テレビCM崩壊のカウントダウンは既に始まっている

私は、「2023年テレビCM崩壊 - 博報堂生活総合研究所の暗示」を2015年に書いている。テレビ業界は一刻も早く新しいビジネスモデルを構築すべきだ、という気持ちで書いたものだ。じゃないと、個人的に、逸見さんに申し訳が立たない、と勝手に感じている。
電通イージス・ネットワークの調査では「2018年には世界の総広告費に占めるデジタル広告費の割合は38.3%となり、初めてテレビ広告費(35.5%)を上回ることになる」らしい(参考情報)。
テレビCM崩壊のカウントダウンは始まっていると認識すべきだ。 2018年に、仮に、電通イージス・ネットワークの予測通りになれば、その2~3年後、つまり、2020~2021年には、この現象が日本で起こっても不思議じゃない。
未来のことは誰にもわからない。しかし、ひとたびネット広告費がテレビ広告費を上回ってしまうと、下り坂を転げ落ちるように、テレビCMからクライアントが離れていくのではないか? もちろん、変化は徐々に起こるかもしれない。だが、急落の可能性もゼロとは言い切れない。
急落は困るのだ。日本のメディア業界と広告業界は、その準備がまだ整っていない。仮にテレビCMが崩壊するようなことになり、その結果、番組の制作費がさらに削られれば、番組コンテンツの質の低下がさらに進む。テレビがつまらなくなったと言われて久しいが、その悪循環が加速するかもしれない。悪循環が加速すれば、経営が悪化し、破綻する可能性がある。
いま、IoT化が進むことによって、多くの事業者が新たに電波を使いたいと考えている。総務省の「放送を巡る諸課題に関する検討会」や「電波政策2020懇談会」などでは、公共の電波の周波数の有効活用やIoT社会における電波政策などが話し合われている。たとえば、いま話題の自動走行車なども電波を使って無線通信するし、IoT関連機器はもれなく無線通信ネットワークの中で情報をやり取りすることになる。
業界の知人によれば、「政府としては今後の成長が期待できる分野に効率よく電波を使いたいはず、だから、テレビ局が赤字に陥るのは危険だ」とのことだ。つまり、儲からないビジネスには電波を割り当ててもらえなくなる。そんな危惧もある。
日本のマスメディアは、テレビも含めて、日本の文化を支えてきたと思う。国民の知る権利を担保し、娯楽・スポーツ・芸術・学問など多くの側面で日本人の生活を豊かにしてきた。
様々な批判もあろうが、それでも、昔のテレビには社会的な存在意義が明確にあった。だが、もはや過去の話だ。いまでは、特に若い人にとっては、テレビがなくても生活に支障はなくなった。
テレビの新しいビジネスモデルが必要だ
その一方で、マスメディア、特にテレビが担ってきた役割を、ネットメディアがすべて担えるとは思えない。ネットはGoogleなどプラットフォーム事業者であれば莫大な利益があがるが、いわゆるメディア事業や広告事業ではこれまでのマスメディアには及ばない。
GoogleやFacebookなど、外資のプラットフォーマーが稼いだお金が日本のメディア事業者や広告事業者に充分に還元される仕組みが整っていない。メディアの劣化は、日本全体にとっての損失であり、誰も幸せにならないと思うのだ。
我々は、IoT化が進みリゾーム化していく社会を見越した新たなビジネスモデルを確立しなければならない。テレビ局がコミュニケーション領域におけるIoT化を牽引するというぐらいの気概が必要だ。
いまのテレビ局や電通・博報堂の経営者は分かっていても、なかなか動けないだろう。イノベーションのジレンマがある。だが、我々は、それでも挫けることなく、チャレンジしなければならないと思う。
次世代のテレビのビジネスモデルについては、様々なアイデアがあるとは思うが、とにかく、視聴者/ユーザー、テレビ局、広告主、広告代理店、関連ネット事業者のすべてにとって、プラスになるように支援したい。そして、我々は、先人から受け継いだビジネス資産を、次世代にできる限り健全な状態で残していくべきだ。
それがうまくいけば、少しだけ私の気持ちも晴れるはずだ。あと何年かかるのかわからない。でも、あの逸見さんのテレビへの情熱に、もう1ミリだけでも恩返しができるかもしれない。とにかく、私は、闇雲に続けていきたい。
