MA導入企業の屍を増やさないために
シンフォニーマーケティングは、インターネットも一般的ではなかった1990年からBtoBに特化したマーケティングサービスを提供している企業。代表取締役の庭山一郎氏は、28歳で同社を創業して以降、27年に渡ってこの道一筋で同社を経営する傍ら、現在は中央大学大学院ビジネススクールの客員教授も務める人物だ。
マーケティング先進国の米国で最新トレンドを学んできた庭山氏にとって、数年前からの日本でのマーケティングオートメーション(以下、MA)の流行は「ようやく米国基準に追いつける」と感じさせるものだったという。
しかし実際の使われ方を見ると危機感を覚え、当時同氏が連載していたコラムにて「このままではMAの屍の山ができる」と警鐘を鳴らすまでに至った。関係者からは「せっかくのブームになぜ水を差すのか」といった反応もあったそうだが、庭山氏はその真意についてこう語る。
「『経営戦略の父』ともいわれたイゴール・アンゾフ博士は、Strategy(戦略)、Structure(組織)、System(システム)の『3S』という概念を提唱しました。まずどういったマーケティングがやりたいのかという『戦略』があり、それを実現するための組織があって、組織が使うための道具としてシステムがある。これらが三位一体となり、絶対にこの順番である必要があります。
それに対し、日本企業はなぜか最初にシステムを買うケースが多い。買ってから、使えないとなるわけです。例えるなら、友人に『スポーツカーっていいよね?』と聞かれ、確かにいいものだから『そうだね』と答えた。しばらくするとスポーツカーを購入した友人が文句をぶつけてきて『俺たちは家族でキャンプに行きたかったんだ』と怒られるようなもの。MA問わずシステムを導入する際は、マーケティングで何をしたいか固まっているかを問い直すべきです」(庭山氏)
自社のB2Bマーケティングを通して成長してきたセールスフォース
庭山氏いわく、そういった戦略のないシステム導入は国内企業のあちこちで起きており、多額の資金を投入したにも関わらず活用されていない例は多くあるという。
これを受けて、セールスフォース・ドットコムの田崎氏は、同社自身を例に挙げ、ツールの適切な活用方法について話した。
「弊社の成長自体が、まさにMAやSFAを徹底的に活用していることによるものだと思っています。リードジェネレーションから営業パイプラインの管理、インサイドセールスの運用など、それぞれの目的に合わせて活用を進めてきました。
そのため、導入企業様の事例を伝える以外にも、日頃から我々自身がやっていることをお客様に細かく伝えることも欠かさず行っています」(田崎氏)
実際、9月27日に行われた「Salesforce World Tour Tokyo 2017」においては、セールスフォース・ドットコムみずからによるSalesforceの利用方法紹介といったセッションに多くの人が訪れたという。
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注目のABM、実現に不可欠な条件とは
昨今、B2Bマーケティング領域でよく話題に上るのが、ABM(Account Based Marketing)だ。これは、市場を広く見て顧客を探すのではなく、営業とマーケティングの連鎖によって定義されたターゲットの企業(アカウント)からの売上最大化を目指した戦略的なマーケティングである。
元々、企業同士の「引き合い」が多い日本企業の慣習に近いと表現されることもあるABMだが、実際、企業の規模や業種を問わず、多くの場合で通用する手法なのだろうか。しかし庭山氏は、それほど安易な手法ではないと釘を刺した。
「クライアントの課題を掴めていない営業にとって、ABMは価値があります。マーケティングで、誰がどういう情報を探しているかを知ることができるからです。特に、中堅以上で商材がたくさんあるといった企業にABMは有効だといえるでしょう。
逆に単品しか扱っていない、社長にすべての決済権があるような小規模企業相手であれば、ABMではなく普通のマーケティングを行ったほうが良いかと思います」(庭山氏)
求められるMAとSFAの密度濃い連携
セールスフォース・ドットコムの秋津氏も同様に、実際に同社のMAツール「Salesforce Pardot」を利用している同社顧客の中でも、ABMの影響力はまださほど大きくないと語った。
「Pardotは中小規模のお客様にも多くご利用いただいていますが、『ABM』への取り組みはまだこれからという状況です。ABMを認識してはいるが、自社にとって本当に必要かを見極めている段階の方が多くいます」(秋津氏)
こうしたABMの状況に、「MAの時と同じ懸念を抱いている」と語る庭山氏。一時的なバズワードとして取り上げられ、実態を理解されないまま廃れていくことを憂慮しているのだ。
「現在、ABMの解釈は様々ですが、重要なのはABMは小手先の技術ではなくもっとストラテジックなものであり、少なくとも本気で実現するには組織をまたぐ必要があるということです。特に、事業部をまたいでデータを共有し、統合プラットフォームを作ることが求められるので、MAとSFAを密度濃く連携しなければなりません」(庭山氏)
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特にメール配信機能に感じた「Pardotの進化」
そのような状況の中、シンフォニーマーケティングはセールスフォースのPardotの取り扱いを開始したという。先日、日本語版が出たばかりの同製品ではあるが、英語版の頃から多くの企業が導入を進めており、シンフォニーマーケティングの取扱開始は決して早いほうとはいえない。同社はなぜ、このタイミングでPardotを扱うことを決めたのか。
「SFAとしてSales Cloudを使っているお客様が多いので、Pardotを扱ってくれという要望は多くありました。これまで取り扱っていなかったことに何か他意があったわけではなく、Pardotは前身のExact Targetの印象が強く中小企業向けの製品というイメージを持っていたため、我々のお客様の規模感に合わないと思っていました。
しかしご縁があって最新版のデモを見せていただいたら、まったく別物になっていました。特に驚いたのは、メール配信機能です。タイトルの最適化はもちろん、どのメーラーで見る人が多いのかといったことまでチェックできる。もうここまでできるのかと惚れ惚れしましたね」(庭山氏)
セールスとマーケティングが近づけば、次のフェーズに
Pardotの機能群や、きめ細かい仕様に感銘を受けたという庭山氏。しかしそれ以外にも、製品を貫く一種の「フィロソフィー」にも共感したと語る。
「普通、MAとSFAはまったく別物なんです。だからお互いにデータベースを持ち合って、APIで連携するのが当たり前でした。もっといえば、MAが案件化するまでの過程を担当するものだとすれば、SFAはクロージングまでを担っています。
しかしPardotは、そこにワンプラットフォームでMAとSFAを提供するという新しいアプローチを実現したため、まったく次元の違うものができたなという印象です」(庭山氏)
日本のマーケティングオートメーション業界を牽引している、セールスフォース・ドットコムとシンフォニーマーケティング。最後に、両社がお互いに今後期待していることについて伺った。
「日本のマーケティングは、広報などバックオフィス側に寄る傾向があり、セールスと距離があったりします。今後我々が最も期待しているのは、このセールスサイドからマーケティングを行う動きが出てくること。その点でPardotは、とても地に足が着いている印象があります。マーケティングをセールスと近いところでできるようになれば、日本のマーケティングは一気に進化すると思います」(庭山氏)
「B2Bマーケティングのチャネルとして一般的なのがWebサイト、メール、イベントの3つです。しかし、各チャネルの担当がマーケティング部門の中で分かれているケースはよくあります。そしてMAによって、これらを1つのプラットフォーム上で動かすことはできます。
ただ、各担当者は全体の組み合わせをイメージする必要があり、セールスの概念も併せて考えないといけません。そのあたりのマーケターがつまずきやすい点を、庭山さんやシンフォニーマーケティングさんが持つ知見によって解決されることをものすごく期待しています」(田崎氏)
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