狙いに沿ったKPI
以上のように、動画はそのパターンごとに適した目的があります。そして、成果、KPIは目的に応じて設定されるべきものです。ここからは、各動画のパターンに沿った成果の測り方、KPIについて説明していきたいと思います。
まず個別の話に入る前に「再生回数」の扱いについて考えておきます。再生回数はYouTubeやFacebookの動画には基本的に表示されているもので、誰からも見られるため、とても注目されやすい指標です。一方で、「再生回数」の単純な高低が施策の成功を示しているかというと、そうではありません。
実際、バイラルして何百万回と再生されながらもブランドの表記が分かりにくく、ブランド認知の効果があまり無かったと言われている動画がある一方、数百回しか再生されていないのに、サイトのコンバージョン率を高めて大きな売上向上に繋がったと言われる動画もあります。再生回数は、取得しやすいだけで、単体で成功を示す指標とは言えないのです。
では、各動画のパターンごとにどういう指標を重視していくべきでしょうか。
Star動画のKPI
まずStar動画ですが、Star動画の肝はコミュニケーションのネタになることであり、驚きや感動、共感などの力で視聴者の心を揺さぶることです。従って、どれだけ視聴者の心を揺さぶれたのか、という事が重要な評価指標となります。具体的には、動画を視聴した結果、動画に対して何らかの行動を起こしたことを示すエンゲージメント数が重要になります(第4回参照)。
エンゲージメントとは、Facebookのいいね、シェア、コメントや、Twitterのツイート、YouTubeの評価、コメントなどの動画に対して用意されたアクションを意味します。視聴した後、わざわざアクションを起こすというのは、動画によって強い感情を抱いた証拠と考えるわけです。
またStar動画の位置づけから考えると、ブランドへの認知や好感度が向上したかどうか、いわゆる態度変容についても検証すべきです。ただし、ブランド認知、好感は動画プラットフォーム側で取得できるデータではないため、アンケート調査を実施して検証する必要があります。
Help動画のKPI
次にHelp動画ですが、Help動画は検索からの流入がきちんと発生しているかどうかが重要になります。昨今の検索エンジンの精度はどんどん高まっているため、消費者の疑問にジャストミートした解答を提供できていなければ、検索結果上位に表示されませんし、当然動画への流入は増えません。従って、動画が狙った検索結果の上位に表示され、継続的な流入を獲得できているかどうかを検証していく必要があります。
Habit動画のKPI
Habit動画は、シリーズの続きを見たい、と思ってもらうことが重要です。そう思った消費者の数をどう捉えるか。YouTubeの場合、それはチャンネル登録者数に現れます。
チャンネル登録は、そのチャンネルの最新アップロードを追いかけやすくする行為であり、このチャンネルのコンテンツを継続的に追いたい、という意志の現れと言えます。Facebookでは、ページにいいねすることであり、Twitterではフォローになります。
Habit動画を投入することで、これらの数が伸びていればきちんと機能していると言えるわけです。また、企業ページ側に動画を設置している場合には、もっと直接的に動画視聴者の再訪問率が他の訪問者に比べて高いかどうかでも検証可能です。
Insert動画のKPI
Insert動画は、他人のコンテンツに差し込んで、企業が言いたいことを伝える動画であるため、嫌がられた場合はスキップされてしまいます。裏返せば、スキップされず、視聴を継続してくれれば、Insert動画の内容が受け入れられたということになります。
従って、クリエイティブの良し悪しを考える上では、視聴継続率が重要な指標となります。時間尺の長さが同程度のコンテンツがあった時に、視聴継続率が低いものは歓迎されない、関心が得られないクリエイティブだったと考えられます。
一方、Web広告で一般的なKPIであるクリック数については、Insert動画の評価基準として適切ではない場合が多いです。
バナー広告とは異なり、動画はまず一定の時間視聴すること自体が一つのアクションなので、一瞬で見終わるバナーよりも、クリックに至るまでの行動負荷が高い傾向にあり、バナーよりもクリック率が低下しがちです。しかし、クリエイティブとの接触時間が長い分、バナーよりも深い心理的印象を残すことができます。
従って、Web広告で最終的に求められるコンバージョンへの貢献を評価する際には、こうした動画の特性を踏まえた評価をしなければ、効果を過小評価してしまう恐れがあります。具体的には、最終コンバージョンの前のアシスト効果を評価する必要があります(いわゆるアトリビューション分析)。
例えば、「Viibar旅行」という旅行会社の動画広告を見て、商品に興味を持ったが、その場では何もしなかったAさんがいたとします。1週間後に旅行に行きたくなって、検索サイトで旅行商品の比較サイトを見つけて、アクセスしたとします。
そのサイトでは、たまたま「Viibar旅行」のバナー広告が出稿されていて、Aさんはその名前をうっすら覚えていたため、バナー広告をクリックして、Viibar旅行の商品ページに来訪、結果的に旅行商品を購入するに至りました。
この場合、動画広告がバナー広告のコンバージョンを補助(アシスト)した訳です。動画広告は確実に意味があった。しかし、アシストを評価しない場合、Aさんにとって動画広告は無意味だったという結論が出てしまいます。Insert動画を活用する際には、この点に十分注意して評価設計を行う必要があります。
Persuasion動画のKPI
Persuasion動画は、動画を使うことで消費者のアクションを促せたかどうか、つまりコンバージョンに効いたかどうかで評価されます。自社サイトに掲載する際に、ABテストをしていただいて、動画を使ったほうがコンバージョン率が高まっていれば成功と言っていいでしょう。
マクロ的な評価の方法は単純ですが、サイトの一部として改善を行うためには、サイトコンテンツの中での位置づけをよく考える必要があります。
テキストや写真では伝えきれない情報を動画で補えているかどうかが重要なので、アクセス分析のような統計的な手法だけでなく、数人のお客様を呼んで、目の前でサイトを使ってもらうユーザーテストの手法を使って、動画が思った通り機能しているかどうか検証するのも一手です。
きちんと評価して誤解を招かない
まだまだ動画を用いたマーケティングは黎明期。自社に適した定番のやり方が確立されている企業は少ないと思います。だからこそ、今の段階で動画の使い方、評価の仕方を誤ると、「動画自体が自社のマーケティングに合わないのでは?」という誤解が広まってしまう恐れがあります。
十数年前に検索連動型やバナー広告が登場し、根付いていったように、オンライン動画も必ずや定番のマーケティング施策になっていきます。その時、競合に出し抜かれてしまわないように、今こそ賢くマーケティング戦略に動画を当てはめ、消費者のニーズに合った動画を制作し、適切な評価を行ってPDCAを回していきましょう。
