企業や商品を前面に出さないメディア運営
押久保:デジタル領域における現状の取り組みについて、最初にお二方のそれぞれの状況を教えてください。
講談社・長崎亘宏氏(以下長崎):私自身は広告会社勤務だった時代も含めてずっとメディアビジネスを歩んできています。
弊社第一事業局のメディアとしては、『週刊現代』、『FRIDAY』のようなプリントメディアの他に、Webメディア『現代ビジネス』、『ゲキサカ』、『COURRiER JAPON』、『FORZA STYLE』といった男性向けメディアが属しています。私はその広告部門とWebメディアの編集部門を統括する立場にいます。
押久保:御社は早くから先行してデジタルの取り組みに注力されていますよね。
長崎:デジタル分野においては、コンテンツ販売に力を入れて、先行投資をしてきました。特に女性向けコミックにおいては紙よりもデジタルの読者が上回るところまできています。広告収入型のメディアはそれを追いかける形で注力しています。
ここ近年は、雑誌という母体を持たないデジタルファーストメディアに舵を切っています。その最たるものが6月末にローンチ予定の女性向け新メディアです。
これは従来のキュレーションメディアと一線を画した「コンピレーションメディア」を標榜し、講談社とデジタルガレージの合弁会社「株式会社 DK Media」が運営します。(※関連記事:『講談社×デジタルガレージ、女性向け「コンピレーションメディア」を2017年前半に提供』、『デジタルガレージと講談社、雑誌コンテンツとAI技術を組み合わせたメディア「HOLICS」を開設』)
弊社も含めたメディア各社からコンテンツを募り、データとAIを活用してそれらを客観的に評価する仕組みを使い、ユーザーごとに個別最適化したコンテンツを配信するプラットフォームです。
押久保:馬場さんは、アサヒビールの担当者として、日経BP社と『CAMPANELLA(カンパネラ)』というアサヒビールのオウンドメディアを立ち上げられた方です。(関連記事:『ABテスト?いやいや、うちのABは“アルコールブレスト”!アサヒビール×日経BP共同メディア誕生秘話』)
アサヒビール・馬場崇暢氏(以下馬場):日経BP社とパートナーシップを結んでWebメディアを運営しています。私自身、現在も引き続き担当しています。スタンスは立ち上げ当時から一貫していて、「お酒業界やお酒そのものを盛り上げるためのメディア」です。
ひとまずアサヒビールという企業や商品は脇に置いて、お酒市場の活性化に陰ながら貢献することを目指しており、「お酒好きになったユーザーが最終的にアサヒビールを好きになってほしい」という方針で運営しています。
ブランディングやニーズを創造するためのメディアが必要不可欠
押久保:一般的にオウンドメディアは、事業会社特有の課題もあり、運営を継続するのが難しいと言われていますが、初期の目標を貫きながら続けてこられている理由はどこにあるのでしょうか?
馬場:CAMPANELLAは2017年7月で丸3年を迎えます。正直に申し上げますと、今も試行錯誤しながら運営しています(笑)。KPIはこの3年の中で細かく変えながら、「ユーザーが何をどう求めているのか」や、「ユーザーの行動などの見える化」ができるように、努力を続けています。
ユニークユーザーなどの数字を追いかけたり、逆に自重した上での効果を見たり。たとえば、若くてお酒を飲まない層にコンテンツを提供する場合、本当に態度変容が起きるのか、といったことや、ユーザーの心のありようがどのように変わるかを、独自調査も踏まえて検討を重ねています。
押久保: 3年以上継続されているのは、素晴らしいですね。
長崎:私もCAMPANELLAにはとても興味がありました。素晴らしい取り組みだと思うのは、生活者目線のオウンドメディアであることです。従来のような刈り取りやターゲティングに終始するではなく、ブランディングでありニーズの創造を実践していますよね。
求められるコンテンツがあり、その先にアサヒビールブランドがある、といったCAMPANELLAのような文脈のメディアが、もっとWebには必要だと思います。動画を例に出すと、これまでの日本の動画広告はテレビCMベースがまだまだ多く、まだまだ“ネットっぽい動画”が少ない現実がありました。
CAMPANELLAでも配信されているハウツー動画や、各メディアの世界観で作るタイアップ動画のように、もっと多種多様な動画がWebメディアに登場するとおもしろいのではないでしょうか。
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