マーケティングツールは「どれを選んでも同じ」なのか?
ここ5~6年、IT業界の中で最も活発な動きが見られるのが、マーケティング分野のソリューションだ。高度なデータ分析を始め、マーケティングオートメーション(以下、MA)やマーケティングプラットフォームなど、さまざまなツールが登場している。ただ、こうしたベンダ主導の動きと反するように、「ツールなんて、どれを選んでも同じだ」という声もある。確かに、機能だけで見れば似た製品も多いのは事実だろう。
だが、一見すると似たようなツールであるからこそ、最終的にはいかに「使いこなせるか」がポイントになる。実際、MAツール「Marketo」を提供するマルケトの代表取締役社長 福田康隆氏は「ツールは、『どれを選んでも同じ』ではありません」と断言する。
「なぜなら、もしどのツールを使っても同じというのならば、企業の体力で勝負は決まってしまいます。そうであれば、資本も人材もそろっている大企業しか生き残れないことになってしまう。本来ツールには人間の能力を増幅する力があるはずで、それを活用して効果を出すことが必要です」(福田氏)
そこでポイントになるのは、マーケティングにおいて、どのようにツールを活用するかだ。福田氏はまず、「どのような目的なのか、マーケティングの根本をしっかり認識すること」の重要性を挙げる。良いツールには、開発者の思想が埋め込まれているので、自社の目的に沿ったツールを選ぶことができれば、活用への第一歩を達成したことになる。
とはいえ、「マーケティングの根本」とは具体的に何なのか、定義することはなかなか難しい。この疑問に対し、福田氏が提唱するのが「エンゲージメントマーケティング」という概念だ。
新規顧客獲得型マーケティングが抱えるリスク
エンゲージメントマーケティングとは、ターゲットとなる消費者が関心を寄せる事柄について、タイムリーかつ適切な情報を一貫して提供し続けることを指す。従来のOne to Oneマーケティングとの最大の違いは、最終的な目標を「ロイヤルカスタマーの育成=長期かつ密度の濃いエンゲージメント」に置いていることだ。
かつて、マスマーケティングが主流だった時代は、伝えるメッセージだけに注力すれば十分だった。ただ、マスマーケティングはやはり資金力がものをいう。これに対して登場したのが、メールやバナー広告を利用し、直接的なレスポンスを促すマーケティング法だ。
だが、登場した時点ではメールやバナー広告は、登録や購入を促しやすいという利点があったものの、そうしたメッセージが届きにくくなっているのは前述したとおりだ。こうした流れの中で「未来を見据えて取り組むべきがエンゲージメントマーケティングです」と福田氏は語る。
なぜエンゲージメントが重要なのか。その理由について福田氏は、次の3つを挙げる。
- 広告を出せば売れる時代の終焉
- 顧客行動がオンラインにシフトしている
- 情報が氾濫し、企業のメッセージが届きづらい
実際、テレビCMや雑誌・新聞、ネット広告を出稿しても、それがすぐ購買に結び付くわけではない。むしろ、製品やサービスを新しく知ったら、「まずネットで調べてみる」というのが今日の消費者行動だ。実際、「オンラインのリサーチで、購買検討プロセスの3分の2は終わっている」といわれている。
その上、企業からのメッセージは消費者には届きにくい。一説によると、今日、1人の人間が1日に目にするメッセージは3000超で、そのうち記憶に残るのはわずか0.1%だという。つまり、新規顧客獲得のコストや工数は年々増加しているのだ。
一般に、企業が費やすマーケティング費用の85%は、新規顧客獲得に向けて使われている。だが、新規顧客獲得単価が年々上がる中、いつまでも新規顧客獲得を続けていれば、コストだけ費やして効果がまったく上がらないということも十分あり得る。
こうした状況を図にすると、次のようになる。
グレーで示したのが現状だ。コストだけかかり、顧客のLTVは初回をピークに後は下降の一途をたどるのみだ。マーケティングとは、顧客のLTVの瞬間最大風速を高めることではない。LTVを高く、一定に、長期にわたって維持し続けることだ。
「それを実現するのが、エンゲージメントマーケティングという概念です」(福田氏)