日本でもMarketing Cloudを活用する環境が整った
2014年12月、セールスフォース・ドットコム社は、「Salesforce World Tour Tokyo」を開催した。経営者・開発者・起業家など様々な立場に向け、同社の最新事例が集まった同イベント。マーケター向けのセッションでは、「ExactTargetがSalesforce Marketing Cloudへと進化! Marketing Cloud プロダクトキーノート」と題し、「Salesforce Marketing Cloud(以下、Marketing Cloud)」を活用したOne to Oneマーケティングの海外最新事例が紹介された。
セッションは加藤希尊(かとう みこと)氏による、日本の現況説明から始まった。企業がマーケティングに使うチャネルは、年々増え続けている。1990年代、顧客と直接つながるチャネルはFAXやダイレクトメールなど極めて限られていた。だがスマホの爆発的普及でアプリやソーシャルメディアが発展。家電などの端末もインターネットにつながるようになったいま、顧客と企業の接点は無数に増え続けている。
顧客と情報の接点も変わった。通勤電車ではスマホでニュースをチェック、会社ではPCを使い、夜のくつろぎタイムはタブレットでネットサーフィン……様々なチャネルを自在に行き来しながら、人々は最適な情報を求めるようになった。このようなマルチチャネル時代、企業が顧客を獲得し、関係を深めるには、チャネルの垣根を飛び越え「1対1でつながる」仕組みが必要だ。
そのためには、顧客の購入履歴や嗜好などの情報を把握して、顧客一人ひとりと企業がコミュニケーションを行う必要がある。これをマルチチャネルで行うのが、セールスフォース・ドットコム社が提供する「Marketing Cloud」だ。
日本でもキヤノンマーケティングジャパン、東急百貨店、サントリーなど既に様々な企業が導入している。2014年6月に上陸して以降、「LINEやFacebookなどとの連携を進め、そして多くのパートナーとエコシステムの構築をしてきました。日本でもサービスとして提供できる環境が整っています」加藤氏は語る。
同ソリューションは、セールスフォースが提供するサービスとの連携はもちろん、LINEやFacebookなどソーシャルサービスとの連携も充実している。さらに、同社より新たにリリースされた、ソーシャルマーケティングプラットフォーム「Social Studio」との連携もされ、活用のさらなる加速が期待できる。
宿泊客一人ひとりに「驚き」を提供し続けるキンプトンホテル
加藤氏に代わり登壇したエリック・ストール氏は、今後のマーケティングについて語る。「必要なのは、顧客データの一元化、カスタマージャーニーの設計と自動化、そして最適化されたコンテンツをクロスチャネルで展開すること。これからは、セールス、サービス、マーケティングの境界はなくなるでしょう」
Marketing Cloudが先行リリースされた米国では既に、顧客と1対1でつながり、最適なタイミングで最適な情報・体験を提供すること=「One to Oneカスタマージャーニーの創出」に成功している。その例として、ストール氏は「キンプトン(KIMPTON)ホテルグループ」を挙げた。
キンプトンは21都市で61のホテルを展開する米国のホテルチェーンだ。多くのファンを抱えるキンプトンは、旅行の計画、ホテル予約、宿泊という顧客が企業・ブランドと触れる機会一つひとつを大切にし、パーソナライズ化した。
顧客一人ひとりと向き合うプログラムを同社では「キンプトンカルマ」と呼び、「Marketing Cloud」のプラットフォーム上で運営している。このプログラムは、「宿泊したら100ポイントプレゼント」といった単純なポイントプログラムではない。チェックインしたら部屋にワインボトルがセッティングされている、レストランで特別に無料サービスを提供する、疲れているときにスパでのサービスをプレゼントするなど、顧客のサプライズを創出するものだ。これらの積み重ねにより、キンプトンブランドは信頼を積み重ねてきた。
しかし一体、数万にも及ぶ顧客にどのように個別のサプライズを行ってきたのだろうか。「顧客のジャーニーを、プラットフォーム上で管理すればよいのです」ストール氏は解説する。
実現にはいくつかのステップを踏む。まずは「ジャーニーマップ」を考えるところから始まる。この場合ジャーニーマップとは到着前、到着、滞在時、出発時などのタイミングごとに、どのようなイベントを提供するかを設計したものだ。イベントを通じて「25%の顧客にホテルのレストランに予約を入れて頂く」などのゴールを設定し、そのための方法を設定する。
例えば到着3日前に、「レストランにも予約されませんか?」といったメールを送る。2日待って予約がない場合は、別のメッセージを送ることにする。そのために、数パターンのアプローチを準備する。パターンAは、1回目と同じ内容のメール。パターンBは、顧客の携帯にプッシュ通知で、レストランの紹介をする。パターンCはチェックイン後、サプライズで夕食に招待する等が考えられるだろう。そこから、顧客の何%にはパターンCの対応をするといったグループごとの情報提供が可能だ。
もちろん、顧客データと連携することもできる。例えば顧客がチェックインしたら、位置情報を使ってホテルスタッフのiPadに「リチャードさんとペットが到着しました」とプッシュ通知が送られ、スタッフはその場で顧客情報を確認することができる。リチャードさんが好きなスポーツ、ペットはドギーヨガが好きであること等の情報を踏まえ、スタッフはホテル周辺で行われているおすすめの場所やイベントを紹介できる。「Marketing Cloud」を活用すれば、顧客と企業・ブランドが全く新しい形でつながることができるのだ。
3億人の顧客と1対1の関係を作るLive Nation
1対1のつながりを実現できるのは、サービス業だけではない。アメリカのコンサートプロモーターで、チケット販売も行う「Live Nation」も、同プラットフォームで顧客に個別体験を提供する。
同社には、コンサートチケットを購入した顧客など、約3億人ものデータベースが蓄積されている。住所や名前に加え、どんなコンサートに行ったか、どんな音楽を購入したかなど、趣味嗜好レベルまで把握できる。同社はこれらのデータをもとに、顧客向けの様々なキャンペーンを行っている。
大切なのは、適切なデバイス、適切なタイミングで顧客とつながることだ。例えば顧客の住んでいるエリアや趣味をベースに、開催予定の数百のイベントデータを掛け合わせ、最適な組み合わせを見つけ出し「来月、近くでこんなライブが行われますよ」といったメールを送る。もちろん、メールのみならずSNSやターゲティング広告など、様々な手法を使い分ける。
さらに、Live Nationでは自社のモバイルアプリも活用している。例えばコンサート当日には、駐車場や売店の場所を案内したり。オススメ音楽のダウンロードサイトを紹介している。チケット販売のみならず、他の情報提供や購入促進をすることで、顧客との新しいつながりを実現するというわけだ。
「Live Nationはコンサートをプロデュースする会社だが、事業の売りはテクノロジーだ。蓄積した顧客データベースを活用すれば、特定のコンサートに興味をもつ顧客を特定できる」Live Nationの経営陣は語る。システムを導入するまではデータが死んだ状態で、チケットの40%が売れ残っていたという。同社は現在、41か国15,000人の従業員がシステムを活用。アーティストのツアーが決まったとき、チケット販売が始まったとき、ライブ当日、そして終演後にファンの楽しみがライブ前後も続くよう、アプローチを続けている。「データを正しく扱い顧客が望むことを実践することで成功につなげることができた」経営陣は語る。
セッションの最後にストール氏はMarketing Cloudが既に日本語に対応し、ローカライズされていることを伝えた。日本国内の企業でも、紹介された事例のようにデータを活用してOne to Oneのカスタマージャーニーを実現することが可能なのだ。また同氏は、来年6月15~16日に世界中のマーケターが集結するイベントをニューヨークで開催することを伝えた。2015年もセールスフォースはデータ・One to One・カスタマージャーニーをキーワードに、各社のマーケティングを支えてゆく。その姿勢が明確に表れたセッションとなった。
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