WEB製作担当(兼)コミュニティー担当 課長 川名常海氏
石谷(いしがい)聡史氏
さまざまな企業の統合マーケティング戦略のコンサルティング・プランニング業務を行なう一方、コンタクトポイント・クロスメディア・PDCAなどマーケティング・コンバージェンスに関連する新しい手法開発にも従事。『クロスイッチ-電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた-』(ダイヤモンド社)やクロスイッチを元にした英語書籍『The Dentsu Way』(McGraw-Hill)を中心となって企画・執筆。中国・韓国・タイでも翻訳本が出版される。
店舗とネットストアの溝を埋めた“できちゃった作戦”
―― ちょうど1年ほど前、MarkeZine Dayにてパネルディスカッションをさせていただいたんですが、その時「MUJIデジタルマーケティング3.0」と題した基調講演で川名さんのお話を聞きました(参考情報)。デジタルマーケティングをいかに取り入れて無印良品ブランドを成長させているかが非常に印象的だったのですが、今日はその後の変革も含めて伺えたらと思い、お邪魔しました。川名さんは、良品計画には新卒入社以来ずっといらっしゃるのですね。
ええ。92年に入社し、店舗を経てすぐに宣伝販促の部門へ行き、94年頃からデジタル領域に移りました。他のいろいろな企業に比べても、当社はかなり早いタイミングでデジタルを重視していたと思います。
2000年に「無印良品ネットストア」をオープンしてからは、オンラインでの売上の確立が主なミッションでした。ネット人口が増えるにつれてユーザーは多くなりましたが、やはり当社の主軸は店舗販売であり、私たちも無印良品の世界観を伝えるには店舗での体験が大事だと思っています。
―― 実店舗とオンラインの2つの売り場を持つ小売業態の場合、どうしても店舗vsオンラインのような構図になりがちだという話は、各所で耳にします。無印良品でもやはり、店舗との融合が大きな課題になったのでしょうか?
そうですね。私としても、いち担当者としてネットストアの売上向上と店舗への送客の両方を言われていたので、矛盾を感じることもありました。
その中で2001年、ネット上に現在の「くらしの良品研究所」の前身となるコミュニティを立ち上げて、顧客の声を活かした商品開発もスタートしたのですが、当時はまだお客様の本当の購買行動がつかめていませんでした。店舗の購買層とネットストアの購買層は別だと思っていたのですが、実は同じだったんですね。
お客様は我々が考えているよりもずっとスムーズに、店舗とネットストアを行き来していました。我々も考えてみれば、最終的にどちらで決済していただいてもいいので、場所にこだわらずに、お客様にとって最適な購買行動を作ることを目指そうと思ったのです。今でいうO2Oの発想ですね。
―― なるほど。その気づきは、店舗にも難なく受け入れられたのでしょうか?
いえ、そこは簡単にはいかなくて。理屈だけで「ネットストアに売上がついてしまう」といった視点を店舗から拭うのは無理だと思いました。店舗とネットストアの売上は反比例ではなく比例するのだ、相乗効果が上がるんだと体感してもらうことが大事だと考えて行ったのが、名付けて“子供できちゃった作戦”です。
―― つまり、結果を先に見せると。
そうです(笑)。今考えれば単純な一方通行のO2Oですが、「無印良品週間」と題してネット会員化を促進し、店舗に行けばクーポンが使えるという送客の仕掛けをしました。それが店舗の売上に貢献したことで、社内の意識は随分変わったと思います。