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世界のマーケティング学者から学ぶ「勝てる」マーケティング思考

顧客時間って「私」が考えついたものでしたっけ?

顧客時間という考え方

 お客様がネットとリアルを行き来しながら買い物をする時代。まさにオムニチャネル戦略が小売業で進む中で、お客様の購買意思決定プロセスの可視化に対する実務家のニーズは強い。

 スマートフォンを活用した商品購入前の情報探索や収集を行う「ウェブルーミング」。あるいはその逆の行為として店舗で情報収集を行いネットで購入する「ショールーミング」。筆者はこのようなモバイル端末を中心にした消費者意思決定を考察する上で「顧客時間」という考え方を提唱している(図1参照)。

図1 顧客時間の考え方
図1 顧客時間の考え方

 お客様の消費者行動の流れ(検討→購入→使用&消費)を時間軸で捉えようという考え方である。小売業では購買の瞬間にのみ注力しがちで、この購買データしか取れない企業が多い為、売れば終わり(買ってくれれば終わり)という発想に陥りがちだ。

 オムニチャネル化する消費行動を把握するためにはその行動を時間軸で把握し、購入の時点だけでなく、いかに使用&消費の段階、検討の段階に入り込めるかが重要となっている。この3フェーズを企業としてオンラインの世界、オフラインの世界を問わずに把握していくことができていなければオムニチャネル戦略の成功はないと言えるだろう。

 筆者が提唱する「検討→購入→使用&消費」という意思決定を時間軸で捉える概念「顧客時間」には似ている考え方が実務の世界にもすでに存在する。元スカンジナビア航空CEOとして活躍したヤン・カールソンがビジネス用語として「真実の瞬間」という言葉を最初に提唱し、その後顧客時間と同じような考え方に進化発展したものがある。

 それは事前購買段階(ZMOT Zero Moment of Truth, 真実のゼロの瞬間)、 購買段階(FMOT First Moment of Truth, 真実の第1の瞬間)、 事後購買段階(SMOT Second Moment of Truth, 真実の第2の瞬間)と段階ごとに消費者意思決定プロセスを捉える考え方だ。

 FMOTはP&Gが提唱し、店頭が購買意思決定の最終場面として重要であり、ここに真実の第1の瞬間があるとしている。

 これを踏まえてGoogleが2012年に提唱したのが真実のゼロの瞬間である。ネットが身近になった現在の消費者は、店に足を運ぶ前の時点ですでに、先述の通りネットでの下調べを通じて意思決定を済ませることが多くなっている。ZMOTとはつまり、店に足を運ぶ前の下調べにおいて起きる意思決定の決定的瞬間のことを指す。

 SMOTは商品を購入した消費者が、実際にその商品を使用し体験することを指し、この体験がまずいものだった場合、次からは選んでもらえない。

 P&Gでは消費者が製品(または製造者)を評価する機会は大きく2度あるとしており、1度目をFMOT(店頭)、2度目をSMOT(体験)としている。今この各フェーズがモバイルデバイスを活用することで可視化することが技術的に可能となっている。

 モバイルマーケティング、アプリ開発を行えばお客様がいらっしゃることを祈って待つことなく、積極的に購買意思決定プロセスに入り込むことが可能になり、コミュニケーションの幅が広がり、商品の購買だけでなく、購買を導く文脈の可視化が可能となる。つまり、スマートフォンを中心としたマーケティング活動は顧客時間の全体把握を目的に構築されるべきであると言える。

 同時に、ZMOTが存在するということは、お客様は今までも必ずしも店頭で購入の意思決定を全て行うわけではなく、店舗以外でも行っていることがモバイルの普及によって明らかになってきたとも言える。

 モバイルマーケティングのもたらす購買意思決定プロセスへの影響がいかなるものになるのかという問題と、各チャネル対応をどうするべきかという方法が未だに明確に確立されていないが、その全体像への入り口が見え隠れし始めているのだ。

顧客時間とは「Customer Journeyを通じた経験」 そのものです。

 このような顧客時間の考え方を筆者が実務家として意識するようになったのは早稲田大学のビジネススクールで顧客関係マネジメントの授業受けたり、消費者購買意思決定モデルを学んだからである。

 それをもっとシンプルに伝えられないか?デジタルマーケティングの現場においても活用できないか?そう考え、お客様の意思決定を大まかに3段階に区切ってマーケティング戦略を構築する手法として顧客時間という考え方を2010年頃から仕事で積極的に活用している。

 この我流ではある顧客時間という考え方も世界のマーケティング研究者の間ではすでに存在している。彼らは「顧客経験(CX)」やカスタマージャーニーを重視する立場から、「検討→購入→使用&消費」という体験プロセスを時間軸のもといかに設計するべきかという議論を行っている。

 ボストンカレッジの Katherine N. Lemon先生とオランダフローニンゲン大学のPeter C. Verhoef 先生は昨今のモバイルチャネル利用の急速な拡大において、お客様は様々なチャネルやメディアを通じて、無数に存在する企業との「タッチポイント」に接しており、ポジティブな顧客体験の創造と提供を実現するために、複数存在するビジネス機能や、外部パートナー機能を統合して管理する必要性を提唱している。また、マーケティングの領域における顧客経験研究を歴史的に整理し、重要なリサーチテーマの特定を行なっている。

 簡単に言えば、オンラインとオフラインを行き来するお客様にシームレスな購買体験、ポジティブな購買体験を提供するためにお客様に購買前、購買中、購買後という3点でどのようなタッチポイント、体験設計をするべきなのかを考えるべきだと言っているのだ。

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この記事の著者

奥谷 孝司(オクタニ タカシ)

オイシックス・ラ・大地株式会社 専門役員COCO(Chief Omni-Channel Officer)
株式会社顧客時間 共同CEO 取締役
株式会社イー・ロジット 社外取締役
株式会社Engagement Commerce Lab. 代表取締役

1997年良品計画入社。3年の店舗経験の後、取引先の商社に出向しドイツ駐在。家具、雑貨関連の商品開発や貿易業務に従事。帰国後、海外のプロダクトデザイナーとのコラボレーションを手掛ける「Worl...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2017/10/26 09:00 https://markezine.jp/article/detail/27218

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