専門誌に学ぶ、企業メディアづくりのポイント
では、企業のオウンドメディアも既存のメディア企業のコンテンツに負けないような面白いコンテンツを出し続けなければいけないのだろうか。
田端氏によると、それは少し違うようだ。「リーチを考えると、既存のマスメディアのように1000万人単位のリーチを目指さなければいけない会社はあまりない。そこで参考になるのが、雑誌ビジネスだ」
自社や自社が扱うカテゴリに興味がある人たちと接触することをまず目指すとすると、雑誌ビジネス、それも専門誌の成り立ちが参考になるという。例えばサーフィン雑誌やスケボー雑誌、盆栽雑誌など趣味の領域に特化したものが多くあるが、そこにはマスメディアに比べれば規模は小さいながらも、それを楽しむ人や関連商品を買う人、商品を売る人、教える人、格付けする人などが存在し、ひとつの生態系が成り立っている。
「でも、やったことのある人は多いだろうが『缶蹴り雑誌』は存在しない。マーケティングの観点からいうと、専門誌が存在するということはそこに業界があり、市場あるいは需要が生まれているということ」と田端氏は分析する。いくら発信者が価値ある情報だと思っても、受け手が存在しなければコンテンツを通したコミュニケーションも成立しようがないのだ。
受け手の潜在ニーズを捉えれば、その人たちを発掘できる
だが、実は“受け手”は刺激し発掘することができる。ここで田端氏は、2004年に創刊したヨガ専門誌「Yogini」を例に挙げる。90年代半ばのヨガは、やや精神世界寄りの怪しいイメージがあったが、その後アメリカで女性を中心にライフスタイルやファッションとして受け入れられていった。それにいち早く着目し、日本の若い女性に美容法としてのヨガを提案したのが「Yogini」だった。
「体型やダイエットは気になるがスポーツクラブで筋肉をつけたいわけではない、という若い女性の潜在的なヘルシー志向を捉え、ヨガブームが起こり、関連商品やヨガ教室、さらにはOLからインストラクターに転身する人なども出現した。需要が顕在化すると『ヨガ 教室』などと検索する人が多く現れ、一過性の流行で終わらずに市場が定着した。Yoginiはまさに、みずからトレンドを作り出したと言えるだろう」
情報の受け手に、どんなパッケージで呈示すれば興味を持ってもらえるのか。その視点と、情報の送り手の意図や動機とをすり合わせることこそ、コンテンツづくりの肝であり編集が果たすべき役割だ、と田端氏。