親子間の理解を深め、ブランド理解も促す催し
――イベントなども、ブランドの行動指針に基づいて開催しているのですか?
そうですね、店舗イベントは顧客体験として重視している企画のひとつです。
直近で好評なのは、プレミアムフライデーの設置を機に始めた親子の職場体験プログラム「Premium Job Day」です。その日は家族で外食をする家庭も多いと思い、その前の時間帯を私たちらしい企画で充実したものにできないか、と考えて生まれました。意外と、子供には親が知らない一面もあったりしますが、環境や設定が異なるとそういう面も垣間見えるので、発見や刺激を提供するフライングタイガーでお互いの意外な一面を知ってもらえるといいな、と。

同時に、フライングタイガーのこともより深く知ってもらえます。先ほどお話ししたミッションの“触媒” として、まさに店舗が機能する企画になりました。
直接的な購買獲得の位置づけではなかったのですが、最初に始めた吉祥寺ストアでは2月以降じわじわと売上、客数ともに前年比が継続して改善し、今では前年比を超えて推移しています。まだ考察段階ですが、プログラムの評判がママ友の間で広まって、通常時の来店に反映していると仮説を持っています。今は、十数店舗で毎月行っています。
また、春の出会いの季節に開催した「一期一会」をキーワードにした似顔絵企画も好評でした。クリエイターの方に店内に常駐してもらい、その場で似顔絵を描いてワンコインで販売しました。それから、顧客を招待したホームパーティーも定期的に行っていますね。

――それは、ロイヤル顧客を対象にということですか?
はい。ただ、フライングタイガーには一人ひとりの顧客や購買額を追えるような顧客データベースはないので、ロイヤル顧客は定期的に従業員と顧客向けのアンケートを実施し、大きく「ブランドへの熱狂度」と「推奨意向」の2つの指標で見ています。その上位の方々を中心に招待している形です。
ブランドに対する“中間層”をいかにファン化するか
――なるほど。アンケートからは、今どんな課題が見えてきているのでしょうか?
実は、ファンと言える方々の熱狂度は高いのですが数としてはまだまだ不十分であり、浮動票ではないですが、中間的な方々との関係性も、もう一歩強める必要があると思っています。
なので、熱狂度と推奨意向が高い方に優先的にブランド体験を提供しているのは、そこを火種にした波及を狙っているからなんです。今、普通の人がメディアとなって、ソーシャルメディアを通じて情報発信ができる時代となり、各種SNSを通じて、情報が発信されます。たとえば、Instagramをやっていれば50人程度のフォロワーはいると思いますし、その熱狂顧客からの推奨が広がり、そこから数人でも来店し、EverydayMagicを体験してくれたら、ブランドを推奨する輪がまた広がっていきます。なかなか広告、マスマーケティングが効かない時代だからこそ、身近な人からの勧めが購買の強い後押しになると信じています。だから私たちは今ファンを起点にしたコミュニティーマーケティングの実践を始めたところです。
――広告と言えば、以前柘野さんが登壇されたセミナーで、創業者の方の「広告なんて退屈だ」という言葉を紹介されていました。広告に頼らず試行錯誤せよ、というメッセージだったと思いますが、その意図をうかがえますか?
おっしゃる通り、お金を出して言いたいことを発信する広告という手法は簡単ではありますが、相手にちゃんと届くのか?
コミュニケーションは伝えて終わりではなく、伝わることで完結すると考えていますので、もっとインタラクティブなコミュニケーションが大切であるという考えがあります。先のファン起点のコミュニティーマーケティング活動も、広告ではなくイベントなどで顧客との直接の接点に投資し、リソースを配分し、そこで感じてもらった熱量でブランドを広げていく活動ですね。受け手の琴線に触れて、フライングタイガーは楽しい、素敵だと思わず言いたくなる、そんなメッセージの届け方を日々考えています。
――ありがとうございました。最後に、今後の展望をお聞かせください。
冒頭でお話ししたように、今フライングタイガーは大きな変革の最中です。ファミリーカンパニーが急速にグローバル企業になったので、まだビジネス上のひずみがあります。日本でも本国の意向や動きを汲みつつ、ローカルにどう最適化していくか、考えを整理して理想の形へと動いているところです。
具体的には先ほどのコミュニティーマーケティングのさらなる推進とそれによる熱狂度の高いファンの増加、またデジタル活用も大きな課題のひとつです。リアルと連携した円滑なコミュニティ運営だけでなく、1対1の関係構築も今はできる時代ですよね。ソーシャルを含め、デジタルを使えば前述の熱量がリーチする範囲も大きく変わりますし、より熱量を増幅させることができると考えていますので、この部分に重点的に取り組んでいきます。