メディア環境が変わると広告の概念も変わる
有園:昨年10月、朝日新聞に「総務省が放送法を改正し、ネット同時配信を全面解禁する」というニュースが載りました)。また、この5月には個人情報保護法が改正され、個人を特定できない「匿名加工情報」は本人の同意なしに利用が可能になります(参考)。こうしたニュースが相次いで、きっとこの1~2年のうちにまた大きなメディア環境の変化が起こり、広告の概念も変わる気配を感じています。
須田:そうですね。僕も2000年代前半の、デジタルがまだ補足的な存在だった時代からWebの仕事をしていますが、今ではもうデジタルが不可欠になって、おっしゃるとおりまた大きな転換期に差し掛かっていると思っています。
有園:私は須田さんと違ってマス広告出身ではないですが、ちょうど同じころからWebの仕事をしているので、同期という感覚ですね(笑)。2010年に発売された須田さんの『使ってもらえる広告』では、mixi年賀状(※1)などの事例を踏まえて、従来のマス広告とは違う広告の概念を解説されていました。今改めてどういう広告が有効なのか、ぜひ考えを聞きたいと思ってまして。
須田:端的にいうと、「使ってもらえる広告」という考え方は、今変わりつつあるメディア環境、情報環境、法律環境の下でもまだ使えるのか、というお題ですよね?
※1 mixi年賀状:mixi上でつながっている友達に、個人情報のやり取りをせずに年賀状を送れるサービス。須田氏がCDとして参加し、日本郵便と博報堂DYメディアパートナーズの連携で2009年の年賀状から開始し、2013年まで続いた。
スマホの浸透で“使ってもらう”ことが必須に
須田:僕自身の思考は刻々と変化していますが、「使ってもらえる広告」という発想は、今でも有効だと思っています。というかむしろ、今のほうが通用するようになっている。当時、mixi年賀状のような広告はまれな存在で、ネット上の「特殊な形をした広告なんです」と説明しても理解してもらえないことの方が多かったのですが、今はそういう広告がどんどん増えて普通になってきていると思います。
これは、スマホの時代がきたときに、はっきり変わりましたね。スマホってそもそも使うものだから、その中にどうやって広告として入り込むかを考えると、当然ですが「使ってもらう」ことが一番大事になる。ユーティリティー的な価値がなければどうにもユーザーに接触できないよね、ということが明確になったのは、スマホが登場してからです。
有園:なるほど。思考は変化しているということですが、元々の「使ってもらえる」とはどういうことを意味していたんでしょうか?
須田:mixi年賀状のようなモノを買いやすくするための「サービスの形をした広告」。それからUNIQLOCK(※2)のような、そのブランドの印が付いている使用価値のあるアイテム「ブランデッドユーティリティー」などを想定していました。なので、本のタイトルもはじめは、SaaSをもじった「Ad as a Service」みたいな案でした。
ロッテのソフトキャンディー「カフカ」で制作した動画は、「使ってもらえる広告」の中でもちょっと特殊な例です。赤ちゃんが泣きやむ広告動画“ふかふかかふかのうた”は、要はお母さんに自力で接触したかったんです。
そのためにお母さんの役に立つように、科学的に赤ちゃんが泣きやむ音響を開発しました。「本当に泣きやんだ!」と、ママ友同士で口コミして欲しかったんです。そういう使用価値があってこそ、拡散すると思っていました。
※2 UNIQLOCK:ユニクロの商品を着た女性たちが多様なダンスを披露する、時計機能を備えたブログパーツ。2007年にユニクロがグローバルプロモーションの一環としてリリースし、2017年年明けまでサービスを提供した。