杉山 知之先生
1987年よりMITメディア・ラボ客員研究員として3年間活動。90年国際メディア研究財団・主任研究員、93年 日本大学短期大学部専任講師を経て、94年10月 デジタルハリウッド設立。2004年日本初の株式会社立「デジタルハリウッド大学院」を開学。翌年、「デジタルハリウッド大学」を開学し、現在、同大学・大学院・スクールの学長を務める。2011年9月、上海音楽学院(中国)との合作学部「デジタルメディア芸術学院」を設立、同学院の学院長に就任。2006年より、モバイル広告大賞の審査員として参画。
マーケターのアイデアが活かせる時代
杉山:日本のデジタルコミュニケ―ションの特長は、消費者の行動をヒントにして、それに気付いたマーケターが施策に取り入れていくといった面が強いと思います。ずっと昔から、新しい使い方を若い人が発見していく、そんな流れがあると思います。「女子高生が流行をつくる」というのも、まさにこの流れですよね。
今では世界に日本が追随しているように感じている人もいるかもしれませんが、もともとはモバイルコミュニケーションの文化はずっと日本がリードしてきました。日本の大衆とマーケターがともに、この世界をつくってきたという見方を私はしています。
だから、昨今のキーワードとなっているO2Oに関しても、若い人たちがコミュニケーションをしている中からヒントがたくさん出てくると思います。O2Oとは言っても、別に新しくも特別なことでもありません。もともとモバイルは、常に持ち歩いているものですよね。オンラインとオフラインは同時にあるもので、いつもどこかは現場なわけです。
オフラインとオンラインの関わり方は、今考えられているものよりも、もっといろんなカタチがあるはずです。マーケターのアイデアが活かせる時代になったと思います。
広告の枠を超え、ビジネスの根幹の施策となるモバイル広告
小野:マーケティングという切り口からモバイル広告の歴史をざっくりと振り返ってみると、昔はバナー広告がどれだけ目立つか、キャンペーンで人をどう誘導するかといった、わりと短期的な販促プロモーションという色が濃かったですね。
そこに登場した、マクドナルドのモバイルクーポンの事例は、非常に衝撃的でしたね。これは広告の領域に関わる課題をはるかに凌駕していました。
クーポンなので、一見すると短期的キャンペーンの仕組みのようにも見えますが、実は厨房のオペレーションとマーケティング、プロモーションがつながっている仕組み、という点がアピールポイントでした。簡単に言うと、消費者がレジでモバイルクーポンをかざすと、その情報が厨房まで伝達されることで、ハンバーガーが出てくる時間が、今までよりも何秒か短縮されるといった仕組みです。
たった数秒であっても、これが全国に多くの店舗を持つマクドナルドの規模になると、ものすごく大きな時間短縮になり、年間で考えると何億円という収益増に結び付く計算になります。それは単なる購入前のプロモーションにとどまらず、購入プロセスやビジネスの仕組みに組み込まれたことは、エポックメイキングでした。
収益に結び付く、業務の中に組み込まれるという話になってくると、そもそも広告の枠におさまらず、ビジネスモデルそのものなのでは、とも思います。
杉山:小野先生がおっしゃるように、マクドナルドのモバイルクーポンの事例は衝撃的でしたね。単なるクーポンとは全然違います。
モバイル広告が、広告の枠を超えて、いわばビジネスの根幹の施策になっていると実感した事例でしたね。宣伝部やプロモーション担当部の人レベルでの話ではなくなっていますよね。経営企画部や、会社の上層部の事業部長まで巻き込んで、モバイルをどうやって活用するかという話が進んだ証だと思います。ここはすごく大事な点です。