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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

定期誌『MarkeZine』特集

ミレニアル世代の共感を呼ぶブランドづくりを オンラインSPAの雄「FABRIC TOKYO」の勝算

オンラインサービスが実店舗を持つ意味

――基本的にはオンライン経由での購入ですが、店舗を運営している理由はなんでしょうか。

 元々オンラインから生まれたブランドですが、当初からリアル店舗をやるということは考えていました。自分の経験から、オンラインだけで洋服を販売することは、あくまで事業者側のエゴだと思っていたからです。なぜなら、購入する立場で考えてみると、やはりリアル店舗で実物を見た方が安心感がありますよね。オンラインとはまた違う、リアルなショッピング体験という価値もあります。そのため、リアル店舗は開きたいという考えはありました。

 ただ、リアル店舗の前提にあるのは、やはりECです。リアル店舗を売り場とするのは、今の時代に合いません。特に、ミレニアル世代と呼ばれる層の購買行動とは相容れないものがあります。

 こうしたことから、ECは「実売とプロモーション」という役割、そして店舗は体験価値の提供や、実際の顧客の声を聞くことで商品づくりに活かしたり、当社の取り組みの発信チャネルとして活用したりと、それぞれの役割を明確に分けて展開しています。

2018年1月にオープンした「FABRIC TOKYO銀座」。店舗では商品の販売は行わず、採寸によるサービス体験に特化したスマートオーダーストア
2018年1月にオープンした「FABRIC TOKYO銀座」
店舗では商品の販売は行わず、採寸によるサービス体験に特化したスマートオーダーストア

納得・共感するものしか買わない時代

――今、若い世代の消費が落ち込み、アパレル業界も冬の時代が続いています。そうした中、特にミレニアル世代と呼ばれる若い層に、御社のオーダーメイドスーツが支持されている理由はなんでしょうか。

 確かに低価格ではありませんが、「なぜこの価格なのか」ということを、しっかり市場に説明していくことがポイントだと思っているのです。

 昔に比べると、今は情報量が爆発的に増大しており、生まれたときからそうした状況下にいる若い世代は、雑誌やテレビといったマスメディアの言うことを鵜呑みにはしない傾向があります。自分で納得いくまで、とことん調べるわけです。それに、多感な時期に9.11や、その後震災を経験しているので、危機感も強い。

 さらに、昔のように、ファッションリーダーやアイドルが着ている服や持ち物が注目される時代ではなくなりました。ここ10年くらいで本当に環境は大きく変わったのです。そこで「何に信頼を寄せるべきか」を自分で考え、調べ、追求するという傾向が強くなりました。自分がよければすべてよし、という人は少ないのではないでしょうか。米Everlaneが支持される理由もおそらく同じで、生産過程をオープンにして、きちんとしたモノづくりをアピールすることでファンが増えているのだと思います。

――そうした若い層に向けて、具体的にどのような形で御社の特徴を訴求しているのでしょうか。

 やはり、我々の商品づくりや売り方、価格設定、企業の姿勢などを信頼できる形で発信していくことだと思います。そこで利用しているのが、メルマガやSNS、オウンドメディアといったデジタルチャネルですが、これらについては社内で運用しており、代理店などは通していません。コントロールできないからです。顧客を裏切らない形で運用することが第一だと思っています。

 冒頭でも簡単に説明しましたが、当社の理念は「誰もが自分らしいライフスタイルを自由にデザインできる、またそれを実現するオープンな社会を作る」というものなのです。

 この理念に基づき、大切にしているキーワードが3つあります。

 第一に「トレーサビリティ」です。透明性の高いオープンな社会作りを目指しているので、クローズな情報を極力なくすために、工場や職人さん、素材についてできるだけ詳しく発信しています。

 第二に「サステナビリティ」です。当社の事業がなくなったら、リピートしたいと思っている顧客が困りますし、また工場の方も困ります。うちがなくなったら困るという人たちがいるのであれば、とにかく続けなくてはなりません。

 具体的な取り組みの例として、パートナーの工場に関しては、買い叩くということは絶対に行わないことにしています。それで工場の経営が危うくなったら、うちも困りますから。「下請け」と呼ばず、パートナーと呼んでいるのも、対等関係でともに事業を続けたいという思いがあるからです。

 第三に「テクノロジー」。テクノロジーを生かすことで、できるだけ無駄を抑え、最適な価格を実現し、買うときは利便性が高いというサプライチェーンを構築できます。この3つを続けることで、ブランドとしての価値が上がっているのではないかと思っています。

――3つのキーワードに基づく施策を通じ、御社のブランドの信頼性を上げていくわけですね。広告施策はいかがですか。

 当社のパートナーである生地メーカー工場を紹介する「THE ROOTS 水の都スーツ」と言う特別コンテンツを作り、Facebook広告などで展開しました。岐阜県の大垣地方のことなのですが、日本で一番水がきれいと言われている地域で、昔から生地づくりが盛んなのです。実は生地づくりは大量の水を必要とするので、水のきれいさは生地の品質を左右するわけです。生地と言えばイタリアが有名ですが、日本にも素晴らしい生地があるのです。

「THE ROOTS 水の都スーツ」を通して、日本のモノづくりの過程や水のすばらしさを伝えている
「THE ROOTS 水の都スーツ」を通して、日本のモノづくりの過程や水のすばらしさを伝えている

 特に当社のパートナーさんは、通常分業制を採る日本のモノづくりにおいて、紡績から織り、染色、加工まで一気通貫で行うので、世界でも珍しいメーカーです。このやり方が、トレーサビリティを大事にする当社の理念と合致し、共感いたしまして、一緒にやっていこうということになりました。特設サイトではその水のすばらしさや、モノづくりの過程がわかる動画を掲載し、リアル店舗内にあるモニターでも常に流しています。

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既存のアパレル企業がデジタルシフトできない理由

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この記事の著者

岩崎 史絵(イワサキ シエ)

リックテレコム、アットマーク・アイティ(現ITmedia)の編集記者を経てフリーに。最近はマーケティング分野の取材・執筆のほか、一般企業のオウンドメディア企画・編集やPR/広報支援なども行っている。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2021/02/25 18:03 https://markezine.jp/article/detail/28071

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