買い換え需要を中心に長い関係性を築く
カスタマージャーニーは顧客がどのような経緯で自社のサービスや製品に触れ、気持ちを動かし次の行動を取るのかを表したものだ。企業によってジャーニーは異なるが、“他社はどのようなマップを描いているのか”と、興味をもつマーケターも少なくないだろう。
『SUBARUが描くカスタマージャーニー』では、自動車業界の中でも個性的な立ち位置にあるSUBARU(以下、スバル)のカスタマージャーニーとその取り組みについて語られた。
登壇した小島氏は1988年に旧富士重工業株式会社へ入社。情報システムから営業・販売促進、さらに地方の販売ディーラーに籍を置いた後、ファンづくりや顧客との関係をつくることを目指したスバルネクストストーリー推進室を立ち上げた人物だ。
冒頭で小島氏は、自動車業界の特殊性を説明する。
国内における自動車の普及率は約8割。各社は買い換えの需要を中心に、マーケティング戦略を練っている。また、商流はメーカーと系列のディーラーでつくられ、法律で定められた点検・車検制度を持つ。言い換えれば、メンテナンスも系列会社が担当し、購入後もブランドと顧客との接点自体は定期的に存在する。
つまり、平均して8年という買い換えサイクルを考慮しつつ、顧客との関係が長く続くことを前提に施策を考える必要があるというわけだ。
“安心と愉しさ”を提供し、笑顔をつくる会社へ
スバルの始まりは1958年。その前身は中島飛行機という航空機メーカーだ。モノづくりを大切にし、創業から続く技術者のDNAが今日のエンジニアにも引き継がれているという。一方で、グローバルで見た販売台数は100万台で、世界シェアで見ると1%だ。
「小規模・技術オリエンテッド・高コスト体質」が良くも悪くもスバルの特徴であり、その技術力に惚れ込むファンに支えられていると小島氏は語る。
「私たちは量が勝敗を決する戦いはできません。では、どうしていけば良いか? その答えが社名変更に合わせて掲げたキャッチフレーズ“モノをつくる会社から、笑顔をつくる会社へ。”です。モノづくりは技術部門が中心ですが、価値提供であれば全てのスタッフの力が結集できます。私たちは技術力・安全性だけでなく、安心と愉しさという価値を様々なポイントで、全てのスタッフがご提供していこう、と考えたのです」(小島氏)
この“安心と愉しさの提供”を軸にカスタマージャーニーもつくられた。
スバルにとってのカスタマージャーニーとはブランドを強くするためのものだと小島氏は語る。「ブランドはお客様がSUBARUってすごく良いなと感じる体験をひとつひとつ重ねていくことで、強くなります」(小島氏)
そのためスバルは、体験にフォーカスしたカスタマージャーニーの設計・施策を重視している。