オンラインビデオ配信に必要な機能をすべて装備
ブライトコーブの提供するサービス「Brightcove3」は、動画をオンラインで配信するために必要なものがすべて揃ったASP型のサービス。そのサービスの特徴は4つに大別されるという。
動画のファイル管理機能
Quick TimeやWindowsMediaのファイルをFlashで再生できるようエンコードができる。これには、タイトルや動画の内容、配信の期間といったメタデータの管理、動画を番組やシリーズにまとめて配信するメディアの管理も含まれている。
パブリッシング機能
従来、動画のプレイヤーはFlashクリエイターに制作を依頼していた傾向にあるが、ブライトコーブのソリューションでは、ユーザーがテンプレートを選択することで、プログラミングの必要なくプレイヤーを作ることができる。
バイラル管理機能
友達にメールを送る、ブログに貼り付けるなどの口コミ行為はYouTubeなどでも非常に多く見受けられるが、権利の問題などでブログでシェアできない動画もある。これらクチコミにつながるようなしかけを簡単に管理することができる。
収益化機能
この機能はメディア企業での活用が多い。動画にプリロールのCMをはさんだり、動画を配信するページにバナーを表示させたりと、コンテンツの収益化を図るためのサポートが必要になるので、そういった機能も提供している。atlasやADTECH、DoubleClickなどリッチメディアアドサーバとの接続も簡単に可能となる。
素早い対応が求められた世界陸上のハイライト映像
では、企業では実際にはどのように活用されているのだろうか。事例として同社のマーケティング&プロダクトマネジメント シニアディレクターの須賀氏(写真左)がまず挙げたのは、TBSの世界陸上ベルリン大会のサイトだ。TBSはハイライト動画、競技動画などを合わせ約570本の動画を同サイトへアップロード。その結果、世界陸上開催中の9日間で、世界陸上ベルリン大会サイトの総ページビューは約1,000万ページビューを記録。ハイライト動画、競技動画を合わせた動画再生回数は330万回を超えたという。
「TBSの場合は、撮影した動画をニュースの放送とほぼ同時にアップするような形で運用していました。コンテンツ管理のしやすさや、プレイリストへ簡単に加えられるといった機能はもちろん、タイトルや内容などのメタデータの管理も簡単に設定できるので、ワークフローを標準化して、素早いアップロードに対応できました」と須賀氏は語る。
ページ内の動画プレイヤーの上部と横にはバナー広告が表示され、各社の広告が配信されている。速報の動画には、関連した広告を出したり、ニュースの本文を読みながら動画を視聴できるなど、用途に応じたカスタマイズもされた。
「我々のサービスは、さまざまなAPIを公開しているので、プレイヤーのデザインはもちろん、動作的な部分でフィードとシンクロできるという特徴もあります。サイトに来て動画を見てもらうというインタラクションがテレビとは異なる点です。そこに広告を挟んだりするのはテレビ局さんは得意なので、その用途に応じたカスタマイズができるのが採用されたポイントです」
紙媒体の記事と相互に補完する動画コンテンツ
また、雑誌と連動させた活用を行っている会社もある。オレンジページは、2008年12月にサイトをリニューアルしその際にブライトコーブを採用した「キッチンTV」という動画配信のコーナーを開始した。
もともとは、雑誌の販促目的のWebサイトであったが、読者とのタッチポイントとしてインターネットでもコンテンツを充実させていこうという戦略のもと、動画配信も開始された。現在キッチンTVでは、料理のちょっとしたコツを10秒~30秒の短い時間で紹介している。
「3分間クッキングのような形式で、3分の動画を公開していた時期もありましたが、Webの世界で3分はけっこう長く、すべては見られないということがわかったそうです。表現を模索する中で、動画だけに頼るのではなく、文章と写真があって、それを補完する意味合いで動画を使ったら非常に反響がよくなったそうです。たとえば、『砂糖何杯』や『醤油何cc』などの情報は文字で見た方がよく、『油170度で水を入れるとこうやって跳ねます』といった情報は動画のほうが有効です」
このようにオレンジページでは動画を活用することで雑誌との連動が成功しているという。「続きは動画で」「詳しくは動画で」といったサイトへの誘導や、逆に「この動画の料理は記事で詳しく紹介しています」という相乗効果も得ているとのことだ。また、オレンジページでは、広告商品としてのビデオ配信も行っている。
その一例である、サントリーの発泡酒「金麦」とタイアップした「金麦TV」は、発泡酒に合う料理を作って楽しむ様子をビデオで配信するコンテンツだ。オレンジページというブランドと、ライフスタイルを提案するタイプの動画コンテンツにより、タイアップ色の薄い広告に仕上がっている。広告主としては、TVほどの予算をかけなくても商品を訴求でき、オレンジページとしては雑誌の広告商品の差別化に成功したというわけだ。
海外の新聞・雑誌社は積極的に動画を活用
一方、本社のBrightcoveでは、新聞や雑誌の顧客も多く、New York TimesやNews Week、TIMEなどそうそうたるメディア企業が採用している。新聞雑誌は広告収入の落ち込みが激しく、電子版に活路を見出すべく各社がWebサイトに注力している。
「New York TimesのWebはうまくいっていて、広告も満稿のようです。もともと結構先進的な取り組みをされていて、ビデオだけが見られるポータルサイトも作っていて、たくさんのビデオがあり、CMも入ってそれとシンクロしたバナーも表示します。しかし、なかなかビデオを見にくる人はいなくて、当初予定していたトラフィックが達成できませんでした。そこで、ニュース記事のページに動画を配置することにしたのです。たとえば、オバマさんがスピーチした記事にそのスピーチの動画を貼るのです。スピーチの動画を探す人はあまりいませんが、記事を読む人やその記事を検索して知る人のほうが圧倒的に多いです。その記事の横にある動画なら、単独であるよりもトラフィックが伸びました。よく考えたら当たり前のことですが、動画のポータルよりも、ユーザーに馴染みやすく、特にニュースや雑誌のサイトでは有効です」
企業サイトでも使われる動画配信
ブライトコーブを採用する企業は、メディアばかりではない。東京ガスはCMライブラリに注力しており、企業ブランディングの一環としてCMをアップロードしている。
「東京ガスさんの場合、テレビでオンエアしていない『ガス・パッ・チョ!ムービー』というコンテンツがあります。これは、パッチョというキャラクターがガス器具を使ってどれだけ生活が楽になるかということを紹介しています。雑誌かテレビで東京ガスの担当の方は、『動画で伝えられるものが広がったので、それを見てサイトに長く滞在してもらえるメリットがある』とおっしゃっていました。ガスは目に見えないし、会社の存在価値を訴えにくいですから、こういうコンテンツを用意する事で親しんでもらって、幅広い年齢の方に知ってもらうという意味で動画を積極的にお使いになってます」
さらなる機能向上が図られるブライトコーブの次の一手
オンラインでの動画配信に関するあらゆる機能を網羅しているとも言えるブライトコーブだが、須賀氏は、まだまだブラッシュアップしていきたいという。その1つはWebサイトでは必須となるログ管理の部分だ。
「レポーティングの機能強化が求められています。ドロップオフレートと呼んでいるのですが、どれくらいの時間、動画を視聴していると視聴率が下がっていくのかを測るものがほしいと言われます。また、地域での視聴率や、口コミの部分でどれくらいのブログに貼り付けられて、どのブログからどれだけトラフィックがあったのかを知りたいという要望もあります。この2点については、早急に対応したいと思っています」
もうひとつ注力しているのがモバイルだ。
「iPhoneで火がついた動画も多いと思いますし、iPhoneで動画を見るための専用の動画プレイヤーを出していきたいです。もちろん、日本の携帯もサポートしたいですね。特に企業ユーザーの方々は、携帯にも動画を配信したいというご要望が非常に強いです。PCと携帯は別のシステムを使われることも多いので、携帯を含めて一元管理できるようにしたいという意見をよくいただきます。確かに、そういうサービスを行っている会社はあまりありませんので、弊社では両方できるようなサービスを提供していきたいです。携帯は日本が先行しているので、日本主導で開発することになると思います。3gpは北米とかヨーロッパでは弱いものの、アジア系では採用されているところも多いので日本のサービスをアジア向けにも展開することは十分考えられます」
このほか、ライブのストリーミングコンテンツの管理や番組管理、広告挿入など、スタンダードなものができていない分野もチャンスがあるので、チャレンジしていきたいという須賀氏。ブライトコーブは、Webの新たな成長分野であるオンラインビデオ配信に必要なすべてのサービスを提供するために進化し続けている。