リアル市場の売上を狙うWeb事業者たち
スマホの登場を熱烈に歓迎しているのは、何も利用者だけではない。それ以上に期待を寄せているのがWeb事業者たちだ。インターネットからリアル(実店舗)へ顧客を送客するO2Oという新しいモデルを実現させるためにも、スマホは欠かせないと考えているからだ。
ネット事業で急成長を遂げたグーグルやアマゾン、ヤフーなどの大手Web事業者たちは、その勢いを駆ってリアル市場になだれこもうとしている。EC市場で強大な力を持つ彼らにとって、次の目標となるリアル市場は魅力的だ。
野村総合研究所の「インターネット経済調査報告書」によると、リアル店舗等での購入消費支出規模約110兆のうち、21.8兆円もの消費にインターネットが関与しているという。これは家計支出年報の品目のうち、店舗などでの消費(インターネット以外での消費活動)の約19%相当である。この数字からわかるように、EC市場が拡大しているとは言っても、リアルな店舗の売上規模と比べるとまだまだ小さい。そこでEC市場で自信をつけたWeb事業者たちがその豊かな市場を狙って積極的に動き出したのである。
ネットとリアルの溝を埋めるスマートフォン
実をいえば、インターネットとリアル店舗を結ぶマーケティングのモデルは、「クリック&モルタル」と呼ばれて2000年頃から存在していた。ただ、これはあくまでリアル側が主体であった。つまり、ごく簡単に言うと、リアル店舗のブランド力を活かして、オンラインでも商品を売るということだ。たとえば、スーパーがリアル店舗のブランド力や認知度、信頼性を活かして、ネットスーパーを設けて販路を広げる動きなどだ。
それに対して、O2Oはネットからリアルへと攻め込むもので、主体はネット側であり、流れが逆なのである。オンライン上のさまざまな仕掛けやクチコミなどの評価が、リアル店舗の売上に貢献する。
またインターネットへ接続するツールがPC主流の時代は、ネットとリアルの間のギャップが大きく、オンラインとオフラインをスムーズに行き来できなかった。当時は、まずパソコンでインターネットにアクセスして、クーポンを紙に印刷して、それを実店舗に持ち込んでいた。この手順は、消費者にとって面倒くさいものであった。
ところが、今やスマホが登場し、こうした悩みが一挙に解決した。スマホならネットとリアルの溝に橋を架けてくれて、「いつでも、どこでも」場所を選ばずに利用できる。クーポンでお得を取ろうという時にも、まずスマホにダウンロードしておき、店で見せるだけで割引を受けられる。これなら手軽である。
また、買い物をするたびにクレジットカード番号を入力する必要もなく、ネットとリアルで同じIDを使ってワンクリックで決済することもできる。たとえば、スマホを持ってファストフード店に入り、ハンバーガーとコーヒーを注文すると、それだけで決済、つまり支払いが完了する、そんなことまですでに現実になっている。
このようにスマホの急速な普及は、決済業界にO2Oという新たなうねりをもたらしている。そして、Web事業者たちはスマホが新しい時代を開く理想のツールと期待している。