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EC戦国時代のいま、顧客の心をつかむOne to Oneマーケティングをブレインパッドが解説

 多くのECサイトが乱立し競争が激化する昨今、ショップオーナーにとって、いかに顧客を獲得し、つなぎ止めるかが大きな課題となっている。その鍵となるのが、得られたデータを活用し、一人一人に適切な対応を行う「One to One マーケティング」であり、さらには増大するデータやチャネルの多様化に対応する「施策の自動化」が注目されている。どのようなことができるのか、成果はどのくらいあがるのか。マーケティングオートメーションの可能性について、株式会社ブレインパッド ソリューション本部 プロダクトマネージャーの林隆司氏が自社事例とともに紹介した。

EC市場は群雄割拠の「戦国時代」へ

 順調に成長している日本のEC市場。“EC化率”は、5年前のオムニチャネルが始まった頃の米国とほぼ同じ水準の4.37%にまで上がり、2020年には現在の倍の25兆円にまで成長するとの予測もあるという。同様にテレビ通販などを含めた通販全体の市場も16年連続で成長しており、今後の拡大もまた期待されている。

 この市場拡大の背景には、サービスの多様化も影響している。フリマアプリの「mercari」や「Fril」、ハンドメイドマーケットの「minne」などのCtoC分野、そして「Airbnb(エアビーアンドビー)」や「Uber」などのシェアリングサービスなど多種多様な分野に広がりつつある。また、オンデマンドECとして「楽びん!」や「kaukul(カウクル)」といった購入後に商品を即時配送してくれるものも登場している。

株式会社ブレインパッド ソリューション本部プロダクトマネージャー 林 隆司氏
株式会社ブレインパッド ソリューション本部
プロダクトマネージャー 林 隆司氏

 「新しい分野のECも登場する一方で、楽天など既存のECモールは勢力を維持しており、従来のカタログ通販はやや停滞気味となるなど、ECの勢力図は混沌としてきた。直接的な土地の奪い合いがあるわけではないが、顧客の囲い込みが激化する様子は、まさに戦国時代といえるだろう」と林氏は評する。

重要なのは「既存顧客へ深くアプローチする施策」

 それでは、EC戦国時代において「顧客を囲い込むために有効な施策」はあるのか。林氏は「効率よく新規顧客を獲得し、いかにリピートさせるか」に尽きるという。ただし、費用対効果を考えると一般に新規顧客の獲得販売コストは既存顧客の5倍といわれており、ロイヤルカスタマーと呼ばれる一番購入頻度の高い顧客群が80%もの売上・利益を占めている。つまり、顧客の囲い込みのためには、新規顧客獲得もさることながら、それ以上に既存顧客への効果的なアプローチ、並びにロイヤリティの向上が重要というわけだ。

 実際にブレインパッドが行ったテストマーケティングによると、新規顧客へのメールと比べ、既存顧客をセグメントで分類し、ある層にピンポイントで配信するOne to Oneメールは2.85%の向上効果があり、通常時の購入率に比べると10倍の数字が得られる結果となった。

 さらに投資効果で比較するとその差は歴然だ。100万円の予算をCPA(成果1件当たりの単価)1000円で新規顧客にアプローチした場合と、40万円の予算でOne to Oneメールで既存顧客20万人にアプローチした場合とで、先述のテストマーケティングで得られたデータを基にシミュレーションを行った。その結果、新規獲得の投資効率は1.5倍の数字だったのに対し、既存顧客に行ったOne to Oneマーケティングでは21.4倍と多くの利益を生み出す計算となった。

 なお、ここまで大きく差がついた背景には、近年のテクノロジーの進化で、これまで手がかかっていたOne to Oneマーケティングにおけるプロモーションコストが低下したことが大きいという。

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ECで利益を上げるための方程式

 これまでのシミュレーションやテストマーケティングによる結果を受け、林氏は「利益を上げるポイントはCPO(Cost Per Order:注文獲得単価)と各種コストを下げるか、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)を上げるかのどちらか。そして先述のシミュレーションなどで明らかになったように、基本的には既存顧客向け施策の方が効率が良い」と語る。そう考えれば、自然と既存顧客への施策に比重をかけることの重要性がわかるだろう。

 そもそもECは以前から言われているように、下位80%の品目が上位20%の品目の売上を上回る「ロングテール」ビジネスだ。スペースに制約がないため、いくらでも商品をおいて販売できる。しかし一方で、選択肢が増えれば「欲しいものが見つけ出せない」というデメリットも生じる。つまり、各個人に合わせて“欲しいもの”に関する情報を選別して提供する必要がある。

 ただし、その際に単に情報を与えればいいわけではない。林氏は「適切なタイミングや量で提供しなければ顧客は不快感を抱く。タイミングも情報量も一人一人の顧客ごとに快適と思われるショッピング環境を提供する『おもてなし』が大切」と、One to Oneマーケティングの施策の重要性を力説する。

One to Oneマーケティングで理解すべきは「顧客の人となり」

 それでは実際のOne to Oneマーケティングとはどのようなものなのか。概念的には20年以上も前から存在するものの、現在はテクノロジーの進化により、様々なことができるようになったという。

 しかし、「すぐにできる」と思うのは早計だ。One to Oneマーケティングを行うには、まずは顧客をよく知ることが必要になる。近年はニーズの多様化と散在化が進み、さらには変化も早い。ビッグデータとして取得されるデータは項目も量も多く、そこから顧客像を捉えるのは、専門の知識やスキルが必要になる。

 たとえば「顧客の人となり」を知るには、「サイト内の行動」のような「行動と動機」、「活動時間帯」のような「生活と態度」の2種類のデータが必要だ。これらのデータは、POSなどのオフラインデータとWebアクセスログなどのオンラインデータ、そしてSNSなどの外部データから得ることが出来る。これらのデータを用いて、顧客がどのようなステータスにあるのかを理解することが重要だ。そのためには従来のように属性分けするのではなく、「誰に」「何を」「いつ」「どのように」を組み合わせてタイムリーに顧客の様子を捉えていくことが有効となる。

 ここで林氏は顧客5人のOne to Oneマーケティングのシナリオ例を紹介。前述の情報の他、「来店」「メルマガクリック」といったリアルタイムでの行動データやショップ側のセールデータなども加えながら、顧客のステイタスに合わせて的確な情報を提供し、優良顧客へと導いていくわけだ。

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One to Oneマーケティングのためのメール術とは

 それでは、どのようにOne to Oneマーケティングを行っているのだろうか。実際に効率的に行えるプッシュ型施策として最も用いられているのは「メール」だという。初期費用をほとんど必要とせず、クリエイティブの制作費も安価に抑えて、情報を送信できる。また、近年では徐々にアプリの「プッシュ通知」機能も広がっており、広告主の間ではその利用も視野に入れている。

 このメールを使ったOne to Oneマーケティングは、大手のECモールでは既に施策として行われており、「閲覧後のフォロー施策」「購買後のクロスセル」など目的によって様々な工夫を凝らしている。しかし、モール以外の一般のECサイトに対する調査ではメールマガジンはほぼ100%のショップから配信されていたものの、パーソナライズされたメール配信を実施しているショップは45%に留まった。

 さらに林氏は、誕生日や休眠顧客掘り起こしなどのタイミングで送付される「クーポンメール」や、カートに放置した商品を知らせる「カートドロップ」、ポイントやクーポンの期限を知らせる「アラートメール」などを紹介。優良顧客に引き上げていくための施策としての有効性を強調した。

「顧客セグメント」に合わせた施策で効果を最大化

 また林氏は、効果の上がる「プロモーション施策」について、「重要なのは、顧客セグメントに合わせた施策を設計すること」だと語る。見込顧客や休眠顧客を、通常顧客、そして優良顧客へと引き上げる。これらを考慮したOne to Oneマーケティングの実践が不可欠というわけだ。

 なお、セッションでは3種のキャンペーン事例における効果数値を紹介。月商2億円の売上げに対して、カート放置では1.75%、閲覧後フォローでは7.8%、購買後クロスセルでは1.2%と計10.75%の売上アップに貢献した。

 しかし「一見単純な施策のようだが、オンライン、オフラインデータの利用、その他の条件を組み合わせて行うことを鑑みると、手動では実施が難しい」と林氏。自動化による施策設計が求められるという。

施策を継続することで高まるLTV

 さらに林氏から、単発の施策だけでなく、One to Oneマーケティングで施策を継続した場合の効果についても紹介された。それによると、新規から2回めの購入、つまりは顧客になってから日が浅い層には特に効果的で、キャンペーン全体としては購買回数・顧客単価も増え、LTVについては13%もアップ。マーケティングオートメーションを導入した投資額の10倍近くの利益を計上することができたという。

 最後に林氏は「こうしたオートメーションマーケティングの仕組み提供やクリエイティブだけでなく、ブレインパッドはデータアナリティクスやコンサルティングなど、マーケティングにおけるデータ活用支援をトータルに提供できるのが強み。ぜひ、相談してほしい」と来場者にアピールし、講演を終えた。

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウマミ)

フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの製作などを経て独立。ビジネス系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2015/12/03 10:00 https://markezine.jp/article/detail/23392