大量の利用データから高精度の予測を可能に
安成:では、次は楽天の濱野さんから具体的な取り組みをお伺いしたいと思います。
濱野:楽天の提供するサービスは80を超え、全て統一のIDで利用することができます。IDの数は1億以上にのぼり、楽天カードも約1,200万人の利用者がいます。これらの会員のデータを駆使してどういうことができるのか、日々模索しています。

そして現在活用手段として注目しているのが機械学習です。例えば、婚活支援サービスを利用した方の購買履歴を分析すると、結婚前後での行動パターンが把握できます。これらの予測ができれば、サービス利用者に合ったアイテムをレコメンドでき、新たな購買を促すことができる。
また弊社の研究開発部門である楽天技術研究所では、楽天の購買履歴データを使って景気動向指数の予想をしているのですが、政府が発表する数字に対し、コンマ数パーセントの誤差での予測を可能にしています。
安成:かなり高精度で予測することができるのですね。
濱野:他にも、顧客の購入しているものから性格や価値観などの定性的なものを把握することもできます。例えば高級車をブランドの中でも、Aというブランドだとシャンパンが好きだとか、Bというブランドだと単価の高い赤ワインが好きだといったことがわかります。
これを、楽天の様々なサービスに関連するデータを活用すれば、オンラインはもちろんオフラインの購買情報を活用して、シャンパンを買っている人に高級車のブランド広告を掲載するといったことも行えます。
機械学習+人の勘で、需要予測を極める
安成:多様でかつ大量のデータがあれば、少し先の未来を精度高く予測できるのですね。では、実際にメーカー企業ではどのように利活用が進んでいるのか。山本さんに伺っていきましょう。
山本:アサヒビールでは流通在庫を適正化するため、機械学習を用いて新商品の需要予測を行っています。例えばスーパードライだと工場で生産後、お客様のお手元に届くまで最短で10日くらいです。そしてこの商品は発売から30年近く経っているので、高い精度で出荷数や商品が店頭に置かれるまでの期間を予測できます。
アルコール飲料を扱っている以上、鮮度の高い商品をお届けし、欠品や在庫余剰にならないことが重要です。しかし、新商品の場合はそう簡単ではありません。現在需要予測をしている担当者は、20年近く担当しているベテランで、経験と勘をもとに精度高く当てることができています。
ただ、そういった人材を育てるのには時間がかかります。だから、今後は経験と勘に依存するだけでなく、機械学習での予測も活用していこうと考えました。現時点ではまだ精度改善中というところです。
安成:今後精度が上がってくれば、機械学習に需要予測を任せていくことが可能になるのでしょうか。
山本:そこまではいかないと思います。機械学習で出てきた結果を共通の判断基準としたいと考えてはいますが、最終的な意思決定には今後も人の力が必要になると思います。