広告主や広告会社、ソリューションベンダーのハブに
MarkeZine編集部(以下、MZ):Yahoo! JAPANは昨年7月に“爆速”をキーワードに掲げ、大きな組織変革に取り組まれました。その一つが「マーケティングイノベーション室」の新設でしたが、室長として約1年を振り返っていかがですか?
友澤:設立当時は新しいことに着手する部署という印象でしたが、今は当社の広告全般をどう推進していくかという視点で取り組めています。スタッフも兼務者を含めて15人程度になり、クリエイティブの人材も加わりました。広告主や広告会社、ソリューションベンダーとの接点を強化して、イノベーション室がハブとしての役割を担えるようになってきたかなと思っています。
手前味噌となりますが、ヤフーが変わるとそれなりのインパクトがあると実感した1年だったので、より成果を高めるためにはどのような方法をとればよいのか、業界への啓蒙の必要性も感じています。
MZ:MarkeZineでも取材をしましたが(参考記事)、広告ソリューションも1月のリニューアルを経て「プロモーション広告」「プレミアム広告」が大きく打ち出されました。
高田:私は4月からディスプレイ広告の責任者を務めていますが、社内の雰囲気が変わった影響もあって、新しい技術や手法には私たちが最初に飛び込もう、という姿勢で進められています。営業も開発も“前のめりに倒れる”人が増え、成長のモードに切り替わったと思いますね。広告が業績向上のけん引役になっていることは、数値にも表れています。
カンヌで感じた“テクノロジーとクリエイティブの融合”
MZ:ちなみに、業務上のお二人のかかわりはどのようになっているのでしょうか?
友澤:高田は、こちらのアイデアや意向を非常にうまく形にしてくれる人です。実装してもらって、うまくいけば外に伝えるというサイクルをすごく速く進められています。
高田:私にとっては友澤が一番厳しい“お客様”です(笑)。その期待に応えられれば他社の期待にも対応できるだろうと思っています。
MZ:お二人の密なやり取りが、変革のスピードや質を高めているのですね。友澤さんは先日行われたカンヌ(カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル)に行かれたそうですが、全体的なマーケティングトレンドをどうご覧になりましたか?
友澤:カンヌに参加して一番驚いたのは、出展ブースにアドテクの企業がすごく多かったことです。“テクノロジーとクリエイティブの融合”というテーマを強く感じました。海外では当たり前のようにできているのに、日本ではまだまだ個別の話、むしろ逆方向のものとして扱われている。それは日本が直面する大きな課題です。
例えば、以前は独立して企画されていたテレビCMでも、今やテレビもディスプレイの一種としてスマートフォンやタブレットでのクリエイティブとの統一が注目されていたりします。そうすると、おのずとマーケターはテクノロジーとクリエイティブの両輪で考えなければなりませんよね。
リアルタイムで可能になったユーザーとのキャッチボール
友澤:海外ではデータ分析もターゲティングもいろいろなトライアルをやりきって、今まさにクリエイティブにフォーカスという感じですが、日本はまだターゲティングさえやりきれていない。
広告効果を上げる3つの変数は、媒体とターゲティングとクリエイティブです。日本はまだデジタル分野でのクリエイティブ人材が少ない印象で、結果的にアドテクで解決できる“どの面”と“誰に”という点に議論が終始している感があります。世界のトップランナーたちは、“何を”提供するかというクリエイティブにまで踏み込んだデジタルマーケティングを推進しています。
高田:私もよく、海外の提携パートナーと話をしていると「今まではサイエンス、これからはサイエンスとアートの掛け算だ」という言葉を耳にします。クリエイティブ次第でより豊かなメッセージを伝えられるのはもちろん、それに対するユーザーの反応を細かくデータとして得られることで、従来に比べより深いマーケティングが可能になりました。ただ、できることが広がったといっても、押し売りの広告では当然効果は薄いので、よりユーザーが求める情報やエンターテインメントに近づけることが必要です。
それに、データは1秒ごとに価値がなくなっていく。“データは腐る”なんて言いますが、スピーディに使いこなすリアルタイム性が重要です。その点でも、ユーザーが送ってくれた情報に対して一つひとつ答えるキャッチボールが今ならできると思います。
宣伝とデジタルコミュニケーションを横断的に捉えられる人が必要
MZ:広告主サイドに取材をしていると、アドテクやデバイス以外に、組織体制に悩まれている話も多く聞きます。そのあたりはいかがですか?
友澤:確かに、デジタル領域を扱う部門と宣伝部門との垣根に課題を感じている広告主は多いと思います。私もよく、宣伝部向けに勉強会を行ってほしいと要望を受けますが、でもそれは単なるデジタル領域の解説ではなく、宣伝部に分かりやすい説明や、広告主の立場でデジタルを活用するとどんな表現ができるのかといった内容が求められているんです。
プランニングも予算の上でも、今ちょうど宣伝とデジタルコミュニケーションが一体化してきましたが、元々デジタル領域が専門部署で推進されてきたため、指標も言葉の意味も運用の仕方も違う。その全体像を捉えられる、要はプロデューサー的な役割に立てる人の育成が急務になっています。今そういう立場で活躍している人は割と個人的な資質で伸びた人が多いので、組織としてどう発展させるかと考えている企業は多いですね。
高田:これはテクノロジーの功罪かもしれませんが、テクノロジーは単なる手段であり、それを使ったマーケティングを考えなければいけない。でも、つい設計や実装に時間もコストもかけてしまい、本来のマーケティングに使う時間が少なくなっているのではないかと感じます。設計や実装を解決するのはサプライヤーの仕事なので、僕らとしては広告主にはそうした労力をできるだけゼロにしたいと思っています。
進化するアドテクでユーザーにより響くメッセージを
MZ:日本では、まだテクノロジーとクリエイティブが融合したような事例はないのでしょうか?
友澤:デジタルに強い制作会社が手掛けたものなど、いくつかはありますね。ある事例では、ネットならではのクリエイティブを展開し、それを拡散する手段として、当社の「プレミアム広告」の一つであるブランドパネルを使っていただきました。インタラクティブ広告はコンテンツがよくなければ成果につながらないので、コンテンツの質ありきですが、通常の平均から比べると2~3倍に広がりました。
MZ:なるほど。一方で、「プロモーション広告」に分類されるYahoo!ディスプレイアドネットワーク(YDN)の状況はいかがでしょうか。
高田:そうですね、YDNはすでにかなり多くの企業に利用いただいています。提供している機能はごくスタンダードですが、そこにYahoo!のリーチ力が掛け合わさり、さらに膨大なターゲティングのデータを使うことで相当のインパクトを上げられていると思います。
データ取得スピードも進化していて、かつては数日前のユーザーデータを元に行動ターゲティングをかけていましたが、今はミリ秒単位。データの鮮度が高いほど効果も高いので、より速く深い行動レベルまでユーザーを理解して、それに合わせてメッセージを出していくことがとても大事になっています。そのためには、メディアが持つ情報と広告主の持つ情報を掛け合わせることが最適な策です。
“課題解決エンジン”としてソリューション提供の速度を緩めずに
MZ:自分たち自身を“課題解決エンジン”と称されていますが、今後どのように広告主の課題を解決していこうとお考えですか?
友澤:まだこれからの部分は多いですが、今後も広告主や広告会社に対して我々はさまざまな商品やソリューションを提供していきます。ただ、日常的な買い物と同じように、たくさん種類があると今度はどれを選べばいいのか分からない。だから、そのモデルケースを作るのが、私の仕事だと思っています。
高田:私の立場では、まずはどれだけ品ぞろえを揃えられるか。やはり媒体とテクノロジーがセットになって初めて表現の場、つまりマーケティングを発揮できる場が作れると思うので、その提供速度を緩めてはいけないと思っています。テクノロジーに悩まずに、マーケティングに集中するのに最適なソリューションをいち早く生み出し、よりターゲットに伝えやすい環境を使いやすい料金形態で提供することが、広告主の課題解決につながると考えています。
MZ:今後も“爆速”はさらに進化しそうですね。本日はありがとうございました。