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リゾームマーケティングの時代

AISAS提唱者、元電通顧問秋山氏との会食から3年……代理店はリゾーム化社会と対峙せよ

「リゾーム」の特徴とは何か

 私は、それらの力学を明視し、革新的で斬新なテクノロジーが孕むノイズを濾過し、新たなビジネスモデルの萌芽を啓示するフレームワークが必要だと考えている。そして、それが「リゾーム」だ。

 ここで、ドゥルーズ=ガタリが提示した「リゾーム」の特徴を、私なりに解釈して7つ紹介する。

 現代思想に馴染みのある人は、「パラノ」と「スキゾ」や「定住型」と「ノマド型」、「闘争」と「逃走」などの言葉を知っているかもしれない。このような政治的・文化的な特徴の話は別の機会にするとして、ここでは「リゾーム」モデルの形状的・物理的な特徴を話しておきたい。

「リゾーム」の形状的な特徴

1:「つながりがある(connected)」

 この特徴があるからこそ、SNSが可能になるし、個人と直接つながっているのでOne-to-Oneメールマーケティングも実践できる(テレビCMなどマス広告は物理的に個人を特定して情報を届けられない)。また、つながっているからこそ簡単にシェアできる訳で、シェアリングエコノミーも可能になる。

2:「動きがある(active)」

 マス広告ではテレビの前に座っている人や新聞を読んでいる人など静的対象がターゲットになる。固定された的をねらって弓で矢を放つイメージだ。

 その一方で、「リゾーム」の場合、動きがある(動的)。ヒトはスマホをもって移動するし、自動走行車も移動体である。「リゾーム」は動きを前提にするので、カスタマージャーニーという発想やGoogleが提唱するマイクロモーメント、あるいは、カスタマー・エクスペリエンス・マネージメントという方法論が生まれてくる。

3:「中心がない(decentralized/distributed)」

 2005年だったか、メディアニュートラルという単語が流行った。それ以前は、テレビCMを中心にメディアプランを作ることが多かった。テレビが情報発信の中心地だった。

 それに対して、すべてのメディアをフラットに平等に扱うべきだと考えるのが、メディアニュートラルな発想だ。テレビ中心の消費者もまだいるとは思うが、若い世代は変容した。すべての人に共通する中心的なメディアは存在しなくなった。

 また、中心のない分散型メディア(distributed media)も登場してきたし、ブロックチェーンも分散型台帳技術である。「リゾーム化する世界は中心がない」ことに気づいた人が、中心を持たない分散型のサービスやテクノロジーの着想を得て、具体的なビジネスモデルを構築している状況だ。

4:「ノードがある、ハブがある(node/hub)」

 複雑ネットワーク理論、マルチ・エージェント・ネットワーク、ソーシャルグラフなどリゾーム的なモデルは、ノードとハブが全体を支える。リゾーム型のノード/ハブのシステムでは、基本的に、それぞれが相互に接続可能であり、かつ、どこからでも情報を発信できる。どこか一つのノードに問題があっても全体への影響は軽微で済む。

 一方で、テレビは放送局という中心があって(centralized)、そこから情報が各家庭のテレビ端末に届く。このシステムだと情報発信元の放送局の機能が破壊されると、情報は家庭の端末に届かなくなる。

5:「かたまりがある(clustered)」

 固まって存在するノード/ハブも「リゾーム」の中には存在していて、独自空間を形成したりする。これは、SNSのコミュニティなどを考えればわかりやすい。

 実はテレビがスマート化しネット接続することで、「リゾーム」の中のクラスターの一つ、コミュニティの一つになっていく。テレビ好きの文化空間があって、そこの中で、従来のマスマーケティング手法は有効に機能する。つまり、マスマーケティングは、「リゾーム化社会」に取り込まれつつある。

6:「始まりも終わりもない(no-start/no-end)」

 すべてのノード/ハブが相互に接続する可能性がある。となると、どこが始まりで終わりか見分けが付かない。相互に情報が往来するので、ノード/ハブの間を情報が行ったり来たりする。結果的に双方向であり、ネット広告がトラッキング可能なのもそのためだ。

 テレビの場合は、放送局が情報発信の「始点」で、家庭のテレビ端末が情報の流れの「終点」である。結果的に、一方向になる。

 また、始まりも終わりもない(no-start/no-end)という「リゾーム」は、循環型モデルである。ちょっと前に「ALSアイス・バケツ・チャレンジ」がネット上を駆け巡り話題になった。どこで始まってどこで終わるのか不明で、情報がぐるぐる回って拡散していくのは、循環型だからだ。

7:「開放的で解放的(open/liberal)」

 IoEは理論的にはすべてにつながる。閉じた空間にとどまることなく、常に外に開かれた状態で、様々なものと接続して「リゾーム化社会」に取り込んでいく。

 たとえば、テレビ端末がネット接続されると物理的に「リゾーム」に組み込んでしまう。紙媒体も電子ペーパーがスマートペーパー化されれば、理論的には、組み込まれる。

 また、倫理的問題は別として、エッチな少女コミックのデジタル化が爆発的に普及し、リアル世界で猫を被っていた女子を解放した。文春オンラインの「文春砲」の影響力も、一部の人が不倫ネタで解放的なカタルシスを得ているのだろう。

 「リゾーム」は開放的で解放的なのだ。ネットの世界は閉じた世界である、という解釈もあるが、これは、SNSコミュニティを考えればわかるが、一部の閉じた世界や独自の空間を内包しつつ、全体をプラットフォーム的に支えていく。つまり、理論的にはすべてに開放されていくのが「リゾーム」だ。

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電通・博報堂がリゾームマーケティング企業に変容

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この記事の著者

有園 雄一(アリゾノ ユウイチ)

Regional Vice President, Microsoft Advertising Japan

早稲田大学政治経済学部卒。1995年、学部生時代に執筆した「貨幣の複数性」(卒業論文)が「現代思想」(青土社 1995年9月 貨幣とナショナリズム<特集>)で出版される。2004年、日本初のマス連動施策を考案。オーバーチュア株式会...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2018/02/16 09:00 https://markezine.jp/article/detail/27867

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