当初、実行委員会でプロジェクトのアイデアを募ったのですが、非常にたくさん集まったため、その整理や全体のコンセプト作りが課題となっていました。
そこで、まずは部署・グループ企業横断型のワークショップを開催してもらいました。FICCさんのワークショップで印象的だったのは、懇親会をセットで行ったことです。普段は交流の機会が少ない、様々な部署や年齢、役職の社員が垣根を超えて気軽に話す場を設けることで、社内の一体感を醸成できました。
また、ワークショップを重ねるにつれて意見も増えていきましたが、FICCさんのサポートのもと常に「目的は何か」と原点を振り返りながら逐次軌道修正をしていきました。その積み重ねによって、プロジェクトを通じて伝えたい軸を社内で共有できたと思います。
森(FICC):ワークショップの後に「部署や企業が違っても、根底にあるものは同じだ」という声が上がったのが印象的でしたね。グループ全体で大切にされている“文化”が根付いているのだと思います。
社員の心の奥底にある“想い”の引き出し方と、ワークショップを「やって終わり」にしない工夫
MZ:ワークショップを行っても、アイデアの具現化まで至ることはなかなか難しいです。どういったことを重視したのですか。
田崎(FICC):私たちが支援に入る前から施策のアイデアはたくさんあったものの、“傘”となる大きなコンセプトがまだ確立していませんでした。そのため、全体のコンセプトを固めた上で事業アイデアを組み立てる設計にすることがポイントでした。大きな絵図を描きながら、各施策の具体化も並行する形で実現可能性などを検討していきました。
また、富士急グループさんが2024年に作られた新タグライン「わくわくの最高峰へ」をさらに社内で浸透させる必要性も感じていました。そのためワークショップでは参加者自身の喜びや感動のエピソードを話してもらうことで、自身の仕事との共通項を見出していただき、新タグラインの咀嚼やブランド理解を深めながら「自分ごと化」を促しました。これにより、「次の100年に向けて新しい“わくわく”をつくっていく」という事業の方向性を固めました。
企業やブランド、地域自治体などを対象に、ブランディングを一気通貫で支援。今回のプロジェクトでは全体のリードを務めている。
田崎(FICC):ワークショップは、普段の会議では話さないようなことも自由に言える場としました。そこで話してもらった一人ひとりの「富士急にまつわるエピソード」は、どれも感動的でした。皆さまはグループの社員であると同時に、地域で暮らす生活者でもあることを改めて感じました。
斎藤(富士急行):「バスに乗る」という日常的な行動ひとつとっても、住んでいる地域や年齢によって、それぞれの思い出があります。ワークショップを通じて、普段は意識していない、心の奥底にある社員一人ひとりの想いを引き出し言語化してもらいました。
田崎(FICC):大切なのは、100周年記念事業は一過性のものではなく、次の時代に残っていくものだという共通認識を持つことです。そのため、多様なステークホルダーの視点を踏まえて、どのような体験を提供できるかを設計することが重要です。
社員自ら“わくわく”を表現!プロジェクトの全貌
MZ:そのようなプロセスを経て、どういった施策が実現したのでしょうか。
堀内(富士急行):具体的な施策として「上から富士山」「あなたのわくわく叶えます」「富士山わくわくアート」「WAKU WAKU WORK」、そして社内向けの「WAKU WAKU プレゼント」の5つを打ち出しました。富士急グループが持つ事業や資源、富士山麓の魅力を活かしながら、地域の方々やお客様、社員と一緒に新たな“わくわく”を生み出していく施策です。
特に、富士山にまつわるエピソードを募集し、その中から選ばれた応募者を富士山周辺のヘリコプター遊覧に招待する「上から富士山」は、反響が大きかったですね。大切な思い出やエピソードとともに、実に1,000件弱もの応募をいただきました。ヘリコプター遊覧では涙を見せる方もいて、改めて富士山のパワーと皆さまの想いを感じました。
斎藤(富士急行):「あなたのわくわく叶えます」は、「こんな体験がしたい」など“わくわくすること”を募る企画です。電車に宿泊したい、遊園地で結婚式を挙げたいといった、私たちの想像を超える大胆な夢が数多く寄せられました。そうした夢を採択し、実現に向けて動かしていくところも、富士急グループらしさだと思います。採択された方全員に会いましたが、皆さまの熱量をひしひしと感じました。今後、それらの夢を実際に叶えていく予定です。
堀内(富士急行):「富士山わくわくアート」は9月より始動します。富士山がきれいに見える富士急行線の駅名標やバスのラッピングなど、世界文化遺産である富士山とアートを組み合わせ、富士山を中心とした景色そのものを記憶に残るものにすることで、エリアの文化的価値を高めていければと思います。「WAKU WAKU WORK」は、富士山観光をプロデュースする様々な富士急グループのお仕事を実際に体験できる企画です。
田崎(FICC):こうして生まれた多様な“わくわく”を1つの世界観として伝える上で、重要になったのが、プロジェクトの“顔”となるキービジュアルです。当初作成したクリエイティブ案に対して、「富士急はもっとカオスだ」というフィードバックをいただいたことが印象的でしたね。いろいろな要素が混ざり合いながら、1つの世界観を作り上げている。それが成り立つのが“富士急グループらしさ”だと解釈しました。その結果、いろいろな人の“わくわく”を表現するビジュアルが完成しました。
そして、社員が“わくわく”を体現する事業だからこそ、キービジュアルのモデルも社員の皆さまに担っていただきました。最終的には「自分たちの手で100周年を盛り上げていくんだ」という想いを感じ取れるものになり、より多くの方々に自分ごと化いただけたと思います。
斎藤(富士急行):ある役員は、家族で撮影に参加してくれましたね。新聞広告としても掲載しており、地域の人から「新聞広告に載っていたのを見たよ」と声をかけられた社員もいたようです。
森(FICC):そのエピソードを聞いて、本当に嬉しかったです。FICCではブランド支援において、代理店や支援会社主導ではなく、社員の皆さま自身がブランドアクションとして考え、体現されることを何よりも大切にしています。私たちはそれに伴走しながら、「問いを投げかける役割」を担っています。今回の取り組みも、富士急グループ社員の皆さまの想いを“物語”として表現するための「問い」を投げかけさせていただき、ご一緒に向き合っていくことからスタートしています。
富士山の感動と人の想いを、次の100年へ
MZ:今回のプロジェクトを踏まえ、富士急グループとして、次の100年はどのような存在でありたいですか。
堀内(富士急行):本プロジェクトは、当社グループの100周年事業全体の中の1つの切り口として実施しているものです。この取り組みにとどまらず、私たちの大きな役割は、富士山の魅力を伝え続けていくことです。昨今はデジタル化やAI技術が進んでいますが、富士山を見て感動する気持ちはリアルでしか味わえないもの。その価値は、100年後も変わらないでしょう。富士山自体も大きなステークホルダーと捉え、今後も価値を最大限伝えていきたいです。
個人としては、富士山をアートやカルチャーの発信地として、感動体験を届けていきたいです。富士山が美しく見える場所をはじめ、エリアの文化的価値をアートで高めながら人流を生み出すといったチャレンジもしていきたいですね。
斎藤(富士急行):当社は100年の歴史の中で、多様な取り組みに挑戦してきました。次の100年も、社員が常にチャレンジできる会社であってほしいし、自分自身もそうありたいと考えています。そして当社ならではの体験価値を提供することで、お客様からの信頼感を高め続けていきたいです。
MZ:FICCからも、今後の展望をお聞かせください。
森(FICC):富士急グループの皆さまが、一人ひとりの想いを社会につなげ、次の100年に向けて未来を共創しようとする姿は、私たちFICCがこれまでも大切にしてきた「ブランドと人の想い」が、未来を作る力になることをまさに体現するものでした。今回のプロジェクトでも様々な想いに触れる中で、私たち自身もたくさんの気付きをいただきました。これからも、富士急グループの皆さまはもちろんのこと、出会う一つひとつのブランドの方々とともに学びながら、それぞれの想いを社会につなげ、未来を共創できる関係を築いていきたいと思います。
田崎(FICC):一昔前は「ブランドが顧客の課題を解決する」という考え方が主流でしたが、今は「ブランドの姿勢や考え方に共感してもらい、関係性を構築する」ことが大切だと感じています。今回のプロジェクトでも、富士急グループの皆さまがそれぞれに抱く想いを、どのように表現し、社内外へ伝えていくかが重要でした。そこに人の体温が伝わるからこそ共感が生まれますし、社員の皆さま自身が参画したことで、大きな価値が生まれたと思っています。
ブランディングやマーケティングにおいて重要なのは、社員一人ひとりが納得して日々の活動に接続できることです。「べき論」を押し付けるのではなく、企業の皆さまが本当に実現したいことを引き出して、実行まで支援することが私たちの役割と考え、今後も取り組んでまいります。
ブランドマーケティングの事例とナレッジ共有会をご紹介
FICCでは、企業とのプロジェクト事例をはじめ、ブランドマーケティングに関する知見や、組織・活動について発信しています。また、事業の成長と組織の変革に挑戦する方々が学び合い、共創する場として、「FICC ブランドマーケティング ナレッジ共有会」を継続的に開催しています。
今後の開催情報は、FICCのWebサイトをご覧ください。
メイン写真提供:FICC

