“食”には毎日3.6億のトランザクションが発生している!
押久保:奥谷さんがOisixへ移られたことは、今年のデジタルマーケティング領域の移籍関連では大きなニュースになったと思います。しかも、Chief Omni-Channel Officerという肩書きでいらっしゃる。“COCO”と、名刺にも書かれていますね。
奥谷:COCO谷です、と自己紹介しているんですけど(笑)。この役職名を考案したのは社長の高島なのですが、さすがだなと思いましたね。
押久保:その肩書きで取り組まれることも、後ほど存分にうかがいたいですね。まずは、なぜOisixに参画したいと思われたのか、教えていただけますか?
奥谷:理由のひとつは、この数年で“食”に関するアプリやプラットフォームに興味を持っていたことです。「MUJI passport」を手がけていたこともあって、各社のアプリは注視していましたが、中でもスシローやガストのアプリが優れていると思っていました。プラットフォームだと、クックパッドのビジネスも好例だなと。
食への欲求は、人間の根源ですよね。特に最近、食の安全・安心へのニーズが高まっています。しかもITデジマオタク的にいうと、1億2000万人が1日3食とると毎日3.6億のトランザクションがある。でも食べたい時間は皆同じであると、これをITでうまくコントロールするのが、おもしろいなと思っていたんです。
EC、店舗、農家訪問などを通じてブランド体験を3D化する
押久保:3.6億トランザクションというのは、奥谷さんならではの見方ですね(笑)。ほかにはどんな理由があったのですか?
奥谷:もうひとつはもちろん、Oisixの事業自体への関心です。「野菜がほしい」というニーズはそもそも、店頭での値段や野菜の状態、冷蔵庫の中身などによって、けっこう直前に起こると思うんですね。それを事前に捉え、顧客が現物を見ずに、ブランドと企業姿勢で売ることを創業15年で軌道に乗せている。今では香港でもECを展開して、日本の安全・安心な食が世界にも通用することを実証しようとしています。
加えて、私自身はやはり「ものづくり」にこだわりたかった。Oisixへ来たのは、自社で生産を手がけ、売っていくビジネスに引き続き携わりたかったというのもあります。
押久保:国内では、店舗事業もされていますよね。オムニチャネル化を実現してこられた奥谷さんなので、店舗の強化のために招かれたのではと聞かれませんでしたか?
奥谷:聞かれましたね。でも、それがメインではないです。5年前から展開している店舗事業は、売上こそECに対して1割程度ですが、私はすべての顧客接点の重みは50対50で等しいと思っているんです。
今は「家に野菜が届く」という家庭内で完結しているブランド体験を、店舗や、あるいは新しく農家の訪問などを通じて外部へ出し、立体化する。前職とは逆に、オンラインが主でオフラインがこれからという会社で、ブランド体験の3D化に挑戦したいと考えています。