シナリオ設計、陥りがちな罠
MAツールで自動化といっても、最初のシナリオ設計などはマーケターみずから行う必要がある。実際に、どう設計していけばいいのだろうか? 「シナリオの定義を、ある特定のマーケティングゴールを達成するための設計図、としましょう」という中澤氏の言葉を受け、菅野氏は「実はその設計図づくりに一度失敗している」と明かす。
「ツール導入当初は、セグメント分けの作業が楽しくて、つい細かくしすぎてしまったんです。当初はそれなりに成長が見られましたが、当然アクション数の伸びがすぐに頭打ちになり、各シナリオの母数も少ないので効果検証もうまく回っていませんでした」(菅野氏)

そんな状態から脱却するべく、ピーク時は400もあったシナリオのテンプレートを、太い数本に絞り込んだ。その上で、シナリオ分岐とは違う観点で顧客接点のバリエーションを確保するため、メールの配信時間に注目。同じシナリオでも、各ユーザーにとって都合のいいタイミングで配信することで、効果を引き上げたのだ。シナリオ自体は少なくシンプルになったことで、チューニングも容易になり成果も上がり始めたという。
一方、リクルートライフスタイルのアプローチ方法はまったく逆のようだ。まず、ユーザー行動をひととおり分析。いくつかの主な動線を特定し、それぞれのボトルネックを見つけ、改善した際に得られるボリュームが多い順に解決している。「いきなり95点の精度を狙わず、まずは70点くらいでいったん完成させるようなイメージです」と渡部氏。
「買い物のワクワク感」をどこまで数式化できるか
では、70点を95点に引き上げるにはどうすれば良いだろうか? 渡部氏は応用的な事例として『ポンパレ』のコンテンツ最適化を紹介した。
同サービスでは以前、ユーザーの購買やサイト訪問のデータを元に、購買を促進するアルゴリズムを組み、コンテンツ表示順のOne to One化を試みた。ところが、好みの順であるはずなのに、売上が3割減少したという。
「よくよく人に話を聞くと「見ていても楽しくない」と声が上がりました……。確かに、実店舗での買い物を思い出すと、品ぞろえや季節感によって“買いたいモード”が高まってきます。ECも店舗と捉え、ワクワク感を演出する表現を数式化してアルゴリズムに組み込みました。すると、3割の落ち込みが戻り、さらに3割増に。これが、95点を目指す精緻化のプロセスですね」と渡部氏。ただし、感情の数式化を行なってはいるものの「人間には数字ではどうにもならない部分があるとも思っています」と語る。
季節感などの数式は共通だが、個人の好みを掛け合わせるので、結果的にパーソナライズ化されている。ちなみに、この数式化を担うデータサイエンティストは“神”と呼ばれているそうだ。
最後に、議論は人材育成へ。「やはりデータを扱う素養が必要?」との中澤氏の問いに、それぞれ「統計的な深い知識を持った人は一部でいい。論理的思考力と、普通の人が使うサービスなので普通の感覚を持っていることが大事ですね。リアル流通の知見には注目しています」(渡部氏)、「PDCAを回してチューニングすることに慣れているアドテク出身の人は、即戦力になれると思います」(菅野氏)と回答。
現場の試行錯誤を含め、MAに先進的に取り組む企業の考え方が大いに参考になるセッションとなった。