複雑化するデジタルマーケティングやAIの進化など、マーケティングを取り巻く環境は劇的に変化している。そうしたなか、CMOやCDOの頭を悩ませているのが、これらの変化に柔軟に対応し、成果を出し続ける組織づくりだ。MarkeZine Day 2026 Autumnでは、メンバーズが実施したマネジメント層300人へのアンケート結果をもとに、ゴルト 代表取締役社長の池照直樹氏、パルコ 店舗事業本部 顧客政策部 部長の安藤彩子氏、メンバーズの永松拓土氏が「自走するマーケティング組織を実現するポイント」について議論した。
「自走するマーケティング組織」には何が必要なのか
組織が自律的に行動して成果を生み出し続けるには何が必要なのか。これはあらゆるマネジメント層に共通する課題だが、とりわけ難しい舵取りを迫られているのがCMOなどマーケティング分野のマネジメント層だ。データ分析やデジタル広告など、高度なテクノロジーを活用することが不可欠なうえ、昨今はAIの進化により、マーケティングの手法そのものが劇的に変わりつつあるからだ。
高度なマーケティング業務の遂行には、外部のプロフェッショナルの力が欠かせないが、外部に依存しすぎると自社内にノウハウが蓄積できない。そうかといって、すべてを内製で進めようとすると、慢性的な人材不足に苦労し、結局は「誰かの頑張り」に任せざるを得なくなる。
「内製化すべきか、外注に任せるべきか」は、マーケティング組織を預かる立場にとって昔から悩みのタネとなっていたが、近年のテクノロジーの進化により、この問いの重みは一層増している。
外注にも内製にも一長一短あり、両者は単純な二者択一ではない。実際、多くの企業が業務ごとに使い分けている。問題はその配分と、内と外をどうつなぐかの設計だ。
この点について、外部から「マーケティングDXの支援を担うプロ」として企業の支援に当たってきたメンバーズ 執行役員 マーケティングDX本部 本部長の永松 拓土氏、大企業のマーケティング・IT組織づくりと経営改革を十数年にわたって率いてきたゴルト 代表取締役社長の池照 直樹氏、実店舗を主軸とする企業でCRMとデジタルマーケティングの現場を預かっているパルコ 店舗事業本部 顧客政策部 部長の安藤 彩子氏が本音を語り合った。
企業の半数は「内製主導」、だが実行・運用は外部に頼る
議論の土台となったのは、メンバーズが実施した「従業員1,000名以上の大手企業でマーケティングに関与する課長職以上」を対象とした調査だ。調査によると、自社の体制を「内製主導」と位置づけた企業は50.5%と半数以上にのぼっている。なかでも、外食・小売・不動産開発など実店舗を主軸とする「リアル接点中心」の企業群では、その割合がさらに高まり65.5%と、全体平均を15ポイント上回っている。
この数字を見たパルコの安藤氏は、むしろ「(内製主導と答えた企業が)意外と少ないと思いました」と率直に打ち明ける。現場には「内製しなければ自社に何も残らない」という意識や、アウトソースのコストへの懸念から、少人数でも自前でやろうとする力学が強く働くという。
ただ、業務単位で分解すると内訳は一様ではない。「ビジネスゴールの定義」や「価値設計」といった上流の企画業務は内製率が高いのに対し、「クリエイティブ制作」や「Web広告運用」などの実行・運用分野の内製割合は大きく下がる。「内製主導」と自認する企業に絞っても、実行・運用分野の内製率は半数以下にとどまっている。
池照氏は「内製が強いのは良いことですが、見方を変えれば『できる人だけでやっている』状態にもなり得ます。そのため、本来であればより大きなスコープと人手が必要なのに、自分たちのできる範囲に閉じてしまう可能性もあります」とリスクを指摘する。
これを解消するには、経営に対して「自分たちの活動」がいかに利益につながるかをしっかり示して投資を引き出し、運用体制を整えることが必要だ。「戦略がどれほど優れていても、運用できなければ成果にはつながりません」(池照氏)と現実的な見解を示す。
それでは、内製主導企業は、なぜ内製を選んだのだろうか。
ノウハウを残すための内製主導が「属人化」を招く
内製を選ぶ理由として最も多かったのは「自社にノウハウや知見を蓄積したいから」というものだ。だがその一方で、ノウハウ蓄積を目的に内製した層の半数は「特定の人に依存して、異動・退職でノウハウが失われるのではないか」というリスクも感じているという。
池照氏は、こうした状況を生む要因として「1人が多種類の仕事を抱えすぎているのではないか」との見解を示す。たとえばチェーンストアに新卒で入社した場合、店舗勤務から店長へ昇格し、さらにエリアマネージャーへと進んでいく王道のキャリアパスがある。このやり方は、自社に最適化された深いドメイン知識を持つ人材を育てる反面、外の知見には弱い「自社ガラパゴス化」を生みやすい。
一方で、今の時代はデジタルの専門性も不可欠なものとなっている。このように、「縦の専門性を深めること」と「横に広がる幅広いドメインの知識を持つこと」を1人に求めると、「できる人」に依存することになり、ノウハウが組織のなかに蓄積されにくくなる。
安藤氏も池照氏の主張に同意する。パルコでは若手が3〜5年ごとに必ず異動するため、データを活用できる知識が身についた頃に配置が変わってしまうという。そんな状態を解決するにはどうすれば良いか。池照氏は「深いドメイン知識を持つ人と、専門知識を持つ人をチームとして融合させるマネジメントこそが要になります」と述べる。
外注の壁は「残らない・戻せない・見えない」
もちろん外注にもリスクがある。メンバーズの調査によると、外注によって「自社にノウハウが蓄積されない」「他社への乗り換えや自社運用への切り替えがしづらい」「業務プロセスがブラックボックス化する」という意見が上位に並んだ。
折衷案として「内製化支援を入れれば良い」という意見もあるが、ここにも落とし穴がある。内製化を目的とした支援サービスの導入経験者に課題を尋ねると、「推進人員が圧倒的に不足していた」「専門業務が多岐にわたり自社だけでは定着しきれなかった」という意見が上位を占め、外部の伴走姿勢よりも、受け入れる側の人員・体制の不足が内製化挫折の主因になっている点が浮き彫りになった。
メンバーズの永松氏は、企業支援側の立場から、「内製か外注かを問うのではなく『どういう変革チームを作るか』という視点が重要です」と明言する。「外部と内部が共存する形で、情報の非対称性をなくし『特定の人物だけに知見を貯めるのではなく、組織に知見を貯める』体制づくりこそ、自走するマーケティング組織を実現するうえで欠かせません」(永松氏)。
成果の差を生むのは「経営戦略」と「現場」の連動
実際、成果を出せる組織は何が違うのか。調査からは2つの傾向が示された。
1つは、外部をノウハウ移転や人材育成の目的で活用している組織ほど成果が出ており、日々のPDCAの頻度も高いこと。もう1つは、「経営が描く戦略」と、「現場の施策実行」の連動度合いによって、成果に大きな差が生じていることだ。「経営戦略と現場の施策が連動している」と答えた層と、連動していない層とで比較すると、「成果が目標通り以上」と答えた割合に大きな開きがあり、非連動層では大半が目標を下回っていた。
経営戦略と現場の連動を支える鍵となるのは何か。ここで浮かび上がったのが、ミドルマネジメントの機能だ。
連動できている理由に「中間管理層が機能している」を挙げた層は、成果が目標通り以上と答えた割合が明確に高かった。池照氏は「かつてのリーダーはレビューや承認をするだけの存在でしたが、今はインプットからアウトプットまでのプロセスを理解し、どこにボトルネックがあるかを把握して解消していくことが仕事になっています」と説明する。そのボトルネック解消の手段として活用されているのがAIだ。
たとえば顧客戦略の立案・実行についても、施策ごとにセグメンテーションやシナリオ設計・登録、クリエイティブ制作を展開していては、時間もかかるしスタッフも疲弊してしまう。そうではなく、AIを活用してセグメンテーションの自動化やシナリオの自動生成・最適化、クリエイティブ生成を行っていけば、プロセス全体を効率化でき、改革にもつながっていく。「付け焼き刃で対処するのではなく、プロセス全体を見直し、改革のストーリーを描くこともリーダーの役割です」と池照氏は説く。
そんなAIについて、マネジメント層はどのように向き合っているのだろうか。調査結果から、企業がAIに期待している成果を読み解いた。
AIを前提に「注力すべき分野」を整備・育成する
調査では、AIに対して「業務の効率化」「ノウハウや知識の形式知化・蓄積」が期待されていることがわかった。単なる省力化を超えて、組織の持続性を高める手段としてAIを位置づけているわけだ。
この結果を見て、安藤氏は「実はパルコも今まさにAI導入による業務改革の途上にあります」と打ち明ける。そのきっかけとなったのは、単純な「リソース不足」という課題の解消だったという。
そこで業務と必要スキルの可視化を進めた結果、安藤氏のチームでは、予算管理やプロジェクト推進、戦略立案といった本来重要な領域のスキルが不足している一方、メール配信やLINE、イベント運営といった手回りの実務に注力してしまっている構図が浮き彫りになった。
これらの実務はAIで代替していく方向にあるからこそ、そこに労力を割くのではなく、いま不足している「本来やるべき領域」へと人を移す必要がある。
部門内で相談を重ねる中で気づいたのは、「人が足りない部分を埋めるのは本質的な解決ではなく、本来は先に理解しておくべき『本当に自分たちがコアで持つべき部分はどこか』が明確でなかった」という事実だ。整理にあたっては、「足りないから社内でやる」「足りないから外部に任せる」「できているが他に注力するために外部に任せる」という3つの軸で領域を仕分けているという。
「どこを自動化して人の手を離すかのイメージはできていますが、その自動化を実装できる人材が社内にいるとは限りません。それにはやはり外部の協力が不可欠です。また、自動化された業務の担当者が次に何を担うのか、その再配置をマネージャーが設計する必要があります。この点についても、外部の知見が求められます」(安藤氏)と打ち明ける。
そんな安藤氏が選択したのが、「外部のプロフェッショナルに常駐してもらう」という形だった。協力を依頼したのは、紹介によって知り合ったメンバーズだ。メンバーズの永松氏のチームは、社員常駐の形で現場の社員とコミュニケーションを取りながら業務ノウハウ移管を支援している。社員とメンバーズの専門人材が同じ席に並び、日々一緒に手を動かすことで、専門人材が持つリテラシーを自社メンバーが吸収する。逆にメンバーズの専門人材も、パルコの事業ドメイン知識を吸収し、意図を汲めるようになっていく。安藤氏いわく「まさに、内製と外注の境目を、実務を通じて溶かしていく試み」だ。
永松氏は「環境や戦略の変化に応じてリソースを機動的に組み替えられる能動的な体制を取り、そしてAIも活用しながらナレッジを蓄積していく持続的な仕組みの実現に向けて動いています」と話す。
これを受けた池照氏は、「目の前のリソースに縛られず、まず制約条件なしで『何を成したいか』からプランを描き、そのうえで人・もの・金を中期の時間軸で準備すること」の重要性を説く。講演は、「『何が足りないのか』を発想の起点にするのではなく、『何を成したいか』から入れば、リソースは後からついてきます。大きく変化するには、ちまちまと小さく施策を打つのではなく、発想を変えることから始めましょう」(池照氏)との言葉で締められた。
「マーケティングは内製か外注か?」議論に終止符を打つ調査資料を公開!
マーケティング業務をすべて自社で行うのはリソースや育成の負担が重く、すべて外注すればノウハウが蓄積されない──。多くの企業が直面するこの課題に対して、メンバーズは、従業員1,000名以上の企業でマーケティング業務に関与する課長職以上303名を対象として独自調査を実施しました。
自社に最適なマーケティング業務の実行体制・組織のあり方を検討するヒントとして、ぜひ調査資料「マーケティング業務と組織に関する調査」をダウンロードしてください。
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岩崎 史絵(イワサキ シエ)
リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
提供:株式会社メンバーズ
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