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MarkeZine Day 2025 Retail

現場リーダー必見! アクセス解析実践日誌

縦長いページデザインは是か否か?
楽天におけるスクロール量計測導入の裏側


【改善と効果】スクロール率を加味したデータからの改善策立案

 コンテンツごとの効果の現状が見えたこの時点で、改善の施策を決定するため、事業部のアナリストと打ち合わせを行った。進め方とスケジュール感を共有したうえで、「何をするのがベストか?」「即効性があると同時に、今後の運用に活かせるノウハウが貯まる施策は何か?」を1時間で議論した。

 画面を見ながら、過去の経緯や今後の注力ポイントを踏まえて決めたのが、下記の3つの施策だ。

施策1.「キャラクター特集ページ」に掲載する商品の数とバリエーションを増やす

仮説:商品を選ぶのに迷いながらスクロールしている。CVRが1番高いということは、キャラクターのぬいぐるみを買いたいという動機が高い、ということだ。商品とのマッチング率を高めれば、購買に至る可能性が高まるはず。

施策2.「価格別ページ」へのリンクを増やす

仮説:CVRは2番だが、スクロール率を加味すると、最も優秀なページである。これ以上CVRを伸ばすのではなく、このページへの流入を増加させることで、サイト全体のコンバージョン率を高められる。

施策3.「文例別ページ」からサイト内へのリンクを増やす

仮説:今回のスクロール計測とは関係ないが、SEO効果による流入が多いにも関わらず、直帰や離脱することが多いと分かった。コンテクストに合わせたサイト内へのリンクを増やすことで、サイト全体のコンバージョン率を高められる。

 4日後に、これらの施策をリリースしたと連絡を受けた。変更内容を確認し、講演当日までに最も長く検証できる期間を決定。検証期間を過ぎた翌日にアクセス解析ツールからエクスポートするCSVデータを貼りつけるだけで前後比較ができるよう、Excelドキュメントを作り込んでおいた。意図どおりの結果になるのか、それとも予想外の結果になるのか。または、何も分からないかもしれない。どんな結果になったとしても、やってみないと分からないという事実は変わらない。後は結果が出るのを待つだけだ。

 そして、講演前日。結果は、ほぼ予想どおりとなった。

施策1の結果.CTRとCVRが両方とも向上した

【図11】改善結果その1「キャラクター特集ページ」
【図11】改善結果その1「キャラクター特集ページ」

 CTRが27%から33%に、CVRも5.0%から5.6%に変化した。CVRの+0.6%に統計的な優位差があるかはさらに詳しい検証が必要になるが、今回は“限られたリソースの中でもできることはある”というストーリーの事例として位置付ければ良いだろう。

 そもそも、商品リンクをクリックした後のCVRは、商品詳細ページでの説明文や写真の品質、在庫状況などにより変動するため、特集ページ単体の効果としては、CVRではなくクリック率を見るのが適切だ。そう考えると、ショッピングカートへの投入率ではなく、クリック率を計測すべきだった。クリック回数を計測するためには追加実装が必要になるため、次回の課題とし、今はこれ以上の深追いをしないでおく。

施策2の結果.CVRが4.4%から4.2%に下がったが、CTRが31%から37%に増加した

 全体のボリュームが増えるという仮説だったため、これらが変化するのは想定外だった。CVRの0.2%はひとまず誤差だと捉えるとしても、CTRが顕著に増加している。リンクを増やすことで“欲しい商品の種類にこだわりがなく、とにかく価格帯があうもののなかから選びたい”というニーズにより合致するようになった、と考えると納得が行く。

施策3の結果.CTRが2%から4%に、CVRが0.8%から1.9%に増化した

【図12】改善結果その3「文例別ページ」
【図11】改善結果その3「文例別ページ」

 こちらは期待どおりの結果に。

 最後に、他のページの変化もざっと確認したが、カニバっていることは無いようだ。母の日の特集ページはこの検証期間中に終了したため大きく変化が見られるが、特集ページ全体の効果は、CTRが15.6%から18.3%に、CVRが2.4%から2.7%に変化している。全体としても向上しているので、今回は良しとしよう。

【今後の課題】社内共有とレポートのテンプレート化、マニュアル作成

 “スクロール率を計測しておくと、コンテンツの効果測定で役に立つ指標が増えるため分析の幅が広がる”ということが分かった。今後はすべてのサイトで導入するよう、標準設定に組み込むことにする。

 また、このような分析と改善が可能、という認知を社内で広めるため、事例を毎月の共有会議や月曜日朝の全社朝会で発表することにする。1350人を超える社内のアクセス解析アカウント保持者へ隔週で送付しているメルマガでも、紹介する価値があるだろう。

 標準化にあたっては、現場の運用負荷を下げる必要がある。今回作成したExcelドキュメントをベースに、なるべく自動化したレポートをテンプレート化しておく必要がある。マニュアル作成も必要だ。

 今後は、適用事例を増やしながら、解析ソリューションとしての精度も高めていく必要がある。商品選択の迷い度を把握するため、ページの滞在時間も加味すると良いかもしれない。必要になったらA/Bテストで統計処理も可能だ。やることはいくらでもあるため、ある程度は割り切りながら、効率よく迅速に推進していきたい。

 次はどのソリューションを実践し、標準化すべきか? 模索は続く。

今回得た教訓
  • 指標はクリエイティブに組み合わせると、意味を語る
  • 分かることではなく、知りたいことを調べる
  • 結果を知る前に予想しておくと、数字に惑わされない
  • 施策だけではなく、解析自体もPDCAを繰り返す
  • 実践から得られる知見が、応用力につながる

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この記事の著者

清水 誠(シミズ マコト)

Webアナリスト/改善リーダー。

1995~2004年まで凸版印刷・Scient・RazorfishにてWebコンサルティングやIA・UI設計に従事した後、事業会社側へ転身。UX/IAやデジタルマーケティングの導入による社内プロセス改善の推進と事例化を行っている。ウェブクルーでは開発・運用プロセスを改善し上場を支援、日本アムウェイでは印刷物のデジタルワークフローとCMS・PIMを導入、楽天では...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2012/10/18 15:58 https://markezine.jp/article/detail/10542

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