4つのタッチポイントを押さえよう!
Lemon先生とVerhoef先生の論文には筆者が考えている顧客時間に似た概念図(図2参照)が出てくる。

両氏は顧客時間=カスタマージャーニーは時系列で蓄積されていくものであり、各フェーズにおける顧客経験タッチポイントをブランド・オウンド、パートナー・オウンド、カスタマー・オウンド、そしてソーシャル/外部のタッチポイントの4つのカテゴリーで管理するべきであるとしている。
ブランド・オウンド・タッチポイントは、企業のコントロール下で設計ならびに管理、提供されるお客様とのインタラクションの場である。小売業で言えば店舗やWEBサイト、自社で出稿する広告などが挙げられるだろう。
パートナー・オウンド・タッチポイントは、企業とそのパートナーによって共同で設計、管理、統制される、顧客との相互作用の場である。ここはメーカーにおいては小売店、卸売業者、物流業者も関係してくる。例えば、AmazonのECプラットフォームとの関係性、販売商品、プロモーション手法もお客様への重要なタッチポイントとなる。
カスタマー・オウンド・タッチポイントは、企業、パートナーあるいは他の人が影響を与えたり、制御が出来ない顧客の行動が該当する。まさにお客様同士のリアルな口コミや独自のファンクラブ形成などが該当する。このようなコミュニティに企業がどう関わっていくのか、そこで何が語れているのかを把握することも重要だ。
最後にソーシャル/外部のタッチポイントは、顧客経験において重要な役割を持つ。お客様はカスタマージャーニーの最中、他の顧客、他の情報源、環境などの外部のタッチポイントに取り囲まれる。レビューサイトやソーシャルメディアも顧客に影響を及ぼす。
お客様のコメントや他のお客様の態度がマーケティング影響を及ぼす時代。企業のコントロールが効かないこのタッチポイントでいかにお客様とのエンゲージメントを高めるか? このあたりのタッチポイントもしっかりと企業として把握しておく必要がある。
例えば音楽業界などにおいてはアーティストのブランディングとサービス体験の現場(例えばコンサート会場)にギャップ、不備がないように入念なカスタマージャーニー設計が求められる。
先行研究や実務の世界でも、ペイド、オウンド、アーンドメディアの重要性は数年前から叫ばれているが、このモデルでは、ペイドメディアはブランド・オウンドまたはパートナー・オウンド・タッチポイントとみなされ、企業側が管理するものであり、アーンドメディアに当たるソーシャルおよび外部のタッチポイントはお客様からの情報発信、体験共有による企業への信頼育成の場となる。
つまり、ブランド・オウンドとパートナー・オウンド・タッチポイントは企業に主導権があり、カスタマー・オウンドとソーシャル/外部タッチポイントは、消費者に主導権があるということだ。この複雑なバランス設計が現代のマーケターにはもとめられているのだ。
このような考え方とタッチポイントの理解に基づき、デジタルマーケティング戦略はもちろん、従来のマーケィングも設計される必要がある。顧客時間をどう把握して良いのかわからないという人には、上記の4つのポイントがオンライン、オフラインで企業としてどのように設計されているかを確認してみることをおすすめする。ここからデジタル、トラディショナルなマーケティングの融合を考えてもらいたい。
実務家のインサイトを研究が援護射撃してくれます
第1回目の原稿はここで筆を置きたいと思います。初回は前置きが長く、堅苦しくなりましたが、この連載で筆者が伝えたいことは、実務家の優れた勘と経験は多くの場合、しっかりとした理論やフレームワークに再整理することが出来、それをみんなが使うことができるということです。
私が考えた(と思っていた)顧客時間も、このように素晴らしい先生達がよりわかり易い形に整理されていたりします。そして、自分で言うのもなんですが、顧客時間という考えかたにも何らかのマーケティング思考の広がりが織り込まれているということなのです。
最後に今回紹介した論文の要約を福岡大学の太宰先生、亜細亜大学の西原先生と翻訳しました。お二人のお力も借りての第1回の執筆となりましたことこの場を借りて御礼申し上げます。なお論文の要約翻訳は日本マーケティング学会発行のマーケティングジャーナル秋号に掲載されました。詳しい内容は是非こちらもご一読ください。
次回も世界のマーケティング学者の叡智から、学びを共有していきたいと思います。ご期待ください。
今回紹介した論文は以下の通りです
Lemon, Katherine and Peter C. Verhoef (2016)"Understanding Customer Experience Throughout the Customer Journey" Journal of Marketing , Vol.80 (November 2016), 69-96