ネットリサーチが広げた調査の裾野
押久保:デジタルの普及がマーケティングを大きく変えている中、生活者調査の部分も特に変化した領域の一つです。今回は、マーケターにはなじみの深いインテージの長崎貴裕さんに、広告主企業が関心を寄せるテーマや、リサーチの今後についてうかがいたいと思います。
長崎:確かに、リサーチはネット登場以前と以後でがらっと変わりましたね。訪問調査といっても、今の若いマーケターの方々はピンとこないでしょう。
押久保:本当ですね(笑)、企業の調査でも1軒1軒、一般の家庭を訪ねていたなんて。ネットリサーチはいつごろから有用性が高くなったのでしょうか?
長崎:日本で始まったのは97年ですが、しばらくはネットユーザー自体が先進層だったので、感度の高い人の意見を聞くといった偏りが前提でした。業界では、これまでの郵送や電話調査、訪問調査を本当にネットに置き換えていいのかという議論もありましたね。
ごく普通の生活者の意見を聞く手法として広がり始めたのは、家庭のネット回線が安定してきた2003年ごろからです。
押久保:以前の調査とネットリサーチで、最も違うのはどういう点でしょうか?
長崎:やはり、コストですね。訪問だと1,000サンプルで2,000万円くらい普通にかかりますが、ネットリサーチだと5、60万円くらいでしょうか。それにともなって気軽に使えるようにもなったので、以前は大企業の調査部がクライアントでしたが、今では幅広い企業や部署で活用されるようになり、裾野が広がりました。
スマホで回答すると調査結果が変わる?
押久保:2,000万が5、60万になるなら、それは使える企業も増えますよね。1回で得られるサンプル数や、調査自体の頻度も多くできる。
長崎:ええ。そこから2013年ごろまでは先ほどの議論もなく、ネットリサーチがマーケティング手法として安定的に使われていた“幸せな10年”でした。今度はスマホの普及で、また転換期を迎えます。
ある意味、アンケート調査はコミュニケーションそのものなので、世の中の人のスタンダードがスマホに移れば調査の場も移るのは自然なことです。ただ、そこでまた議論すべき問題が持ち上がってしまいました。
押久保:調査でもスマホシフトが起きているのですね。問題とはどういったことでしょうか?
長崎:調査画面のレイアウトがPCと違うので、結果が変わってきてしまうんです。
まあ、PCで繰り返し調査をした場合も、好き嫌いや購入意向などの人の気持ちを聞く場合は、まったく同じ結果が得られることはありません。どうしても、変わってきてしまう。ただ、デバイスがスマホになったことで、これまでの揺れの範囲を大きく超えてしまうと、問題ですよね。
そのあたりはかなり繊細ですが、当社では2010年から調査画面最適化の検証を重ねています。もちろんスマホシフト自体は、たとえば得られるデータ量の増加など、調査にすごくプラスの影響ももたらしているので、それらを味方につける研究も進めています。