アクセス解析において見落としやすい重要なデータ
── 解析ツールを導入するに当たって、必ず収集すべきデータや、見落としやすいデータはありますか?
解析ツールをこれから導入するのであれば、導入や設定は簡単にできますが「その運用は日々難しくなっていくのだ」という心構えを持って欲しいですね。ツールの導入を怖がる必要はまったくありません。簡単にできます。使いながら段々とツールの機能を学んで活用していけば良いのです。
まず収集して欲しいデータは「直帰率」です。このデータは、訪問者のサイト上での行動を理解するうえで大切な数字です。何人がサイトを訪れて、どこもクリックせずにどれだけ早く立ち去ったか、立ち去らなかったか。直帰率が高いキーワードがあれば、ランディングページが悪いのか、それともキーワードが合わないのかというのが見えてきます。解析ツールの初心者でも、この数字を基にサイトやキャンペーンを今すぐ改善できます。
ウェブサイトのホームページが1つという考えが古いというのは分かりますよね。検索の世界では、サイト内の全ページがホームページ、ランディングページになり得るわけです。ですから、人々が最も訪れるTOP 10ページはどれかを調べ、各ページの直帰率を調べ、改善策を取ります。結果として人気ページでの満足度が上がり、最終的にコンバージョンも上がるでしょう。難しく考える必要はありません。簡単にできるポイントがいくらでもあります。
2010/02/12 12:43
上記に一部誤訳がございました。お詫びして、訂正いたします。
修正前:離脱率
修正後:直帰率
コンバージョンは大切なデータですが、それよりも「1つの注文にかかる平均コスト」に注目すべきだと思います。コンバージョンを1%上げるのではなく、注文1つあたりの平均コストを百万円から10万円に下げる、という考え方です。その結果、コンバージョンだけでなく実際の利益を上げることになります。今、この数字を活用している会社は少ないですね。
私はよく冗談で「ウェブに一夜限りは無い」と言うのですが、サイトを初めて訪れた人が、その場で購入する/コンバージョンに繋がるチャンスは、ほとんどありません。
── それは購入サイクルというものがあり、訪れる人達がそれぞれ違った購入サイクルにあるからですね。
そうです。末永い付き合いを考えるべきです。最初にサイトを訪れてから購入するまでに3~4回、またはそれ以上の訪問数が必要だと考えてください。仮に最初に欲しいものが見つかったとしても、上司や奥さんの了解を得なければならないかもしれませんよね。私は何時も奥さんに「このガジェット買っていい?」と訊きますよ。オンラインでの購入にも時間はかかります。ここで役に立つのが「購入までの日数」です。広告や検索結果や電子メールから初めて訪れた人が購入するまでの日数です。顧客を理解する上で大切なデータです。もしも電子メールのキャンペーンが一番日数がかかると分かれば、そこを重点的に改善すればいいわけです。また、訪問者との最初のデートでホームベースまで行かなくても大丈夫だということが分かります。
── ただ無理に押してもダメですよね。
そうなんです。図々しく押すだけではダメです。データから、購入までに平均3回訪問していると分かれば、大きなフォントで「今すぐ購入!」のようなメッセージで押し倒すのは悪影響だと気付くでしょう。この場合、商品やサービスについて十分に理解できる時間を提供することが大切です。
サイトで何も販売しない会社、例えば新聞社のサイトなら、私は訪問者数を気にしません。ページビューも気にしません。Eコマースでないサイトでは、「訪問者の忠実性」と「次に訪れるまでの時間」が1番大切なデータです。「これらは、あるユーザーの訪問頻度を測ります。このデータがあれば、サイトを変更した際に頻度が上がったか下がったか ― 変更の効果を測定できます。
訪問回数が増えて訪問の間隔が縮まり、サイトの利用が増えれば、サイトに掲載している広告を見たりクリックしたりする可能性や、新聞を購読してくれる可能性も上がります。せっかくサイトを作っても忠実な利用者が増えなければ、意味がないと思いませんか。Eコマースでないサイトでは、この2つのデータを私は参考にし、活用します。
他には、私は競合性を測るツールのファンです。いろいろなツールが出ていますが、例えば私の会社でMP3プレーヤーを製造販売しているとしましょう。グーグルのインサイトサーチで、検索シェアを算出することができます。MP3プレーヤーを探している人の数と、その内の何人が私のサイトを訪れ、何人が競合サイトを訪れたかを教えてくれます。このように、今すぐ役立つデータを簡単に出してくれるツールがいろいろとあります。
── 解析ツールというと数字に焦点を当ててしまいがちですが、実は検索の向こうにいる人間 ― 顧客を理解するツールだということですね。
まさに同感ですね。TVやラジオ、新聞、店舗などでは、最適な利用客を把握したり、利用者一人一人と会話/交流する場を持つのは困難です。TVの広告は、一方的に叫んでいるのと同じです。これは交流ではありません。
検索では、世界のどの検索エンジンでも、まずユーザーが「MP3プレーヤー」とか「ハイブリッド車」のようなキーワードで興味を教えてくれます。そして、私が販売している商品を、興味を持って探している人の前に立たせてくれるのが検索です。CMが流れるとトイレに行ってしまう人ではありません。これが検索のパワーです。訪問の目的はキーワードから理解できるので、ランディングページをうまく使えば、訪問者と会話を持ち、良い形で交流できます。この訪問者と「会話」できる機能は、ウェブサイトで一番気付かれていない、利用されていないパワーだと思います。
ツイッターもそうですね。一年ほど前にあるカンファレンスで「ツイッターの何が面白いのかよく分からない」と発言したところ、即座にそれを参加者達がツイッターで発信し、3分以内に300以上の抗議メールが届きました。そのパワーに驚きましたね。今では、すっかりツイッターのファンです。私の話に興味を持ってくれる人達と交流できる素晴らしいツールです。どこかに「本を買ってください」という広告を出すよりも、私が発信する解析などの会話を通して本に興味を持ってもらう方が効果があります。こういったパワーは、検索やソーシャルメディア特有です。ウェブだからできることです。この価値に気付いている人は少ないのではないでしょうか。
── そうですね。徐々にツイッターやウェブのいろいろな機能を使う人が増えているので、この状況は改善されていくと思います。さて、2月にロンドンで開催されるサーチエンジンストラテジーズカンファレンスで、基調講演をされる予定ですね。講演のトピックは「How to be awesome(素晴らしくなるには)」だそうですが、参加できない人のためにも少し内容を教えていただけますか?
私が検索エンジンマーケティングで大好きなのは、ただ信じるのではなく、データを基に確実なプランを立てられることです。想像や憶測ではなく、実際の数字を基にビジネスを展開できることです。ROIを改善するためのデータがいろいろと提供されています。講演では、現状ほとんど使われていないデータの中から、ぜひ利用して欲しいものを3~4個取り上げて話そうと思っています。
検索関係のレポートは、テーブルやエクセル表になっている場合が多いと思いますが、紙面や画面の制限などで、数百、数千のデータを一目で分かりやすくレポートする事はできません。私のサイトには、25,000のキーワードを通して35,000人が訪れていますが、タグクラウドやキーワードツリーのような技術を使えばこれが一目で分かります。このような素晴らしい視覚的表現を使えば、キーワードをより理解することができます。私はロングテールのキーワードにとても魅力を感じます。1つ1つのキーワードは4~5人の訪問者数だけれども、そういったキーワードを合わせると6万人の訪問者数になるとデータに出た場合、そんなロングテールのキーワードで検索する人をどうやって掴むか、という話です。「デジタルカメラ」のように多くのサイトが争っているキーワードは、入札額も跳ね上がります。「デジタルカメラ」に入札せずに「デジタルカメラ」に興味を持っている人の前に立つには、ロングテールを活用するのが1番です。
当たり前のことではない事をしながら検索の価値を分かってもらう、そんな話をする予定です。もちろん、メトリックスについても話しますよ。
── ロンドンの講演を楽しみにしています。最前列で聴講しますね。