パブリッシャーが保有するデータを最大限に活用した新たなビジネス
The Weather Channelは、先に述べた状況に対し、今までのように広告枠を売り出すだけではなく、独自に保持している天気関連データを利用して、付加価値を与える広告配信システムを作成し、逆に広告をバイイングする、新たなビジネスモデルに挑戦している。

「Weather FX」と名付けられたシステムは、The Weather Channelが保有している天気の情報をサードパーティーデータとして受け渡すのではなく、広告のバイイングまでをThe Weather Companyが一貫して行うことで、天気関連データを長年扱ってきた経験を付加価値として加えている。要するに、トレーディングデスクの要素や、DSPの要素を持ち合わせたプラットフォームということだ。
The Weather Companyが保有する自社媒体(weather.com)の中で、より関連性の高い広告を出すという話ではなく、配信先はThe Weather Companyの保有するデータを利用してターゲットセグメントを決め、さまざまなアドネットワークを介して広告配信をする。
Hlavacek氏曰く、「例えば同じ気温30度でも“暑い”と感じるかは地域や季節に大きく異なる上に、人間の感覚は前日の状況にも大きく左右されるため、それらも加味して考える必要がある」という。もちろんそれだけではないが、このようにデータの意味を正しく解釈した上で、広告のバイイングまで広告主が行うことは簡単ではなく、パブリッシャーが直接広告主や代理店と関わる価値は高いという。
サードパーティーデータを提供しただけでは、データが正しく解釈されて使われるとは限らない。そのため、結果的に広告主の利益になりづらく、生のデータを提供するだけでは付加価値も少なく、The Weather Companyの収益性も低い。
組織の変革に必要な条件とは
広告枠を売るモデルから買うモデルへの変更は大きく、実際に実行に移すことは簡単ではない。 他のパブリッシャーも参考になればと、The Weather Companyの事例を、もう少し詳しく紹介したい。
人材:採用から変える
The Weather Companyでは、トップの人材を中心にデジタル広告に理解の深い人物を据えることで、一気に加速した。2012年よりCEOを務める David Kenny氏は、以前、Publicisグループ傘下の広告代理店Digitas(現DigitasLBi)のCEOを務めるなど、デジタル広告のバックグラウンドをもつ人物だ。
そしてその3か月後には、Publicisグループ傘下のデジタル広告代理店部門であるVivakiの役員だったCurt Hecht氏を、Chief Global Revenue Officerとして迎え入れてた。また、彼を中心として、アドテク業界のマイアミヒートと比喩される組織の体制を作っている。
マイアミヒートは、NBAのバスケットボールチームでレブロン・ジェームズやドウェイン・ウェイドなど、現代を代表するスター選手が集中している。
パートナーシップ:売り方を変える
自社の保有しているデータが別の形で利用できないかという視点から、最適なパートナーを選ぶことも重要だ。The Weather Companyの事例としては、シャンプーのPanteneとのパートナーシップが紹介されていた。
The Weather Companyの天気情報をもとに、髪のトラブルの予報もしてくれるキャンペーン「haircast」では、これまでとは違った相手とのパートナーシップを進めた。基本的には、天気の情報がダイレクトに関係のあるニュース番組などのパートナーシップが多かったが、それとは別の趣旨で行った。天気予報と一緒に髪予報を表示し、さらにその髪のトラブルに対応したPanteneの商品をレコメンドすることで、最終的には売上を28%伸ばすことに成功したという。