設計:エンゲージメントを指標化する
「エンゲージメント」の計測を例にとって、設計と実装方法について具体的に考えていこう。
エンゲージメントのおさらい
「エンゲージメント」という言葉は、人や場合によっていろいろな意味で使われることが多い。Web解析の業界でもこの言葉が使われるようになってから、もう4年以上経つ。まずは、過去の研究内容についておさらいしておこう。最も参考になるのは、前回も紹介したE. T. Peterson氏によるNedstat(現comScore)提供のペーパーだ。
- オンラインで全てのコンバージョンが発生するわけではない
- だからこそ、代替の指標としてエンゲージメントの計測が重要
- サイト上の行動から、エンゲージメントのレベルを推測することができる
- それぞれのビジネスに合わせて要件を定義し、数字に振り回されないことが重要
※参考:「Visitor Engagement: A "No Excuses" Approach to Measure Engagement in the Digital World」(英語)、E. T. Peterson
Web解析ツール各社も、上記のポイントに沿って機能を提供している。例えば、昨年、日本法人も誕生した米国大手Web解析ツールベンダー「WebTrends」は、2007年に既にこの機能を実装している。また、Adobeも、2010年3月のOmniture Summit 2010において、SiteCatalystを使ったカスタマイズ方法を発表した(※参考リンク:Visitor Scoring in SiteCatalyst)。
本稿でも、アクセス解析というコンテクストにおいて、「エンゲージメント」を「サイトへの関わり方を通して推測できるユーザーのWebサイトやサービスに対する期待や態度、動機」と位置付けることにする。
エンゲージメントを数値化するには?
では、どうすればエンゲージメントを数字として指標化できるのか?
最近のサイトでは、Facebookの「いいね!」ボタンのように、訪問者をエンゲージさせるための各種機能が提供されている。これらがクリックされた時に、ユーザーのスコアに一定の点数を加算していく。
ただし、エンゲージメント系の機能にもいろいろあるため、加算する点数を機能ごとに定義して、強弱をつけたい。そこで、それぞれの機能は何を狙って提供しているのかを整理し、期待する効果を「共有」「意見」「後で」に分類。そして、機能と効果の表を作成し、強弱の違いを記号で表してみた。

「●…強い」「○…普通」「△…弱い」「×…ない」を表す。これらを3点、2点、1点、0点に換算して横方向で合計すれば、各機能が使われた時に加算すべき点数を定義できそうだ。
しかし、よく考えると、「共有」「意見」「後で」という3つの効果にも、重み付けが必要なのではないか? サイトの目的によって、これらの効果がビジネスゴールに与える影響度に差が出るはずだ。そこで、これら3つの効果を、さらにサイト運営側の意図(目的)とマッピングしてみた。

今回の例では、消費財の販売サイトをイメージしてみた。そのため、リピート購入につながる「また来てもらう」が最も重要、「広めてもらう」は結果的に別の新規見込み客が獲得できるため2番目に重要、と位置付けた。これらの重要度を1点、2点、3点とし、△を2点、○を3点、●を4点に換算したものと掛け算し、縦方向で加算した。この結果、「共有」は17点、「意見」は4点、「後で」は12点、というスコアが得られた。このスコアを先の表に反映させて、最終的に「Twitterでつぶやく」は17×4+4×3+12×2=104点、というスコアを得た。

例えば、【図6】のように1人のユーザーがサイトを2回訪問した場合、各種の指標がどうカウントされるのかを具体的に考えてみよう。最初の訪問では、2ページを閲覧し、次にRSSアイコンをクリックした。クリックしただけではRSSの購読を完了したかどうかが分からないが、“少なくともフィードを購読することでサイトを再訪問したいという意思を持っていた”と解釈し、クリックの時点でエンゲージメントスコアに48点を加点する。そして、3日後に再訪問し、記事ページの下部にある「いいね!」ボタンをクリックした時点で、今度は67点を加算する。この結果、このユーザーのエンゲージメントスコアは、合計115点になる。

このように、スコアリングを行っていくことで、エンゲージメントも指標にすることが可能になる。なお、繰り返しになるが、上記の各値はあくまで例であり、ビジネスやサイトのコンセプトに基づいて指標やスコアリングのロジックを決めていくことが重要だ。アプローチの参考として考えてほしい。
では次に、実装の概要と分析時のポイントについて解説していこう。