LLM2.0時代にマーケターが身につけるべき3つの力
ここまで見てきたように、AIが実行を担う環境では、マーケターの役割そのものが変わります。では、何を身につければよいのでしょうか。
1.問いを設計する力
レポート作成や入稿などの定型作業は、今後さらに自動化されます。そこで差がつくのは、「なぜこのデータを組み合わせるのか」「誰にどのような体験を届けるのか」「何がわかれば次の意思決定ができるのか」を定義する力です。
AIに詳しいことと、良い成果を出せることは同義ではありません。事業課題を、検証可能な問いへ分解できるマーケターが強くなります。
2.小さく作り、早く確かめる力
新しいツールの評判を読むだけでなく、自分の業務の小さな題材で試してみます。完成度を上げる前に、ユーザーへ見せます。反応を踏まえて作り直します。この短い反復が、長い要件定義よりも早く本質へ近づく場合があります。
求められるのは、エンジニアの代わりになることではありません。AIを使って自分の仮説を動く形にし、専門家と具体的に議論できる地点まで持っていくことです。
3.業務を「短縮」ではなく「再設計」する力
10分の作業を5分にするだけでは、生成AIの効果は限定的です。依頼、待機、転記、確認、再依頼を含む一連の流れを見直し、人が行う必要のない工程そのものをなくします。そのうえで空いた時間を、顧客理解、仮説構築、社内外の合意形成へ振り向けます。
必要なのはAIツールの操作スキルだけでなく、業務全体を設計し直す視点です。これらの力を実務で生かすための確認項目を整理しました。
マーケターがAIにデータを触らせる前の確認項目
【問いを渡す前に】
- 対象者の定義は、顧客に説明できる言葉になっているか
- 母数は何か(分母を取り違えていないか)
- 期間の区切りは、施策の意思決定サイクルと合っているか
- 出力が個人の特定につながらないか
【プロトタイプを作る前に】
- 誰が、いつ、何のために使うのか
- どのデータが必要で、それは今アクセスできるのか
- 顧客が価値を感じるのはどの部分か(機能ではなく体験で答える)
【環境をエンジニアと握るときに】
- AIが参照できるテーブルの範囲を、事前に決めてあるか
- 実行してよい処理と、してはいけない処理を分けてあるか
- 表示できる集計粒度の下限を決めてあるか
「作れるマーケター」と「守れるエンジニア」が強いチームを作る
データを提供する側から見ると、この変化はマーケターとエンジニアの分業そのものを揺らします。LLM2.0時代に起きるのは、マーケターとエンジニアの境界消失ではありません。境界の引き直しです。
マーケターは、顧客課題を捉え、AIとともに仮説を形にし、データで価値を確かめます。エンジニアは、その価値を安全で持続可能な仕組みに変えます。両者は仕様書を挟んだ発注者と受注者ではなく、動くプロトタイプと検証結果を共有する共創者になります。
生成AIを「文章を速く書く道具」として使う段階は終わりつつあります。次に問われるのは、AIに何を生成させるかではなく、AIと一緒にどの業務を動かし、どの顧客価値を実装するかです。
マーケターが“作る側”へ一歩踏み込み、エンジニアが“守り、育てる側”として専門性を発揮します。その分担を設計できる企業から、マーケティングのスピードと質は大きく変わっていくでしょう。
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簗島 亮次(ヤナシマ リョウジ)
株式会社インティメート・マージャー代表取締役社長。
慶應義塾大学 大学院 政策・メディア研究科を2010年首席で卒業。2013年、Googleのレイ・カーツワイル氏が2020年に起きると予測した「あらゆるデータがひとつに統合される」という革命を冠した株式会社インティメート・マージャーを創業し、2019年10月東証マザーズへ上場。...※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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