裏づけをもっていなかった企画担当者
この状況について東氏は「提案の質が低い原因は、企画担当者が我々の全体の売上の規模はどれくらいなのか、自分が企画担当しなければいけない機能やコンテンツの売上規模はどのくらいなのか、どういうユーザーに使ってもらいたいのか、などをきっちり把握していないからでした」と、企画担当者がサイトの状況を把握できていないことが原因であると指摘した。
「当たり前のことですが『サイトを知る』ことが大切です。それでは、サイトを知るには何が分かればよいのでしょうか。弊社の場合は、売上規模、つまりどのくらいのビジネスのボリュームがあるのかさえ分かっていませんでした。売上規模の目安がわからないと、どの機能開発に取りかかってよいのかどうかという判断もできないので、まずは売上規模をざっくりと押さえることが重要だと思います。次に『ターゲット』をきっちり把握することです。『じゃらん.net』の場合は宿泊施設の予約というサイトの特性があるのですが、レジャー目的で使われているのか、ビジネス目的なのか、家族旅行に使われているのか、などを把握することでターゲットが見えてきます」。
例えば、アクセス解析データからサイト内の検索ページは多くのユーザーが利用しているので売上へ大きく関係するという点と、ビジネス目的で利用されているという点が分かったとする。そういった事実から、検索ページを改善することで売上アップを見込める可能性が高く、ビジネスマンをターゲットとして改善に取り組めばよい、という予想ができ、質の高い提案を行うことが可能となる。
「弊社の場合も、今から4年ほど前の2004年の時点ではアクセス解析データを分析するという行為もないまま開発し、リリースをしてからでないと効果がわからわからない状態で、売上が向上した場合は結果オーライといったサイクルでした。こんなギャンブルみたいなことをそうそう続けてはいけないということで、機能開発をする前に一度決裁するというプロセスに変えました。すると、検討の質が低いため時間がかかることがわかり、先ほどお話したような業務改善につながりました」と振り返った。
課題解決のためのシナリオ
では、『じゃらん.net』の場合はどのように業務改善を進めていったのだろうか。東氏は「個人の企画の精度が上がり、スムーズな決済により開発を進めてリリースできるようになるためには、組織の体制、底上げが必要になります。そのためにまず選任の分析人員の確保を行いました。専任ということで、分析が大事であると社内にアピールするという意味でも大事なことでした。次に行ったのが、分析なしではビジネス確度を上げられないということを組織の中に浸透させることです。そして3点目が、どうやったら組織の中の個人が分析できる状態になるのかを考えました」と語った。
業務改善をはじめて1年が経過した2006年には、組織の中にいた企画担当者20~30名のうち2~3名を専任者としてチームを作ったという。社内に分析が大切であるということをアピールするとともに、サイトにとって重要な機能、サービスになることであれば、必ず企画担当者と分析チームが一緒になってビジネスを考えるということを徹底した。結果、ある程度のコストをかけた開発についてはしっかり決済ができるようになった。
2007年には、さらに企画の精度を向上させるため2点目の“分析行為の浸透”への施策を行った。東氏は「このころの分析チームはいろいろな部署に働きかけて、活躍し始めました。定期的に、メルマガの購読者数、サイトに来ている人と売上、コストとのバランス、機能別のPVといったマクロデータをかなりの数、常に誰でも見れるようなところに最新の状態で掲示しておくという当たり前の方法で伝えていきました。その結果、企画立案・検討のスピードが向上し、この段階で企画・開発前に分析するという文化できあがりました」と語った。
