ネット広告のエコシステムが崩れかけている
押久保:菅原さんには、アドテク領域での取材や書籍の執筆などで以前からMarkeZineに協力いただいています。直近では、SupershipのCMOを務められていたんですよね?
菅原:ええ。Supershipはスケールアウト、nanapi、ビットセラー3社による合弁会社で、昨年11月に発足しました。同社には引き続きフェローとしてかかわっていきます。
僕は今39歳なんですが、20代では着メロなど制作系に携わり、30代になってから広告業界に移りました。スケールアウトでプログラマティック広告に参入し、その後はmedibaによる買収やKDDIの子会社になるなど、領域の発展だけでなく環境的にも目まぐるしく過ぎていきましたね。
押久保:たしかに、アドテクが一気に進化したこの数年、菅原さんはずっとフロントを走り続けてこられた印象があります。
さて、早速本題なんですが、合弁会社が発足してさらなる事業拡大が期待される今、なぜ移籍を決断されたのでしょうか? それも、メディアへ。
菅原:広告主や代理店サイドからメディアへというのは、あまり前例もないようで、その点は意外だと他の方々にも言われました。移籍の理由は、ひとことで言うと「ネット広告におけるエコシステムが崩れかけている」という危機感を感じていたことです。この解決に、正面から取り組みたいと考えました。
メディアが儲からなければ良質な記事が生まれない
菅原:昨年7月、「ディスプレイ広告の未来は?」というテーマでアドテックインターナショナルに登壇しました。そこでアイレップ執行役員の矢作さんがベトナムのメディア成長に言及されたんですが、直近の5年間でネット広告市場は伸びているものの、メディアの収益はまったく変わっていなかったんです。伸びた部分は、すべて中間のプラットフォーマーが獲得していました。
これは、日本でも同じだなと。メディアが大手ポータルに10年間コンテンツを提供しても、なかなか儲からず、プラットフォーマーだけが大きくなっていく。するとメディアはコンテンツ制作にお金をかけられず、やせていきます。僕自身、これまで広告主サイドでプログラマティック広告にかかわっていたので、広告を出稿する先となるメディアやコンテンツの質の低下には課題を感じていました。
押久保:たしかに、メディアのマネタイズは、そのまま良質なコンテンツ制作に直結しますね。
菅原:ええ。ユーザーのニーズに応える形で娯楽的なコンテンツが増えるのも、それはそれでいいと思うんです。猫の動画なんか、スマートニュースでも評判がいいですし(笑)。ただ、今の子どもたちが大人になったとき、本当に知るべき情報を伝える記事がどれだけ世の中にあるのか、そういうメディアがどれだけ残っているか。メディアと、良質なコンテンツのつくり手に、しっかりお金が払われる世界にしないといけない、それに寄与したいと考えたのが、移籍の大きな理由です。