新たな収益確保の手段は「ブランデッド・コンテンツ」
FOXは、プライムタイムにはおよそ1時間あたり10.6分のCM枠がある。仮に発表どおりに2分に単純に縮小したとすると、CM単価を5倍に引き上げなければ収益を保てない。もちろんこれは「プログラマティック枠売り」を前提としたシミュレーションに過ぎない。
昨年のテレビ広告界での話題はこの「プログラマティックTV(プランニング)」であったが、今年の米国4大テレビチャンネル局における最大の関心は「ブランデッド・コンテンツ」にシフトしている。「ブランド側に付加できる価値」を建前に、「ダイレクトセールス」の案件を掘り起こすのだ。
そのために局側が直面している大きな課題は「CM枠」「単価」「プログラマティックのセグメント作り」だけではない。「インタラクティブな技術を導入し」「さらにアドレサブルなダイナミック配信を行い」「ソーシャルとも組み合わせた」「プレミアム番組の中でのブランデッド露出を含めた価値計算(提案)」という付加価値型への変更に向けて、大口顧客との商談が続いているのだ。
たとえばFOXの場合、2015年からPepsiとともに、ドラマの登場人物が番組途中に挿入されるCMに登場する連動企画を実施。ドラマの合間のCMでドラマ主人公によるダンスや新曲が発表され、CM自体を楽しめるコンテンツへと変化させた。オンライン上でティザー露出が先発し「本番コンテンツはCMにて」という構図である。日本でもこの手法が登場し始めて、お馴染みだろう。
このPepsiのケースはテレビ局発による「ブランデッド・コンテンツ+エンターテインメント」とされている。ドラマ主人公によるダンスと新曲披露というオプション付きのドラマ3本分の契約で契約金約22億円(2,000万ドル)だった。結果はテレビ視聴者数1,350万人(年度のトップランク)、オンライン視聴者数920万人、視聴者層についても調査され、Pepsiの商品売上も比例して伸びた。
経営視点のポイントは「22億円」のプロジェクト決済が、CM定番のプログラマティックなプランニング(リーチやフリークエンシーを含む)に対して支払われたのではなく、タレントの設定からブランデッド・コンテンツを作り上げる企画力や交渉力のパッケージに対して、Pepsiが納得し局と契約をしたということだ。心理的なプレミアム感を売買する取引だ。
ブランドにとってインパクトのある「番組とブランド」との共存を図るアイデアが局側に働くことで、結果的に番組中のCMの分数は少なくなり、視聴者の番組に対する人気や印象がアップする方向性が見出せる。テレビチャンネル局の経営においても明るい道が作られそうだ。難点としては、企画から実施までの「手間ひま」が莫大にかかることだ。
今回のFOXによる「1時間に2分のCM枠」の公表は、直近のビジネスゴールとしては現実的ではないかもしれないが、業界の方向を示すインパクトとしては十分と言える。日本のメディア関係者は、対処すべきことへの示唆をここから読み取れる。
本コラムはデジタルインテリジェンス発行の『DI. MAD MAN Report』の一部を再編集して掲載しています。本編ご購読希望の方は、こちらをご覧ください。
