巨額の予算を投下した広告を凌駕する“顕在イシュー”へのアンサー
今回ランクインした広告は、巨額の予算を投下したであろう施策が大半を占めています。その中で、おそらく比較的コストをかけずにランクインしたであろう施策もありました。それは、宝島社「あたらしい服を、さがそう。」、おんせん県観光誘致協議会「今の別府にとって、お客様は(マジで)神様です。」、赤城乳業 「ガリガリ君 値上げ」CMです。
なぜ、この3つの施策がエンゲージメント上位に入ることができたのでしょうか。鍵を握るのはソーシャル上で“顕在化しているイシュー”です。
ここでいう「イシュー」とは、身近な出来事ことから、大きな社会問題まで、生活者が持つ問題意識そのものを指して使っています。
たとえば、赤城乳業「ガリガリ君 値上げ」CMは2日間限定の放映と投下量も少なく、派手な演出やタレントの起用がないにも関わらずTOP5に入りました。そのポイントは「謝罪」です。不倫問題のベッキー氏、解散騒動のSMAP、同じく不倫問題の乙武氏……と、年初から次々に明らかになったスキャンダルで賑わった2016年は、「謝罪会見」に注目が集まった一年でもありました。当初、たびたび開かれた謝罪会見は、その場しのぎの“言い訳”が多く、視聴者が憤慨して「ネット炎上」がお決まりのパターンとなっていました。
そんな最中の4月1日、25年ぶりに「ガリガリ君」を“10円値上げ”することについて、赤城乳業社員たちが深々と頭を下げるCM動画が公開され、賞賛の嵐が巻き起こりました。値上げ自体が悪ではないにもかかわらず、真摯に謝罪する姿は、多くの会見での欺瞞に満ちた謝罪に対してソーシャルメディア上で顕在化していたネガティブなイシューに対して、鮮やかなアンサーとなったため賞賛のエンゲージメントにつながったと考えられます。
また、別府の新聞広告も、地震という日本全体を巻き込んだイシューのなかで発信されたまっすぐなメッセージが多くの人の心を動かしたものであり、ベッキー氏の新聞広告は、彼女の仕事復帰に対する世間の関心という顕在イシューへの鮮やかなアンサー的メッセージが賛否を含む大量のエンゲージメント獲得に繋がったものです。
2017年以降、エンゲージメントがマスを形成する
以上、エンゲージメント数をもとに2016年の広告事例をランキングにして振り返りました。
2016年は、広告に限らず「ブレグジット」「ドナルド・トランプ大統領誕生」など政治を舞台とした歴史的どんでん返しや、「君の名は。」の予想を大きく覆した大ヒットなど、これまでの調査手法やマーケティングの常識では考えられない出来事が次々と起こった一年でした。
これらは、生活者インサイトの調査手法として一般的な、個別アンケートやインタビューでは結果を予想することができなかった一方、SNSを始めとするインターネット上では、その結果の兆しが見えていた、もしくは、インターネット上の情報自体がその結果に大きな影響を与えたと考えられる出来事でした。
今回のランキングでも、SNS上で顕在化していたイシューの波に巧みに乗った、たった1枚の画像、1つの動画を用いた施策が、マスメディアでの大量情報投下でリーチ数を稼いだ広告施策と堂々と並び立っています。こうした現象は、2017年以降、益々増えていくと予想されます。
今後、企業が消費者とのコミュニケーション設計を行う上では、これまでの手法を必ずしも前提とはせず、よりWebやSNS特有の生活者インサイトや文化、行動のほか、SNS上で顕在化しているイシューを巧みにとらえ、それをいかにエンゲージメント獲得につなげるかを考えたアプローチを行っていくことが重要となっていくでしょう。2016年のランキングはそのことを我々に物語っており、今年以降の戦略設計への示唆になっていると思います。