消費者行動が多様化する中、どのタッチポイントを選ぶべきか
MarkeZine編集部(以下、MZ):9月5日、iPhoneおよびAndroidアプリを簡単に作れるCMS「Yahoo! アプリエンジン」がリリースされました。今回は、このサービスを担当する加藤氏と、提携パートナーであるファストメディアの庵原氏にアプリの戦略について伺っていきますが、まずはリリースの背景として、スマートフォン市場における最近の変化からお教えいただけますか。
加藤:各所で言われていることではありますが、スマートデバイスの普及によって、ユーザー動向の多様化・複雑化が特に顕著です。ネットに接続するデバイス自体が増えた結果、入口が一つではなくなり、消費者はそれぞれの目的とタイミングに合わせて自由にネットに接続するようになりました。
そこで企業や我々のような企業をサポートする立場の者は、そんなユーザー動向に合った適切なタイミングで、消費行動につながる情報を提供する必要性が一層高まっていると感じています。
庵原:スマートフォン市場では少し前までは「Webかアプリか」という議論がありましたが、実際にはユーザーはそれぞれの利点を自然に使いこなしていますし、今やゲーム機でもネットにつながって当たり前になっています。まさにマルチチャネル、マルチタッチポイントの時代ですね。その分、マーケターにとっては、キャッチアップするのがより大変な状況になっていると思います。
自社に最適なタッチポイントを見極めてフォーカスする
MZ:そんなマルチタッチポイントの時代では、全方位的にユーザーとの接点を考えていくべきなのでしょうか?
庵原:いえ、全方位的にというより、どのタッチポイントを選ぶかがますます重要になってきているということです。今まで以上に自社のユーザー動向をよく理解して、最適なタッチポイントを見極めた上で、適切なツールやソリューションを導入してアプローチを図っていくのが大事だと思います。
とはいえ、スマートフォンとPCの行き来、またWebブラウザとアプリの行き来が自由に行われているだけに、この“ユーザー動向を理解”というのは簡単なことではありませんが……。
加藤:そうですね。最適なタッチポイント設計にはユーザーを知ることが不可欠ですが、同じ人が似たような情報に接する際でも、デバイスにダウンロードして使うアプリならより日常的に深く接する、Webだとたまたま回遊していて接する、など深さや関与度が異なります。
ですので今、どういう人がどんなタイミングで接触しているのか、接触態度を含めたデータ分析を模索しているところです。
アプリとWebを例えるなら「F1」と「乗用車」
MZ:そうした環境下で、今回アプリ制作のCMSをリリースしたのは、タッチポイントとしてアプリの重要性がきわめて高いということなのでしょうか?
加藤:もちろん、アプリが不要なケースもあると思いますが、総じてアプリを介したコミュニケーションが急速に浸透しているのはデータからも明白です。特に若年層ではWebブラウザをほとんど使わず、使用頻度の高いアプリアイコンを並べた画面から天気を知る、地図を見る、ショッピングと目的に応じて主にアプリを使っているのが現状です。
当社はWebサービスに関しては相応の知見がありますが、逆にアプリはまだまだ探れる部分が大きい。ユーザーの入り口としてのアプリは無視できないので、広告事業としても顧客接点としても、企業のアプリ戦略を支援できるソリューションを探していました。
庵原:接触態度の違いからか、アプリの滞在時間はWebの倍だというデータもあります。アプリの方が、高いエンゲージメントを築けるという見方もできます。アプリとWebはF1と乗用車のように根本的なパワーが違います。そのパワーの違いからページ閲覧時のスピードやレスポンス、操作性などでWebより優れたオンライン体験を提供できるためエンゲージメントでWebより有利になるのではないでしょうか。細かい話になりますが、ネイティブアプリと呼ばれるアプリ専用のコードで書かれたアプリが、より良い閲覧体験を提供するために重要だと考えています。
マーケティング面はヤフー、技術面はファストメディアがサポート
MZ:「Yahoo! アプリエンジン」のリリースにあたり、ファストメディアとの提携に至った経緯をお教えください。
加藤:「Yahoo! アプリエンジン」のリリースに先駆けて、8月にファストメディア社との業務提携を発表しました。同社からスマートフォンアプリ作成ツールのOEMを受けて、「Yahoo! アプリエンジン」として提供を開始しています。
ファストメディアと提携した理由は、まず一つは国内企業で技術力が高く、開発やサポートが速くかつきめ細かに行える点です。もう一つは、サービス提供にあたってのサポート体制が充実している点。当社としては、アプリの運用や他のマーケティングソリューションと統合した上での展開をサポートできますが、技術的な面は提携社に期待していたので、その点でファストメディアが合致しました。
庵原:今挙げていただいた、開発やサポート体制の面にももちろん力を入れていますが、当社のCMSでこだわっているのは、マーケターや制作サイドが使いやすいユーザビリティーです。充実したテンプレートから、分かりやすいUIの各種機能をドラッグ&ドロップするだけで簡単にiPhoneとAndroidのネイティブアプリを同時に構築できます。プログラミングがまったく分からなくても、カタログや電子書籍、iPodやiTunesと連動した音楽再生機能などを用いたアプリを作成できます。
また、作るだけでなく運用の利便性も特に重要視しています。iPhoneアプリとAndroidアプリの両方にプッシュ通知を簡単に配信できたり、位置情報を用いて店舗など特定の場所に近づいた人だけにプッシュ通知を送れる機能も備えています。
アプリによるプッシュ通知でアテンションを継続
MZ:利点が多いアプリの展開ですが、逆にアプリ戦略の難しい点はどのようなところですか?
庵原:大きい点は、最初にダウンロードというハードルがあることです。そこを越えてもらうために、当社のこれまでの事例でいうと、元々ファンがついているテーマや切り口との相性がいいですね。
例えば、タレントを看板にしたカタログ・コマース系アプリでは、隙間時間に使うことを想定し、スムーズなページ遷移やオフライン環境でも閲覧できる点などに注力しています。また、プッシュ通知によってアテンションを継続させ、アプリやPCサイトへの誘導を促しています。ファンという切り口以外ですと、キャンペーン的な活用が多いでしょうか。
加藤:キャンペーンだと、何らかのインセンティブをつけてダウンロードしてもらうなども容易になりますね。その部分では広告とのシナジーが期待できると思っていて、広告で訴求してアプリダウンロードへつなげるといった統合マーケティングソリューションを提供できればと考えています。
目的ありきですが、メーカーなら製品カタログ、メディアならコンテンツと、アプリに適用できる資産はそれぞれの企業が自社内に割りと持っているのではないでしょうか。
マーケティングツールとしてのアプリの活用を支援
MZ:最後に、「Yahoo! アプリエンジン」を介した今後の展望をお聞かせください。
加藤:一度操作してもらうと分かると思いますが、「Yahoo! アプリエンジン」は技術的な知識がなくても、クオリティが高いアプリを作成し公開するまでの一連を簡単に行うことができます。顧客や将来の顧客とのより密なエンゲージメントを築ける、優れたアプリの公開・運用の支援に加えて、広告をはじめとする既存の当社のソリューションと組み合わせて、トータルでマーケティング課題の解決を目指したいと考えています。
マーケティングツールとしてのアプリを、どうしたらこの市場でもっと柔軟に活用できるのか、当社も探っていきたいところです。
庵原:アプリはアイデア次第でさまざまなタイプのものを生み出せると思いますが、大事なのは制作ではなく運用です。以前、シティバンクでマーケターをしていたとき、マーケターにとってのユーザビリティーが低いツールやソリューションが多く閉口していたので、「Yahoo! アプリエンジン」はネイティブアプリの運用のしやすさにこだわりました。今後もインターフェースをさらに追求し、また今回のリリースを機にアプリならではの機能を続々と追加していく予定です。